急成長が見込まれるビジネス
地球温暖化の本当の理由をめぐっては様々な議論がある様ですが、世の中の大勢はコストをかけてもこの問題を解決しようという方向に動いている様です。
そんな中、二酸化炭素除去ビジネスに大きな関心が集まっている様です。
この点に関して英誌Economistが「Can carbon removal become a trillion-dollar business? Quite possibly—and not before time」(炭素除去ビジネスは1兆ドル規模の事業になりうるか。十分可能性があり、それもそんなに遠い話ではない)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要約
アメリカの石油会社オクシデンタル・ペトロリアムと、カナダのベンチャー企業であるカーボン・エンジニアリングはテキサス州の油田地帯の一角ノートリーズに世界初の商業規模の「直接空気回収」(DAC)プラントの建設に着手しました。
樹木のように、DACは空気から二酸化炭素を吸収し、それを濃縮して、何らかの用途に利用できるようにします。
自然の場合、二酸化炭素の用途は光合成ですが、 DACの場合、飲み物に炭酸を加えたり、温室で植物の成長を早めたり、より多くの原油を搾り出すために地下の油層に二酸化炭素を注入したりするなどします。
しかし、ノートリーズ工場が2025年に完全稼働すれば、毎年回収する50万トンのCO2の一部は、気候変動との戦いというより壮大な目標のために使われる事になります。
なぜなら、人工的に隔離された二酸化炭素はおそらく無期限に隔離されたままになるからです。
自社の炭素排出量の一部を相殺したい企業は、DACの事業者から排出権を購入する事になります。
これが新しい産業DACを生み出す事に繋がります。
カーボン・エンジニアリングなど世界中の多くの新興企業が民間資本を引き付けています。
オクシデンタル社は、2035年までに100の大規模DAC施設を建設する計画を立てています。
他の企業は、発電所や産業プロセスで生成される二酸化炭素を大気中に入る前に除去しようとしており、これは二酸化炭素回収・貯留(CCS)として知られるアプローチです。
エクソンモービルは4月、新たな低炭素部門の野心的な計画を発表しました。
同部門の長期目標は、排出削減が難しい鉄鋼やセメント部門などの顧客にサービスとして脱炭素化を提供することです。
同社は、この分野が2050年までに世界で年間6兆ドルの売り上げを上げられる可能性があると考えています。
パリ気候協定に従って、世界が地球温暖化を産業革命以前の水準より2℃に抑えようとすれば、再生可能エネルギー、電気自動車、その他の脱炭素化技術は十分ではありません。
CCS や DAC などの「マイナス排出源」が役割を果たす必要があります。
アメリカのエネルギー省は、国の気候変動目標では、2050年までに年間4億トンから18億トンのCO2を回収し、貯蔵する必要があると計算しています。
これは現在の2,000万トンと比較するとかなり大きな数字です。
エネルギーコンサルタント会社ウッド・マッケンジーは、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを達成するために必要な排出削減量の5分の1は、世界中でさまざまな形態の炭素除去が占めると推定しています。
同社の言うことが正しいとすれば、 これは年間 80 億トン以上の CO2 を吸収することに相当します。
そしてそのためには、莫大な規模の炭素除去事業が必要になります。
何年もの間、そのようなプロジェクトは技術的には可能であると考えられていましたが、非経済的でした。
2011 年にアメリカ物理学会が発表した試算では、DAC のコストは回収された CO2 1 トンあたり 600 ドルとされています。
EUの排出量取引システムでは現在、1トンの排出許可は約100ドルで取引されています。
CCSには常に失望させられ続けました。
電力業界はテクノロジーを実用化するために長年にわたって約100億ドルを費やしてきたが、成果はあまり出ていない、と指摘します。
新たな二酸化炭素除去プロジェクトの支持者らは、今回は違うと考えています。
