米産業界の巨人GE赤字に転落
GE(General Electric)が第二四半期(4-6月)2,200億円もの赤字に転落しました。
同社は20世紀を代表する企業であり、1981年から2001年まで同社のCEOを務めたウエルチ氏が退任する前年2000年には、時価総額が4,750億ドル(約50兆円)に達し、世界一位に躍り出ました。
当時、ウェルチ氏は世界で最も称賛された企業経営者であり、日本でも彼の著作や言動に注目が集まりました。
20年も経たないうちに、同社は転落の坂道を転がり落ちました。一体何が起きたのでしょうか。
この点について、本日英誌「Economist」が「The downfall of America’s industrial giant is a cautionary tale for all big firms 米産業界の巨人の没落は全ての大企業に警鐘を鳴らす。」と題して、興味深い分析を行いましたので、かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
ウォールストリートジャーナルの二人の記者Thomas Gryta とTed Mannは、彼らの著書「Lights Out」の中で、GEの過去40年を振り返り、同社の没落の原因を導き出そうとしました。
フラナリー氏が2017年にイメルト氏からCEO職を引き継ぐ直前に語った「GE以上のサクセスストーリーはありません。」この言葉が同社の失敗の原因を本質的に表わしている様です。
同社の経営者は知らず知らずのうちに、自己の能力を過信し、傲慢になり、会計規則を自己流に解釈する様になったと分析しています。
ウェルチ時代
先ず、ウェルチ氏がその基調を作りました。
彼の任期はAT&Tの様な巨大コングロマリットが分割される時期に重なっていますが、GEは経営陣が優秀だから、「Too big to manage」(会社が大きすぎるとうまく経営できない)という法則の例外であると投資家を確信させました。
彼は不採算部門を閉鎖し、1,300億ドル(13.6兆円)相当の、1,000社にも及ぶ会社買収を行いましたが、何と言っても彼の最大の仕事はGE Capitalの創設でした。
GEの産業部門の力により、GEはトリプルAの格付けで資金を調達する事が出来、高い株価のおかげで、株式交換という手法で、現金を使わずに企業買収を行う事が出来ました。
これによってウェルチ氏の高い経営目標の達成が可能になりました。
しかし、そのGE Capitalが会社の足を引っ張る事になります。
イメルト時代
イメルト氏に経営が引き継がれた直後、エネルギーの巨人であるエンロン社に関する調査によって、GEが収益を大きく見せかける会計手法をとっていた事が明るみに出ます。
イメルト氏はリーマンショックまでにこの問題を解決できず、大きな痛手をこうむります。
彼は、中核事業である飛行機エンジン、電力部門、医療機器への回帰を目指し、2015年にGE Capitalの殆どの事業売却を行いました。
しかし同じ年、競争相手であるフランスのAlsthom社の電力事業を100億ドル(1兆円)もの高値で買収するという大きな失敗を犯してしまいます。
この買収が理由で、キャッシュフロー上の問題を引き起こし、イメルト氏の後任のフラナリー氏は就任から14ヶ月も経たないうちに職を追われてしまいました。
この本の中では、メーカーである事よりも投資家へのアプローチを重視したとしてイメルト氏が最も非難されています。
彼は、GE Digitalを設立し、GEはありふれたメーカーでは無く、デジタル革命家であると市場を説得しようとしました。
実のところ、彼は新鮮でエキサイティングなものはほとんど思いつきませんでした。
彼は石油やガス分野といった時代遅れの企業にお金を浪費し、自社株買いを通じて、資金を費やしました。
彼が出張に出る時は、従者も含めてプライベートジェット機2機を要しました。
GEの失敗から学びとるもの
GE程の巨大企業の没落の責任を、一人或いは複数の社長たちに転嫁するのは危険です。
GEが犯した失敗は、どこの企業でも起こりうるからです。
大企業が起こしやすい失策とはどんなものでしょうか。
先ずは企業の規模です。投資家たちは企業が大きければ大きいほど評価します。
しかし、企業が複雑になれば、現場と経営者の間の距離は大きくなり、現場の出来事を容易に覆い隠す事が可能になります。
二番目にアメリカの会長がCEOを兼務する制度です。
この制度のもとでは、会社破滅の危機がある場合でも、部下や取締役が異議を唱える事が難しくなります。
三つ目に挙げられるのは、株式市場における神話です。
GE Digitalの責任者であったコムストック氏は、わかりやすい話を何度も何度も投資家に吹き込むという手法を取りましたが、投資家のみならず、我々メディアもこの手法に騙されやすいのです。
GEを新進気鋭のスタートアップに見立てる様な風潮がありましたが、本来注目すべきだったのは、GEのアキレス腱であった電力分野だったのです。
企業の運命は内部要因だけで無く、外部要因にも左右されます。GEの業績はもちろんインターネット、中国の台頭、金融危機、再生可能エネルギーなどに左右されました。
しかし7月29日発表された第二四半期の結果は、最も収益性の高い部門だった航空機エンジン部門がコロナの影響で大きな赤字を出したことを明らかにしました。
企業が歳をとるにつれ、外部環境の変化は企業をすり減らします。
それを未然に防ぐためには、自分の得意な分野を強化し、企業をスリム化するしかなさそうです。
GEの失敗が教える事
GEは長い間、世界に燦然と輝くサクセスストーリーで、ビジネスマンたるものGEをお手本として勉強すべしと教わってきました。
特にウェルチ氏は経営の神様的な存在でしたが、経営者の評価というのは、少し時間をおいて見ないといけませんね。
彼が撒いた種が、結果的に、現在GEを苦しめているわけです。
彼は20年もの間、CEOを務めましたから、その間にGE社内では、誰も彼にものが言えなくなってしまい、彼の周りは皆イエスマンになった事が推測されます。
彼の後任のイメルト氏も16年やりましたから、同じ様な環境が生まれていたと思います。
政治の世界もビジネスの世界も、一人の人間が長く留まると、必ず長期政権の膿みが出てきます。
地位に汲々とせず、後輩に道を譲るのは大変難しいこととは思いますが、潔く後進に道を譲ったケースもあります。
ホンダの創始者である本田宗一郎氏は、1973年本田技研工業の社長の座を突然、後輩に譲りました。潔い引き際を貫いた同氏は、随筆で次の様に述べています。
元気のいいのは結構だが、やはり年齢にふさわしいこととそうじゃないことがある。