トランプ大統領の思惑
ウイグル人権法案にトランプ大統領が署名を行ないました。
この法案は、米国議会の超党派の議員により広く支持を受けた法案でしたので、トランプ大統領が署名するかどうか注目が集まっていましたが、最終的に署名を行った様です。
昨日のブログでも触れましたが、今回の大統領選では、中国が最重要争点になると予想されています。
今や、大統領選は、中国に対していかに強硬派であるかを見せ合うコンテストの様相を呈してきましたので、トランプ大統領は署名をためらうわけには行かなかったのでしょう。
大統領がウイグル人に対して、真剣に同情しているとは思っていません。
ウイグル人権法が成立した事は、中国で苦しんでいるウイグルの人たちに日が当たる意味では良かったと思いますが、この問題が、米中の政争の具として扱われている事も忘れてはなりません。
ウイグル人はトルコ人の兄弟
ウイグルの問題について簡単にご説明したいと思います。
ウイグル族は中国の西北部、新疆ウイグル自治区に、約1千万人が暮らしていると言われています。
現在、中国政府の厳しい弾圧にさらされており、百万人ものウイグル人が、中国側の名称では「再教育教習所」実際は、強制収容所に収容されていると言われています。
成人男性の多くが収容所に連行された理由は、中国政府がウイグル人の人口を抑制しようとしているのではないかと言われています。
言語の繋がり
私も、イスタンブールでトルコ語の学校に通っていた頃、中国から逃げてきたウイグル人たちと知り合いになりました。
彼らは一様に、中国政府を批判していましたが、独特の強いアクセントがあるものの、非常にトルコ語がうまいのに驚きました。
うまいのは当たり前で、彼らの母語であるウイグル語はトルコ語の親戚なのです。
トルコ語もウイグル語も、チュルク語系の言語です。チュルク語系の言語には、他にも、アゼリ語、トルクメン語、カザフ語、ウズベク語、キルギス語などがあります。
今のトルコ人は元々、ユーラシア大陸の草原地帯の騎馬民族が西に流れていって今のトルコに住み着いたと言われていますので、ウイグルも中央アジアもトルコも皆、血が繋がり、言葉や文化を共有しているという事なのだと思います。
宗教の繋がり
トルコとウイグルの人たちの間には、もう一つ共通項があります。それはイスラム教です。
この宗教の問題も共産主義政権の中国では問題視され、弾圧を受ける理由となっている様です。
トルコ政府のウイグル問題に対する対応の変化
トルコ政府は、同じチュルク語系の言葉を話す民族として、そしてイスラムの同胞として、ウイグルの問題に関しては、伝統的に中国に厳しい態度を取ってきました。
ちょっと古い話ですが、1954年、トルコの首都アンカラに、ウイグル人が中国からの分離独立を目指す「東トルキスタン亡命者協会」を作った事は、この問題におけるトルコ政府の姿勢を示す象徴的な出来事でした。
以来、トルコ政府は、トルコ国民の兄弟とも言えるウイグル族を支援してきました。エルドアン大統領も、首相時代の2009年に、ウイグル人の大規模蜂起に対する、中国政府の弾圧に対して、「大量虐殺の様だ。」と非難しました。
昨年2月には、トルコ外務省は「ウイグル人に対して中国政府がとっている組織的な民族同化政策は人類の恥だ。」とまで厳しい口調で中国政府を批判しました。
しかし、最近、その舌鋒は鋭さを失ってきた感があります。
昨年7月エルドアン大統領が北京を公式訪問した際に、「ウイグルの人たちは、中国の経済発展の下、幸福に暮らしている。」と発言したと中国メディアは伝えています。
これは中国の国営通信社の報道ですから、エルドアン大統領のリップサービス的発言を中国側が、自分の都合の良い様に伝えた感もありますが、ウイグル問題に関するトルコ政府の態度が変化しつつあるのは確かです。
トルコと中国の経済的結びつき強まる
ここにきて、中国政府に対する批判のトーンが鈍ったのは、やはり経済が背景と思われます。
今まで、中国に対して、イスラム系の国で、ウイグルの問題に対して、中国をあからさまに非難したのは、トルコだけです。何故なら、中東の産油国は、中国が大のお得意さんですので、首根っこを抑えられていますし、エジプトやパキスタンなど非産油イスラム国は、中国から大型経済援助を受けており、中国の意向に逆らえません。
トルコは、中国と経済的しがらみがなかった事から、中国に対して批判を続けてきた訳です。
しかし、トルコにおいても、ここのところ、中国の存在感が増してきています。貿易面では、ドイツ、ロシアに次ぐ第三の貿易相手国になっていますし、2018年の中国の直接投資は28億ドルにも上っていると言われています。
一帯一路を進める上で、鍵を握る国トルコ
中国にとっても、トルコは、戦略的に非常に重要な国です。
一帯一路の世界戦略を進める上で、トルコが中国に味方するか否かは死活的に重要です。
トルコはNATOのメンバーでもあり、その影響力はバルカン半島だけでなく、中央アジア一帯、中東にも及びます。
このトルコを中国側に引き込む事が出来れば、ドミノの様に周辺一帯を中国色に染める事が可能になるのです。
まずい事に、トランプ政権のアメリカ ファースト路線により、米国はトルコの製品に高額の関税をかけようとしています。トルコと米国の間にすきま風が吹いているのを中国が見逃すはずはありません。
まだ、遅くはありません。自由主義陣営が、再度結束を取り戻す事は可能です。
トルコ国民の一般感情は、トルコ民族の兄弟であるウイグル人をいじめている中国はけしからんという声が圧倒的です。
新冷戦において重要な国として、ドイツ、インドを挙げましたが、トルコも同じ様に重要です。
NATOのメンバーとして、唯一、イスラム教徒が国民の多数を占める国トルコが、今後、どちらの陣営に所属するかは、トルコだけでなく、周辺地域の運命を大きく左右する事になると思います。
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