バイデン政権誕生が引き起こした独仏間の論争
バイデン 政権の外交チームの顔ぶれが固まりつつありますが、彼の政権は同盟国なかでも欧州との関係修復に力を入れることが予想されます。
しかし、このバイデン 政権の方針は、海の向こう側でフランスとドイツの間に大きな論争を巻き起こしている様です。
フランスは米国に安全保障を依存する現在の体制に満足せず、欧州独自の防衛体制を拡大しようとするのに対して、ドイツは現状を大きく変更することに抵抗している様です。
EUの中核とも言えるこの2国間の論争に関して、英誌Economistが「The imminent Biden presidency reawakens Europe’s defence debate」(バイデン政権の到来は欧州の防衛に関する論争を引き起こした)と題して、記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
マクロン大統領は論争を躊躇しません。
ドイツの防衛大臣であるカレンバウアー氏に対するフランス大統領の批判は厳しいものがありました。
今月初め、彼女は「ヨーロッパの戦略的自治の幻想は終わらせなければなりません。」 と述べました。
「戦略的自治」はマクロン氏の欧州構想の目玉であるため、彼は躊躇しませんでした。
彼女の見解を「歴史的な誤解」と呼び、次の様に指摘しました。
「私が物事を正しく理解しているのであれば、メルケル首相はこの見解を共有していません。」
通常、リーダーは意見の不一致を個人的なものにすることを避け、非公開でそれらを処理しようとしますが、今回は論争は公開されました。
バイデン氏がアメリカ大統領に就任する準備をしている時、ヨーロッパが自分自身を守るためにどこまでやるべきか、あるいはできるかについて、欧州連合内の古い亀裂を露呈しました。
トランプ大統領の下で、マクロン氏はヨーロッパの議論を彼の狙っている方向に向ける事に一度は成功しました。
NATOへの軽視を隠そうとしないアメリカの大統領は、ヨーロッパの心が一つになるのを助け、アメリカの安全保障の信頼性についての懸念を促しました。
軍事力の面では、ヨーロッパの防衛はまだ大した事はありません。しかし、フランスとドイツは欧州がこの面で行動を起こす必要があることに同意しています。
ドイツの防衛費は、フランスよりもGDPのシェアは小さいものの、2015年以降着実に増加しています。
世論調査では、51%のドイツ人はヨーロッパはアメリカからより独立して成長すべきだと回答しています。
では、なぜフランスとドイツは食い違っているように見えるのでしょうか。
マクロン氏は、アメリカにヨーロッパからの撤退を要求したり、NATOが「不必要」であることを示唆したりしていません。
彼は、ヨーロッパの防衛を強化することを、トランプ政権以前に起きた米国のアジアシフトへの対応と見なし、それがNATOにとって「補完的」であるべきだと強調しています。
意見の食い違いは、部分的に言語に起因しているかもしれません。
マクロン氏は、「ヨーロッパの主権」と「戦略的自治」をほぼ同じ意味で使用しており、時にはより広範な産業的、技術的自立をカバーしています。
多くのドイツ人は、マクロン氏が「戦略的自治」を強調することに抵抗しています。
フランスの意図について、ベルリン(およびEUの他の国々)にも根強い不信感があります。
一部の当局者は、マクロン氏を、フランスの利益をヨーロッパの旗で包む古いスタイルのドゴール主義者と見ています。
彼がNATOを弱体化させ、ヨーロッパにおけるアメリカの影響力をフランスに置き換えようとしているのではないかと疑っています。
他の人々はマクロン氏の精力的な活動を評価していますが、リビアや東地中海で最近見せたフランスの動きのように、彼の独断的な行動に呆れており、時には逆効果であると感じています。
とりわけ、両国の防衛文化のギャップを埋めるのは非常に困難です。
フランスには軍事介入と遠征軍の使用の伝統があります(そして核兵器を誇っています)。
一方、ドイツの軍事自制の文化は相変わらず強く、政治家は国民から軍事に対する理解を取り付けるのに苦労しています。
フランスはヨーロッパの南からの脅威を重視しますが、ドイツは東を向いており、大西洋を越えた安全保障の結びつきが弱まっていることをほのめかしているマクロン氏に対して懐疑的です。
ヨーロッパ人が自分たちの防衛のために「もっとやる」必要性を受け入れる場合、彼らはこれが何を意味するかについてまだ同意していません。
ヨーロッパ人は、アメリカの大統領が誰であるかに関係なく、彼らが必要とする能力と時期、そして彼らに支払う方法を考え出さなければなりません。
ドイツのしたたかな戦略
ドイツは第二次世界大戦の敗北後、東西に分割され、ナチスの戦争犯罪は厳しく糾弾されました。
しかし、冷戦が始まったおかげで、米国の安全保障の下、急速な経済成長を遂げる事ができました。日本が米国の庇護の下、軽武装経済重視で経済成長したのと同じパターンですね。
ドイツは、そう簡単に軍備強化には走らないと思います。
ナチスの戦争犯罪に対する自責の念があるのも一因ですが、NATOの下での安全保障は軍事支出が抑えられ好都合だと彼らは内心思っている筈です。
ドイツ人は、米国は出しゃばらない程度におだてて、警察官の役割を果たしてもらった方が良いと実利的に割り切っているのではないでしょうか。
これは欧州人の賢い知恵で、日本も学ぶべきと思います。
バイデン政権は中国とロシアに敵対しようとしています。
これは日本、ドイツ両国にとって米国の援助を得やすいフォローの風が吹いていると言えるでしょう。
ドイツ、日本にとって、東西冷戦は正に神風でした。
再び神風が吹こうとしているわけですから、この風に乗らない手はありません。
但し、米国は政権が変わると政策が一変するリスクがありますので、自らの安全保障については長期的視野でしっかり計画を立てて置く必要はあります。
最後まで読んで頂き、有り難うございました