サプライチェーンの見直し
昨年はロシアのウクライナへの侵攻、米中の緊張の高まりそして中国のコロナ政策の失敗により多くの工場が操業停止した事などがあいまって、世界の企業がサプライチェーンの見直しを余儀なくされました。
この動きに拍車をかけたのは、米国の保護主義でした。
膨大な補助金を投与して本国へ製造業を回帰させようとするその政策は、発展途上国だけでなく同盟国である欧州や日本などの反発を生んでいます。
この点について、英誌Economistが「The destructive new logic that threatens globalisation」(グローバリゼーションを脅かす新しい潮流)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
1945 年以来、世界経済は、アメリカが作ったルールに従って運営されてきました。
これにより、前例のない経済統合がもたらされ、成長が促進され、何億人もの人々が貧困から抜け出し、冷戦で西側諸国がソ連に打ち勝つことができました。
しかし、今日システムは危険にさらされています。
各国は、グリーン産業に補助金を出し、味方も敵も同様に製造業を自国に回帰させ、商品と資本の流れを制限しようと競い合っています。
相互利益よりも国益が優先されます。
ゼロサム思考の時代が始まりました。
バイデン大統領が自らの産業政策のために自由市場ルールを放棄したことは、新たな打撃を与えました。
米国は、グリーンエネルギー、電気自動車、半導体の国内生産に 4,650 億ドル(60兆円)に上る巨額の補助金を投入しました。
そして当局は、これまで以上に多くの輸出の流れを禁止しており、特にハイエンドの半導体や半導体製造装置の中国への輸出を禁止しています。
ワシントンの多くの人にとって、力強い産業政策は魅惑的です。
それは、国家の介入によって中国に対するアメリカの技術的優位性を確かなものにする可能性があります。
カーボンプライシング(炭素税の様なもの)は政治的に実行不可能であるため、クリーンエネルギーへの補助金は脱炭素化を促進する可能性があります。
しかし、それは、世界中で保護主義への危険なスパイラルを引き起こしました。
インドに半導体製造工場を建設すれば、政府は費用の半分を負担します。
韓国に建設すれば、寛大な税制優遇を受けることができます。
バッテリーの製造に必要な原材料を保有する国々は、輸出規制に注目しています。
インドネシアはニッケルの輸出を禁止しました。
アルゼンチン、ボリビア、チリはまもなく、リチウム生産について、OPEC スタイルで協力する可能性があります。
中国との経済対立はますます避けられないように見えます。
今世紀の初めに、中国が世界経済に統合されるにつれて、中国がより民主的になるだろうと民主主義国は予測しました。
その予測が外れた事と、100 万の製造業の雇用が中国の工場に移ったこととが相まって、米国のグローバリゼーションへの熱は一気に冷めてしまいました。
民主党も共和党も同様に、高度な半導体製造における米国のリードが台湾に奪われたことで、人工知能を開発する能力が損なわれるのではないかと懸念しています。
彼らは、将来の軍隊は人工知能に基づいて戦略を計画し、ミサイルを誘導するようになると予測しています。
米国への製造業回帰は、経済的耐性を高め、軍事的優位性を維持でき、一方で世界覇権を握る米国は同盟国の不満を抑え込めると多くの人が考えている様ですが、この考え方は間違っています。
現実には、彼らがアメリカの産業を作り直したとしても、それは、世界の安全保障を侵食し、成長を抑制し、環境への移行コストを引き上げることによって害を及ぼす可能性が高いのです。
問題の 1 つは、追加の経済的コストです。
Economist は、世界のハイテク ハードウェア、グリーン エネルギー、およびバッテリー産業における企業の累積投資を再現するには、3.1 兆ドルから 4.6 兆ドル (世界の GDP の 3.2 から 4.8%) の費用がかかると見積もっています。
それは物価を上昇させ、貧しい人々に最も大きな打撃を与えます。
歴史は、莫大な公的資金の投入が無駄になる事を教えてくれています。
もう一つの問題は、同盟国の怒りです。
第二次世界大戦後の米国が優れていたのは、その利益が世界貿易の開放が国益に沿ったものであることに気づいたことでした。
その結果、1960 年までに世界のGDPシェア の 40% 近くを占めるまでになった米国は、グローバル化を追求しました。
今日、その世界シェアは 25% にまで落ち込み、アメリカはこれまで以上に友人を必要としています。
中国の半導体メーカーへの輸出禁止は、オランダの企業ASMLと日本の東京エレクトロンの協力なしには機能しません。
アメリカの保護主義はヨーロッパとアジアの同盟国を苛立たせています。
アメリカはまた、新興大国を味方につける必要があります。
2050 年までに、インドとインドネシアは世界第 3 位と第 4 位の経済大国になるとGoldman Sachs は予測しています。
どちらも民主主義国ですが、アメリカの親しい友人ではありません。
アメリカが自国市場への十分なアクセスを提供せずに中国との取引を制限する様に他国に要求すれば、彼らに拒絶されるでしょう。
最後の懸念は、経済競争が激化すればするほど、グローバルな協力を必要とする問題の解決が難しくなることです。
アメリカが1990年代に戻るとは誰も期待していません。
軍事的優位性を維持し、重要なサプライソースを中国に危険に依存することを避けようとするのは正しいことです。
しかし、これにより、他の形態のグローバル統合がますます重要になります。
それぞれの価値観を考慮して、各国間で可能な限り深い協力を求めるべきです。
例えば、アメリカは環太平洋パートナーシップのための包括的かつ先進的な協定(TPP11)に参加すべきです。
アメリカの政治が保護主義に転向していることを考えると、グローバリゼーションを救うことは不可能に思えるかもしれません。
しかし、ウクライナに対する議会の支援は、有権者が閉鎖的ではないことを示しています。
世界秩序を救うには、ゼロサム思考を再び拒否する、より大胆なアメリカのリーダーシップが必要です。
システムが完全に崩壊し、数え切れないほどの生活に損害を与え、自由民主主義と市場資本主義の大義を危険にさらす前に行動を起こす必要があります。
もうあまり時間はありません。
米中対立の狭間で日本は
バイデン政権は、アメリカファーストなどと正面から同盟国を脅す様なやり方をしたトランプ前政権と違い、同盟国との連携を重視すると主張しています。
しかし米国の国益を押し付けるという点では前政権と何ら変わりなく、むしろより巧妙な様な気がします。
訪米した岸田首相を厚遇したのもその作戦の一つと思いますが、米国の本音は日本と中国の仲を裂こうというものだと思います。
世界覇権の維持を狙う米国としては、先端技術を持つ日本が中国に近づかれては困るので、当然の策と思いますが、日本政府も米国の言いなりになるのではなく、今こそしたたかな外交を展開すべきと思います。
安全保障面で米国は我が国のパートナーですが、中国は最大の貿易相手です。
経済面での絆を深めることが紛争の防止策になつた例は過去にいくつもあります。
うかつに米国一辺倒になることは避けた方が得策だと思います。
最後まで読んで頂き、有難うございました。