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コロナ対策にもたつくEUが抱える本質的な問題

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コロナ第三波に襲われたEU

EUと英国のワクチンを巡る対立は今も続いている様です。この問題はEUが加盟27国に必要なワクチンを一括購買する権限を欧州委員会に与えた事から始まっています。

欧州委員会はワクチンの早期確保よりも価格の安さに重きを置いたために、英米に先を越されました。

ファイザーやアストラゼネカといったワクチン製造会社は民間企業ですので、当然高く買ってくれる国に優先権を与えます。

英国がEUより高値で買ってくれるため、アストラゼネカが欧州で製造するワクチンが英国に流れているのをEUは指をくわえて見ていた訳です。

EUは自国に十分なワクチンが確保できなくなったため、EUで製造されているワクチンの輸出禁止措置を発表しましたが、経済原理を踏みにじっているとの批判を浴びています。

今も、コロナの感染者数が再拡大しつつあるEUに何か構造的な問題があるのでしょうか。

英誌Economistが「How Europe has mishandled the pandemic」(欧州はどの様にコロナ対策を間違えたのか)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

新型コロナの世界的感染によって引き起こされた荒廃を地域ごとに良く見てください。

欧州連合は豊かで、科学的に進歩しており、優れた医療および福祉システムに恵まれています。

しかし、パンデミックの間、大きな挫折を経験しました。

死者の数では、EU全体の成績は英国やアメリカよりも悪くなく、10万人あたり138人が記録されています。

しかしハンガリー、チェコ、ベルギーは英米よりも悪い結果を示しています。

EUは現在致命的な変種によって感染者の再拡大の波に見舞われています。

これは、ヨーロッパのワクチン接種率が低い事が原因ではないかと見られています。

英国の成人の58%アメリカ人の38%がワクチンを摂取したのに対して、EU市民はわずか14%でした。

ヨーロッパ諸国はまた新型コロナからのもう一つの回復基準である経済復興においても遅れをとっています。

2020年の最終四半期にアメリカは4.1%の年率で成長していました。

全体主義の厳格さでウイルスを押さえ込んだ中国では、成長率は6.5%でした。

ユーロ圏では、経済は成長どころか縮小しました。

彼らの対応はどのように間違っていたのでしょうか?

 

ヨーロッパの問題の一部は人口動態です。

EUの人口は高齢化し、病気にかかりやすくなっています。

混雑した都市など他の要因も、ヨーロッパ人をウイルスに対して脆弱にする可能性があります。

EUの大きな特徴の1つである国境を越えた移動性は、ウイルスに有利に働きました。

ンデミックが緩和されたときに、誰もそれを抑制したくないでしょう。

 

しかし、ヨーロッパの問題の一部は政治です。

EUの創設を唱えたフランスの外交官、ジャン・モネは、「ヨーロッパは危機に瀕した際に団結する」との有名な発言を行いました。

事態が最悪の場合、それらの言葉は、EUが敗北の淵から勝利を奪うことを示唆するために使われます。

確かに、ユーロ危機の間、欧州中央銀行(ECB)は新しい政策でEUを危機から救いました。

 

ただし、モネの言葉は自己満足の源でもあります。

1990年代のユーゴスラビアでの内戦は、「これはヨーロッパの問題です」という宣言につながり、何年にもわたる大虐殺が続きました。

欧州委員会に4億5000万人分のワクチンの一括購入の権限を与えるという昨年の決定は、大きな問題を引き起こしました。

EU27か国の研究事業とワクチンの事前購入のための資金をプールすることは理にかなっています。

しかし、EUの官僚機構は契約交渉で大きなミスを犯しました。このプロジェクトは、主にEU委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエンによって処理されました。

彼女は、彼女の帝国を拡大する決定を「ヨーロッパのサクセスストーリー」と呼びました。

 

彼女のチームは価格に焦点を合わせすぎ、供給を確保することを軽視しました。

彼らは、ワクチンが害を及ぼす場合の責任について無意味な検討を行いました。

その後の論争、ワクチン輸出禁止の脅迫は、委員会の評判を回復することよりも、予防接種への信頼を損なうことになりました。

彼女がまだ国の政府のメンバーであったならば、そのポストにとどまることは難しかったでしょう。

 

ヨーロッパは経済的にも劣後しています。

パンデミックを利用して、「欧州復興基金」と言われる新しい基金を創設をすることにより、制度は進歩を遂げました。

7500億ユーロ(8800億ドル)の価値があり、これは主にそれを最も必要としている弱い国を対象としています。

資金の半分以上はローンではなく助成金であり、国債への影響を軽減しています。

また、EU加盟国全体が連帯責任を負い債務を調達することによって支払われています。

それは、資金調達と各国政府の信用力との間のリンクを断ち切るメカニズムを生み出すので、歓迎されました。

ただし、ワクチンと同様に、欧州復興基金の実行は遅いだろうと信じられています。

来年末までに、払われるのは資金の4分の1だけでしょう。

 

このスピードの欠如は、大きな問題です。

ヨーロッパ経済の根底にある怠慢です。

新しい資金があっても、EUの予算は次の7年間のGDPのわずか2%を占めるのみでしょう。

通常GDPの約40%を費やしている国レベルでは、政府は支出に関して非常に慎重になっています。

 

その結果は深刻なものになるでしょう。

2022年末までに、アメリカの経済は2019年よりも6%大きくなると予想されています。対照的に、ヨーロッパはパンデミック前よりも生産量が増えるとは考えられません。

確かに、トランプ時代の4兆ドルそしてバイデンの1.9兆ドルの景気刺激策は、経済を過熱させるリスクがありますが、ヨーロッパはそれとは真逆の状態にあります。

2021年の財政赤字は、平均してアメリカが計画しているものの半分です。

欧州中央銀行の金融活動のおかげもあり、欧州政府にはさらに多くのことを行うための財政的余地があります。

彼らはそれを使うべきです。

 

欧州大陸全体で、パンデミックの間、欧州懐疑論は衰退しており、マッテオ・サルヴィーニやマリーヌ・ル・ペンのようなEU懐疑派の政治家も、彼らの論調を変えました。

しかし、EUは、危機に適切に取り組むことができないため、中国やアメリカに遅れをとっています。

EUの抱える問題はEUの解体を招きかねない

Economistはワクチンを巡って激しくやりあっている英国のメディアですから、かなり辛辣にEUを批判していますが、真実を突いていると思います。

EUという27か国の緩い結合は、本質的に迅速で果敢な決断を行うことが不得手です。

欧州復興基金も一ヵ国でも批准しなければ、実行されないわけで、この全会一致ルールが有る限り、国連の安保理の様に、効率的な運営は望めません。

コロナの様な危機に対して、これは圧倒的に不利です。

今後欧州各国はその英知を集めて、この欠点を補おうとするでしょうが、英国が離脱した様に、この緩い連合体から離脱する国が今後出てくる可能性は決して低くありません。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。