英ジョンソン首相の悩み
米国の大統領選は残り10日を過ぎました。
世論調査はいずれもバイデン候補がリードしている事を示しています。
選挙は水物と言われ、蓋を開けてみるまで、その結果を予測することは難しいですが、英国の大手メディアでも、バイデン候補の優勢が伝えられています。
ご存知の通り、トランプ大統領は、殆どの外国首脳とうまが合いませんでした。
特に欧州のメルケル首相やマクロン大統領とは不仲でした。
そんな中で安倍首相と並んでトランプ大統領に近い政治家がいました。
それは英国のジョンソン首相です。しかし、トランプ大統領劣勢が伝えられる中、彼も悩ましい立場に置かれている様です。
英誌Economicsが「What Joe Biden means for Boris Johnson」(バイデンはジョンソンにとってどんな意味があるのか)と題した記事を掲載しました。
かいつまんでご紹介したいと思います。
Economist記事要旨
アメリカの新政権はしばしばイギリスに問題を引き起こします。
英国オックスフォード滞在中のクリントン大統領の薬物使用が公表されたので、大統領はメージャー首相に腹を立てました。
ジョージ W. ブッシュは当初、ブレア首相をクリントンの手先と見なしていました。
しかし、これらの問題はバイデン候補が大統領選に勝利した場合に、ジョンソン政権が直面する問題と比べると、取るに足らないものでしょう。
ジョンソン首相はトランプ氏に非常に近かったので、トランプ大統領は「英国トランプ」と首相を呼びました。
バイデン氏と彼に最も近い外交政策顧問は、「ケニア系の米国最初の黒人大統領がウィンストン・チャーチルの像を大統領執務室から撤去した。彼は英国に偏見を持っている。」というジョンソン氏の2016年の発言を忘れていません。
英国政府は、バイデン氏が世論調査でリードを確立して以来、バイデン陣営との関係を改善するために努力しています。
しかし、英国政府高官は、バイデン陣営とのパイプがほとんどありません。
内閣府大臣であり、ジョンソン首相の知恵袋であるマイケル・ゴーブは、首相よりも米国保守派により近いと見なされています。
そして、英国の外交官もパイプを持っていません。
前駐米英国大使キム ダロックは、バイデン陣営と最も太いパイプを持つ外交官でしたが、トランプ政権を「機能不全」と表現したメモの漏えいで、解任されました。
彼の後継者であるカレン・ピアースは、コロナ感染の影響で民主党と緊密な関係を築く時間がありませんでした。
バイデン氏のチームは、2016年にトランプ氏の顧問として雇われたマイケル・フリンがロシア大使と接触したことで生じたロシア疑惑の二の舞を恐れて、英国を含む他国の外交官との面会を拒否しています。
英国は、英米間の冷めた関係を過去に何度も修復してきました。
アメリカは他のどの同盟国よりも英国と軍事および安全保障上の関係が緊密です。
上院外交委員会に30年間務めてきたバイデン氏は、過去のいざこざを水に流す方法を知っています。
そして、ロンドンのリベラルな市長からブレグジットのリーダーに変身したジョンソン氏も、政治の達人です。
フランクリン・D・ルーズベルトに対する彼の最近の称賛は、国内再建と国際的関与に関する野心的なプログラムを立ち上げたいとする民主党大統領にアピールする様、巧妙に計算された一手です。
ジョンソン氏は、いくつか切り札を持っています。
彼は、中国とロシアに対して確固たる姿勢を示す事に関して、両国共通の利益を主張する事ができます。
来年11月に英国が次回の国連気候変動サミットを主催することは、環境面で両国が歩みを揃える事も可能でしょう。
バイデン政権は、悪党を罰するよりも、世界中でアメリカが受けた損害を修復することに熱心であり、ジョンソン政権は、トランプ氏を歴史から消し去る事も選択肢の一つとするでしょう。
しかし、事はそれほど簡単ではありません。
バイデン氏の勝利は、英国にとって近年最も重要な政策変更であるブレグジットを支持する大統領を、それが間違いだと考える大統領に取って代わらせるのです。
ジョンソン首相が更に心配しているのは、英国がアイルランドとの合意を危険にさらす場合、バイデン氏はEU(特にアイルランド共和国)側に立つ危険性です。
バイデン氏は誇り高きアイルランド系アメリカ人であり、最初の大統領討論会で、トランプ氏のような「金権政治家」は「私のようなアイルランドのカトリック教徒を見下ろしている」と発言しました。
バイデン氏がもたらす最大の脅威は、何と言っても、ブレグジットに関するものです。
2016年のトランプ氏の当選で、英国は、ブレグジットによって、崩壊する世界秩序を最初に放棄した国として、歴史の大きな流れに乗ったと主張することができました。
しかし、バイデン氏のような多国間主義者から見れば、英国が袋小路に飛び込んだように見えるでしょう。
ブレグジット推進派は、ブレグジットが一連の連鎖反応をもたらすことを期待していました。
他の国が英国に倣ってEUを離脱する事から生じるEUの弱体化、英国が過去の植民地(米国を含む)との緊密な関係を築く事に依り英語圏が台頭すると言った期待です。
しかし、ブレグジットの結果として、EUは弱くなるどころか強く見え始めており、バイデン政権は歴史を逆の方向に押し進め、グローバルな制度を強化し、英語圏強化の話にはおいそれと乗って来ないでしょう。
実際、バイデンとブレグジットの組み合わせは、英語圏の中心的な柱である英国と米国の特別な関係にダメージを与えるでしょう。
バイデン氏と彼の外交政策チームは、古い多国間システム、特に欧州との同盟関係を再構築したいと考えています。
バイデン氏が再建するグローバルな世界においては、英国の居場所はよりささやかなものになるでしょう。
日本にバイデン候補とのパイプはあるか
トランプ政権に近いと見なされているだけに、ジョンソン政権はバイデン候補が勝利すれば、窮地に立たされそうです。
それは日本も同じで、トランプー安倍のホットラインに依存していたツケが出てくるのではと心配です。
外交はいかなる状況にも対応出来る様、準備をしておく必要がある事はいうまでもありません。
日本政府が一本足打法になっていない事を期待します。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。