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EUが導入する国境炭素税の功罪

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国境炭素税とは何

EUが気候変動対策が十分でない国からの輸入品に対して国境炭素税と呼ばれる税金を課す事を検討している様です。

これが導入されれば、例えばロシアがEUにアルミニウムや鉄鋼製品を輸出しようとすると、ロシアは巨額の税金を払うことになります。

その額は監査法人KPMGの試算では2022年から2030年の間に600億ドル(6.6兆円)に達すると言われています。

ロシア政府はこの国境炭素税に対して保護主義であるとして反発している様ですが、この問題について仏紙Les Echosが「Taxe carbone : comment Bruxelles veut taxer les importations à compter de 2023 - Un avant-projet de la Commission européenne prévoit d'appliquer un « mécanisme d'ajustement carbone aux frontières » aux importations d'électricité, d'acier, ciment, engrais et aluminium」.炭素税:EUが2023年から輸入に課税する方法:EUは、電力、鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウムの輸入に「国境炭素税」を適用する予定)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Les Echos記事要約

7月14日に公式発表される予定の、欧州国境炭素税の内容が固まりつつあります。

木曜日に、欧州委員会の草案が発表され、この法案が、「グリーン取引」を背景に、気候変動対策が十分でない国の輸出者に対してEU内企業の競争力を維持することを目的としている事が明らかになりました。

 

この法案は、フランスが10 年前から主張し、現在は加盟国の大多数によって支持されており、2023 年から段階的に実施され、2026 年に完全に適用される予定です。

この国境炭素税の正式名称は「国境炭素調整メカニズム」(CBAM)ですが、電力、鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウムの輸入を対象としており、これらのセクターは、最も CO2 を排出すると考えられています。

 しかし、欧州議会からの報告書が求めたものとは異なり、フランスの下院議員ヤニック・ジャドーの影響下で、石油精製、製紙、ガラス、化学薬品の生産は、今回の国境炭素税の対象とされていません。しかしこの分は、まだ変更される可能性があります。



具体的には、関連製品の輸入業者は、自社の「炭素排出度」と欧州基準とのギャップを埋めるために、欧州炭素市場 (ETS) の価格で大量の二酸化炭素排出量を購入する必要があります。

さもなければ、彼らは3 倍の加算税を課される危険性があります。

輸出国がすでに生産者にある種の炭素税を課している場合は、差額のみを払う事になります。

したがって、調整メカニズムは、すでに EU 炭素市場の対象となっているアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスからの輸入業者には適用されません。

 

法案の草稿は、「炭素の漏れ」を避けるために、これまで特定のセクターに無料で割り当てられている無料の排出枠の段階的な終了を記載しています。

ただし、企業側から強い要請があった為、移行期間を設けており、その詳細については、今後も激しい議論が交わされる予定です。

 

法的論争

EUは薄氷の上を歩いています。

米国や英国はこの法案の趣旨に理解を示しているように見えますが、ブラジル、中国、インドなど他の大国は、これは形を変えた保護主義だと非難しています。

この法案が世界貿易機関(WTO)で激しい議論を巻き起こす事が必至なため、欧州委員会の弁護士たちはルールに適合させるように懸命に取り組んでいます。

EU は難題に直面しています。

昨年 7 月、ヨーロッパの指導者たちは、将来の CBAM 収入 (年間 50 億から 140 億ユーロと推定される) を使用して、新型コロナからの救済計画の一部に資金を提供することを承認しました。

二兎を追うEUの危うさ

この記事を読む限り、EUは危ない橋を渡ろうとしている様に思います、

気候変動対策は必要です。

しかしEUが今やろうとしているのは、気候変動対策にとどまりません。二兎、三兎を追っています。

そこに危うさが見え隠れします。

この国境炭素税で一番多くの税金を払わされるのは明らかにロシアです。

EUの安全保障上の最大の脅威はロシアですから、ロシアを痛めつけるのは理にかなっている様に見えますが、ロシアは一方でEUに対する最大のエネルギー供給国でもあります。

ロシアの安価で豊富なエネルギー無くして欧州諸国は米国に勝てません。

そもそもグローバル企業は米国でシェールガス、オイルが見つかってからというもの、エネルギーコストの高い欧州を見限って米国にシフトしようとの動きがある中、更にエネルギーコストが上がるとなれば、この動きに歯止めがかかりません。

この国境炭素税の火付け役はフランスですが、フランスは原子力の国ですので、ロシアのガスに依存していません。

しかしEUの産業大国ドイツは違います。

ロシアから来る安価なエネルギー源や資材無くしてドイツ産業界の繁栄はありえません。

おそらく国境炭素税をめぐって独仏両国の間で水面下では火花が散っていると思います。

 

ロシア政府はこの国境炭素税を保護主義だとして批判しています。

確かにこの制度が導入されれば、EU域内の業者は有利になりますが、一方、安い材料をロシアから購入していた業者は不利になります。

これは高い価格で製品を買わされるEUの消費者にとっても不都合です。

また国境炭素税から得られる財源は、新型コロナの経済損失の穴埋めとして使われるというのも気にかかる点です。

衰弱した欧州企業を救済するための資金を捻出するのが目的ではなかったのかとの批判に、EUは答える必要があるでしょう。

 

日本も指をくわえて見ているわけにいきません。

単独では難しいと思いますが、米国やEUから離脱した英国あたりと組んでEUに対抗する国際ルールを構築する必要があると思います。

当然ですが、ゲームではルールを作った方が有利になります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。