彼らが楽観的になる理由の 1 つは、より優れた、より安価なテクノロジーです。
ノートリーズ地下に 1 トンの CO2 を隔離するコストは明らかにされていませんが、ジュール誌に掲載された 2018 年の論文では、大規模運用時の DAC システムの価格は 1 トンあたり 94 ドルから 232 ドルの間であるとしています。
これはEU の炭素価格と大きく離れていません。
CCSはDACよりもかなり安価になる可能性があります。
カナダの新興企業である Svante は、産業排ガスから CO2 を 1 トンあたり約 50 ドルで回収しています (ただし、この価格には輸送と保管は含まれていません)。
全体としてCCSは、この 10 年間に世界中で 1,500 億ドルの投資を呼び込むだろうとウッド マッケンジーは予測し、世界の CCUS 能力 (DACとCCSを含む) が 2030 年までに 7 倍以上に増加すると試算しています。
最近の炭素除去活動の急増の背後にある 2 つ目の (おそらくより大きな) 要因は、政府の行動です。
産業を促進する明白な方法の 1 つは、炭素排出者に排出する炭素 1 トンごとに高額の料金を支払わせ、炭素を除去するために炭素除去業者に支払うことが彼らの利益になるようにすることです。
EU の現在のような妥当な炭素価格があれば、CCS はほぼ実行可能になるでしょう。
しかし、DACが収益性の高い事業となるためには、税金をかなり高くする必要があります。
技術者、投資家、バイヤーの間では、二酸化炭素回収は数十年前の廃棄物管理と同じように発展していくだろうという見方が浮上しつつあります。
これは、最初は費用がかかるが必要な取り組みであり、軌道に乗るには公的支援が必要だが、やがては利益を生む可能性があるというものです。
政策立案者もそのような見方をするようになってきています。
アメリカが最近承認した気候変動対策支援金の数千億ドルの一部は、炭素除去産業を自ら立ち上げることを目的としています。
永久に貯蔵される CO2 1 トンあたり最大 85 ドルが支給されます。
1 トンの CO2 を回収する価格がもはや別世界のようなものではなくなったため、購入者が列を作り始めています。
資金力が豊富で、進歩的なイメージを打ち出そうとしているハイテク企業は特に熱心です。
マイクロソフトは 5 月 15 日、デンマークのバイオマス発電所から 10 年間にわたって回収され、地下隔離のために輸送された 270 万トン以上の炭素を購入する計画を発表しました。
プロジェクトと購入者を結び付けるカーボン仲介業者も出現しています。
三菱商事とスイス企業の合弁事業であるネクストジェンは、2025年までに100万トンを超える認定炭素除去クレジットを取得する予定です。
おそらく、炭素除去ビジネスに可能性があることを示す最大の兆候は、石油業界による受け入れでしょう。
オクシデンタルはDACに興味を持っており、 エクソンモービルは、2022年から2027年までに「低排出投資」に170億ドルを費やし、その大部分がCCSに費やされると述べています。
彼らは「石油・ガス会社からガス・炭素管理会社への転換」を狙っている様です。
サウジアラムコの本拠地であるサウジアラビアは、今後12年間でCCS生産能力を5倍に増やすという目標を設定しています。
石油業者の批判者らは、炭素除去に対する彼らの熱意は主に、より多くの原油をより長期間にわたって汲み上げながら、ますます気候変動に敏感になっている消費者の目をそらす事にあると主張しています。
これには確かにある程度の真実があります。
しかし、炭素を発生源から回収することが緊急に必要であることを考えると、膨大な資本と予算を持ち地質学の専門知識を備えた巨大石油会社の積極的な関与は歓迎されるべきでしょう。
驚くべきビジネスの拡大
上記のグラフをご覧いただければわかりますが、炭素除去ビジネスの伸びは著しいものがあり、2035年には再生可能エネルギーには及びませんが、それに近い規模に達すると予想されています。
もちろん炭素税など政府の施策に影響されるビジネスとは思いますが、今後急成長するビジネスの一つとして認識する必要がありそうです。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。