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EUの抱える問題ー難民にどう対処するか

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難民問題の憂鬱

昨日は欧州の抱える問題としてユーロを取り上げましたが、他にも深刻な問題を欧州は抱えています。今日は難民問題についてお話ししたいと思います。

国連で難民を担当するUNHCRに依れば、難民とは「政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求めた人々」と定義される様です。難民に対して移民という言葉があります。こちらは経済的な理由から他国に移り住む人々を指します。

移民の受け入れは受け入れ国側の事情で変更可能ですが、難民は内戦などから逃れてきた人ですから、一旦EUの土地を踏んでしまえば、EUは人道的見地から受け入れざるを得ません。従いシリアなどから多くの難民が欧州を目指す訳です。

シリアは内戦前の人口が約2,200万人でしたが、その内3割以上が難民化していると言われます。これ以外にもアフリカやアフガニスタンなどで難民化した人たちが、大きな津波の様に欧州に押し寄せている訳です。

難民を防ぐ防波堤としてのトルコが払う犠牲

難民たちが欧州に向かう際に幾つかルートがありますが、その内最も重要なルートがトルコ経由です。トルコからエーゲ海の向こうのギリシャはほんの目と鼻の先ですから、夜間にゴムボートで密航するシリア難民が後を立ちません。ギリシャ側はこれら密航者を上陸させてしまえば、難民として処理せざるを得ませんので、深夜も哨戒艇を出して、難民が乗るボートを見つけ、トルコ側に押し返しています。ギリシャにしてみれば、自分の国の経済も低迷し、失業率が極めて高いのに、難民など受け入れてたまるかという事だと思います。

結果的に中東と欧州の間に位置するトルコがシリア人難民の波を受け止める防波堤の役割を果たすこととなり、現在400万人近いシリア難民を受け入れています。トルコも決して経済的余裕があるわけではありませんが、トルコ人は内戦から逃れた隣人たちを追い返す様な人たちではありませんので、渋々受け入れているのが現状です。

この400万人という数字はトルコの人口の5%に相当し、世界一難民を受け入れている国です。シリア難民はトルコでは無償で医療と教育を受けられます。その上、難民は出生率も高く、2011年以降トルコで生まれたシリア人の子供は50万人を超えると言われています。トルコがこれだけの犠牲を払って難民を受け入れている事は余り知られていません。

難民が行きたい国ドイツ

トルコに難民として逃れてきたシリア人の多くはドイツに最終的に行きたいと思っています。何故でしょう。もちろんドイツが経済大国であるという事もありますが、ドイツは政治的迫害から逃れてきた難民を保護する事を憲法で規定している稀な国だからです。

ドイツがこの様な規定を憲法に盛り込んだ理由は、第二次世界大戦で多くの少数民族を迫害した過去の歴史を反省したからだと言われていますが、欧州の中では難民の受け入れに最も積極的な国であり、2015年8月メルケル首相はダブリン規定(最初に入国したEU加盟国でしか難民申請できないと定めた)を棚上げして、ドイツに来た難民は全員受け入れるとまで発言しました。

欧州難民危機

首相がこんな発言をすれば、難民の方もドイツに行きたいと思う気持ちになりますよね。実際、このメルケル発言はシリア人のドイツへの大量流入を招きました。

しかし同時にドイツ以外のEU加盟国から難民の分担について不満の声が上がり、難民に扮してEUに侵入しイスラム国のテロが欧州各都市で起き、欧州難民危機と呼ばれる大問題となりました。

そこで翌2016年3月に結ばれたのが、EUとトルコによる協定です。この協定は簡単にまとめると次の様なものになります。(東洋経済オンラインより引用)

  1. トルコからギリシャに渡るすべての新たな非正規移民、および難民認定を受けられなかった庇護申請者を、トルコに送還した上で費用はEUが担うこと
  2. トルコがギリシャからの送還を受け入れるシリア人1名に対し、トルコからEU加盟国にシリア人1名を定住させること
  3. 上記の見返りとしてトルコは総額60億ユーロの支援金、トルコ人のEUへのビザなし渡航の実現、関税同盟の更新、EU加盟交渉の加速化を得る

欧州とトルコの軋み

この協定により、トルコが防波堤の役割を果たし、シリア難民の欧州への流入は減少しました。しかし今年に入って、欧州とトルコの間に軋みが生じ始めました。

今年の2月29日エルドアン大統領が難民の欧州への「門を開いた。」と発言したのです。トルコに滞在していた多くの難民たちが、この発言を受け、ギリシャ、ブルガリアとトルコの国境に押し寄せました。

エルドアン大統領のこの発言は日本のマスコミなどでは「エルドアンが理不尽な要求を欧州に対して行った。」様に報道されましたが、これは欧州のマスコミの論調を鵜呑みにしているので、補足説明が必要です。

トルコ側が期待した見返り得られず

上述の2016年3月のEU・トルコ間の協定のおかげで欧州はシリア難民の流入を食い止めたのですが、トルコ側が見返りとして期待していた条件はほとんど履行されなかったのです。支援金も半額しか払われていません。

トルコ側からしてみれば、相当な犠牲を払って、シリア難民をトルコ領内に留めるのに協力しているのに、EU側が約束を守らないのなら仕方がないという事だと思います。

欧州を二分する問題

現在、トルコとEUは再交渉している様ですが、EUの内部は難民受け入れ賛成派と反対派に二分されており、容易には合意がまとまりそうにありません。

英国はこの難民問題において、EUから条件を押し付けられるのを嫌い、それがEU離脱の一因だったと言われています。

今後、ドイツはEUのリーダーとしてこの問題を解決する役割を求められています。コロナの陰で余り目立ちませんが、EUにとってこの難民問題は深刻な問題です。