重要性を増すインド
米中対立の構図が深まる中で、米国が最も注目しているのはどの国でしょうか。
もちろん我が国は東アジアにおいて重要ですが、それはインドではないかと思います。
インドは昨年、ヒマラヤの国境地帯において中国と激しい武力紛争を起こし、両国関係が急速に悪化しました。
敵の敵は味方と見た米国はインドにすかさずアプローチし、日豪とのクワッドに誘い込みました。
最近では中東版クワッドともいうべき米、イスラエル、UAEとの取り組みにも参加させました。
このインドに関して米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)が社説で「What New Delhi Needs to Stand Up to Beijing - The border clash hasn’t gone China’s way, but it’s also revealed the weakness of the Indian economy.」(インドが中国に立ち向かうために必要なもの - 国境の衝突は中国に有利に進んでいませんが、一方でインド経済の弱点を明らかに)と題した社説を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
WSJ社説要約
昨年、ヒマラヤの中国との国境地帯での武力衝突で、インドは負けはしませんでしたが、中国の前進を撃退することもできませんでした。
インドはその過ちから学ばなければ事態が悪化する可能性があります。
インドの積極的な対応は、おそらく中国にとって予期せぬものでした。
インド政府は経済的に反撃し、TikTokやWeChatなどの中国のアプリを禁止しました。
インドはまた、公共調達契約への中国の参加を制限し、HuaweiとZTEをインドの5G試験から締め出しました。
それは、インドの技術産業への中国の投資を抑制し、中国への依存を減らすことにより、輸入を国内生産に置き換えることを目的としました。
インドはまた、以前より中国に対して敵対的な外交姿勢をとる様になりました。
インドは、中国政府の覇権的な野心と戦うという明確な目的を持って、米国とその同盟国である日豪と緊密に協力し始めました。
シンガポールの中国外交政策の専門家である李明江氏は、インドと米国との関係が深まっていることについて、「これは中国政府が望んでいたことではない、彼らは逆のシナリオを望んでいたと思う」と述べました。
しかし、これによって戦況は変わっていません。
インドは中国に武力衝突の前に戻るよう説得することができませんでした。
インドは緩衝地帯の一部を中国に譲渡することによって「苦い薬」を飲むことを余儀なくされました。
こうなったのは、インドが経済を迅速に自由化できなかったことに起因しています。
1990年まで、インドの1人当たりの国内総生産は中国を上回っていました。(それぞれ374ドルと347ドル)
今日、中国の1人当たりGDPは12,000ドルで、インドの5倍以上です。
1979年以降、中国は、共産主義によって貧困に陥っていた経済において、市場の力がより大きな役割を果たすことを容認しました。
インドも経済改革を採用しましたが、1991年になって初めてであり、2004年に自由化の勢いが失われた後、遅いペースに留まっています。
いずれの主要政党も、経済生産性の向上より福祉に重点を置きました。
その結果、今日の中国の2500億ドルの軍事予算は、インドの約3.5倍になっています。
それでも、国境紛争は中国にとって良い結果をもたらしていません。
ニューデリーが30年前に経済の自由化を開始して以来、中国企業が今日のインドではるかに厳しい状況に直面していることは間違いありません。
グローバルリーダーになる為にインドの巨大な市場に目を向けたハイテク、通信業界の会社は、彼らの野心を実現するのは困難です。
重要な点は、習近平氏がヒマラヤ山脈の国境地帯で招いた偶発事故が、中国に打撃を与える形でアジアの地政学を根本的に変えたことです。
2年前、米国との戦略的関係の強化についてインドは今よりずっとためらいがちでした。
インドの人々は中国よりも、伝統的に敵対するパキスタンを警戒していました。
中国との貿易、文化関係を拡大し、国境問題を保留にすることが理にかなっていると主張するインド人の専門家や外交官を見つけるのは難しいことではありませんでした。
それがいまでは遠い過去の歴史のように感じられます。
米国からみると、中国政府は自ら災難を招き寄せたように思われます。
中国はセンシティブな地域であるチベット国境地帯で自ら新たな問題を作り出し、米印関係に新たな弾みを与えました。
「クアッド」は、インド太平洋における米国の政策で中心的存在となっています。
4カ国の艦船は10月、2年連続でベンガル湾での合同演習を行いましたた。
インドはこの数カ月間に北京を射程範囲に収める核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルの実験を行ないました。
しかし、インドの観点からみると、国境を舞台とする対立はありがたくない現実を認識させるものとなっています。
インドは中国に対抗しましたが、自国経済が今よりも競争力を持っていたならば、ずっとうまく対応できたはずです。
インドが中国の領土侵入を阻止したいのであれば、自国の軍事力にもっと多くの投資が必要でしょう。
そのためには中国との経済力の格差を埋める必要があります。
高まるインドの重要性
インドは重要です。
インドが中国と組めば、世界の半分とは行きませんが、それに近い市場を形成する事になります。
地理的にもインド太平洋の枢要部を占めており、地政学的に重要です。
中国はインドの市場を抑えて更に強大になろうと目論んでいたのでしょうから、そのインドが米国側に回ったのは大きな誤算だったでしょう。
しかし、インドもしたたかですから、米国の従順な駒に留まる筈がなく、その立場を利用して米国に揺さぶりをかけてくると思います。
米国は対中戦略上不可欠な駒としてインドにかなり譲歩せざるを得ないでしょう。
いずれにせよインドは今後注目です。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。