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米中デカップリングは本当に可能か

米中対立の我が国への影響

米国政府は日本政府に対して、高度半導体に関する中国への輸出禁止に協力する様に要請してきた様です。

急速に台頭する中国に経済覇権を脅かされていると感じる米国は、同盟国の日本やEUに対して中国への締め付けに同調する様に求めてきた訳です。

最終的に中国とのデカップリングにまで発展する動きなのでしょうか。

この問題について米紙ウォールストリートジャーナルが興味深い記事を掲載しました。

「An American Helped Build a Business Inside China. Clients Want Him to Leave.」(顧客に中国を離れる様要請を受けた米国人実業家)と題された記事かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

米国人ビジネスマン、ジェイコブ・ロスマン氏が、友人や家族とともに協力して中国で製造業を立ち上げるのに 20 年かかりました。

現在、49 歳の彼は、顧客が彼の会社の製品を中国以外の場所で製造してほしいと望んでいると語っています。

彼はそれが簡単ではないことを知っています。

中国本土に 6 つの工場を持ち、大規模なサービスを提供する Velong Enterprises Co. の共同CEOを務める彼は、「中国のような国はない」「スイスの時計のように機能するこのサプライチェーンを 30 年間かけて構築してきました。そのようなものは他にありません。」と述べます。

 

世界第 2 位の経済大国である中国への依存を再考し始めている企業にとって、中国からのデカップリングは時間がかかり、困難で、費用もかかるものです。

米中の対立は、何十年にもわたる経済統合を崩壊させる恐れがあります。

ワシントンの多くの議員は現在、特定の製品を米国で製造することを望んでおり、バイデン政権は中国への半導体輸出に新たな制限を課しています。

中国の指導者はまた、国内のサプライヤーにもっと依存したいと考えています。

パンデミックによってもたらされたサプライチェーンの混乱と、中国のロックダウンによって引き起こされた混乱は、両国間の関係をさらに緊張させました.。

米国企業による中国への投資は、パンデミックの前からすでに減速していました。

米国企業2012年の最高額である154億ドルを投資しましたが、昨年の投資額はわずか 84 億ドルに減少しました。

 

米国が中国から独立するのは容易ではないでしょう。

中国から輸入された商品の価値は、今年の最初の 8 か月間に米国の全輸入額の 17%を占めました。

トランプ政権が一連の中国製品に関税を課したため、2017年の22%から低下したにもかかわらず、これは他のどの国よりも大きなシェアでした.。

掃除機メーカーのルンバなど一部米国企業はその生産を中国以外の国に移し始めました。

上海の米国商工会議所の調査によれば、 300 社を超える米国企業のうち、現在 18% が世界の投資計画で中国を第 1 位にランク付けしていますが、2021 年の 27% から減少しています。

 

ロスマン氏が指摘した様に、中国からの移転は多くの問題をもたらします。

彼の会社はカンボジアに進出し、近年ベトナムとインドでの合弁事業に参入しました。

ロスマン氏は、メキシコとトルコも調査し、フィリピンの可能性も視野に入れていると述べています。

しかし、これらの国々には欠点があります。

カンボジアとベトナムは有望ですが、生産能力と人口の点ではるかに中国より小さく、ベトナムの工場はすでに過密状態で、利用できるスペースが限られています。

トルコは素晴らしいハイテク工場を有していますが、蔓延するインフレに悩まされており、コストと価格の管理に問題があります。

インドには大きな可能性がありますが、道路などの新しいインフラが必要だとロスマン氏は指摘します。

大規模で高度に整備された中国のインフラに太刀打ちできる国はありません。

適切な工場、人員、設備、原材料を揃えることは、「空母にジェット機を着陸させる」程に難しいことだと彼は指摘します。

 

ロスマン氏は、中国で物事がどのように機能するかを知るために何十年もの人生を費やしてきました。

彼は家業である カリフォルニアのほうきとモップのメーカーである National Broom Co. の製品の調達と開発を支援するために中国に赴きました。

猛勉強の末、流暢な中国語を話す様になりました。

彼は、多くの西洋人とは異なる方法で中国に溶け込もうとしました。

彼はシェラトンやウェスティンの代わりに地元の中国のホテルに宿泊し、ドライバーに頼る代わりにバスに乗り、見知らぬ人と会話を交わして語学力を向上させ、最終的に中国人女性と結婚しました。

ロスマン氏は中国人男性、陳氏とパートナーになった事で、更に中国にのめりこみました。

二人は新しい機械に投資し、何年にもわたって、ウォルマートを含む錚々たるクライアントを開拓しました。

同社の売上は、2021 年に約 1 億 6,000 万ドルという最高値に達しました。

 

彼は中国に対抗できる国はないと言います。

メキシコでは、グリルや屋外家具のカバーを作るのに必要な種類のプラスチックを手に入れることができません。

ベトナムとカンボジアでは、鉄鋼と、温度センサーなどの電子部品を入手する必要があります。

それらは全て中国から購入せざるを得ないと彼は言います。

 

中国と米国の間を何十年も行き来した後、ロスマン氏と妻は永住するつもりで上海に家を購入しました。

ロックダウンにより遅れが生じましたが、11月中に引っ越すことを望んでいます。

「ここを離れたくない。私はここで20年間の人生を費やしました。しかし、必要に応じて離れざるを得ません。」と彼は述べます。

おいそれと乗れない米国の要求

高度半導体はともかく日用品を製造しているロスマン氏の様な会社まで、中国から離れる様に求められているとは驚きです。

米国は、今の政権も前の政権も製造業の米国への回帰を目標としていますが、これはやりすぎの様に思います。

本当にこれをやろうとすると、高い人件費で作られたMade in USAの製品は、中国製に比べてはるかに高いものになるはずで、ただでさえインフレに苦しむ米国消費者を失望させる事は間違いありません。

今後、日本政府にも米国より強い圧力がかかってくると予想されます。

しかしこの対応は慎重に行った方が良さそうです。

日本にとって中国は市場としても生産基地としても最重要です。

一部の最先端の技術は別にして、他の分野まで米国の尻馬に乗る様な事は避けた方が良いと思います。

ドイツのショルツ首相がG7の首脳としては久しぶりに中国を公式訪問しましたが、彼らも政治と経済を区別して対応している様です。

したたかな外交が求められます。

 

最後まで読んで頂き有り難うございました。