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バイデン氏元将軍を国防長官に指名する- 逆転人事の真相は

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初の黒人国防長官誕生か

国防長官の指名が遅れていましたが、バイデン 次期大統領は元陸軍大将のロイド・オースティン氏を指名しました。

このポジションには、元国防総省次官のミシェル・フロノイ氏が最有力と見られていましたが、彼女への指名は見送られ、黒人として初めてオースティン将軍がペンタゴンの主となる事が決まりました。

この逆転人事の背景には何があったのでしょうか。

米誌Foreign Policyが早速「Biden to Name Former General as Defense Secretary」(バイデン 氏は国防長官に元将軍を指名した)と題して記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要約

複数のニュース報道によると、バイデン氏が国防長官としてロイド・オースティン将軍を指名する事が決まった様です。

彼の指名が上院の承認を得た場合、元中央軍司令官は米国の歴史の中で国防総省を率いる最初の黒人になるでしょう。

オースティン氏の指名は、ミッシェル・フロノイ氏が初の女性国防長官になるという機会を消失させました。

元国防総省の次官である彼女は、バイデン氏の大統領選勝利が確認されるや否や、国防長官のの最有力候補と見なされました。

Foreign Policy のマイケルハーシュが先月書いたように、バイデン 氏とフロノイ氏の間には政策をめぐって意見の相違があった事が障害になったと推測されています。

 

オースティン氏の指名は歴史的なものですが、幾つかの問題があります。

彼は退役してから日が浅く、国防総省長官には軍を辞めてから7年以上経過する必要があるとの規程に抵触するため、議会の特別免除が必要になります。

このような特例は過去2回しか認められていません。

1950年に第二次世界大戦中に陸軍参謀総長を務めたマーシャル将軍、そして2017年にマティス将軍の2名だけです。

 

民主党の進歩派の観点から言えば、オースティン氏の退役後の経歴ももう1つの重要なハードルになりえます。

彼は退役後、主要武器メーカーのレイセオン社の取締役を務めてきました。

同社は最近、サウジアラビアへの武器販売から利益を得ており、議会の精査に耐えるならば、アラブ首長国連邦との230億ドルの武器取引からさらに利益を得る立場にあります。

フロノイ氏の支持者は、防衛産業の請負業者であるブーズ アレン ハミルトン社と彼女のつながりが、進歩主義者が彼女の指名に反対するために団結した理由の1つであったことを指摘します。

私の同僚のRobbieGramerとJackDetschが報告しているように、オースティン氏の選択は、人間関係(バイデン氏の古い記憶)に関するものかもしれません。

バイデン氏は、オバマ政権時代にイラクを担当した副大統領時代からオースティン氏を知っています。

オースティン氏は、イラクの駐在米軍を削減するというバイデン氏の計画を支持しましたが、フロノイ氏と当時の統合参謀本部議長のマイク・マレン氏はそれに反対しました。

 

ニューヨークタイムズ紙において、元バイデン氏顧問のゴルビー氏は、オースティン氏の指名に強く反対しています。

「マティス氏のような退役将軍が国防長官としてトランプ時代に正しい選択だったとしても、その時代は終わった」と彼は書いています。

「例外的な状況で認められた立法上の例外的措置が、新しい規則になるべきではありません。」とも主張しています。

 

2018年に「Foreign Policy」においてたマーラ・E・カーリンとアリス・ハント・フレンドは、「9.11以降の17年間の間に、米国のシビリアンコントロールは侵害されました。軍事専門家に非軍事的役割を委ねるのではなく、より良い政治と政治家を作る事が求められます。」と述べています。

フロノイ氏が指名を得られなかった本当の理由

本命であったフロノイ氏が指名を得られなかった理由として、イラク駐留軍の撤退をめぐって以前バイデン 氏(当時副大統領)と対立した事や、民主党進歩派が彼女の軍事産業との関係を嫌った事などが挙げられています。

私は米国政治の専門家ではないので、はっきりした事はわかりませんが、シビリアンコントロールの原則を曲げてまで、フロノイ氏(文官)の代わりにオースティン氏(武官)を指名した背景には、彼女の防衛政策が米国の軍需産業の反発を招いた可能性があるのではと推測しています。

彼女は今年米誌Foreign Affairsにて今後の米国防衛のあるべき姿について、論文を発表しています。

私も以前ブログでご紹介しましたが、この論文の中で、彼女は「既存の防衛システムは陳腐化しており、新しい先進的な防衛システムを取り入れるべき」と主張しています。

 

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この考えに米国の防衛産業の守旧派が反発したのではと睨んでいます。

米国の防衛産業は巨大です。

年間の防衛費はなんと6,846億ドル(約75兆円、2019年)で、軍需産業の雇用者は1,100万人と言われています。

もちろん国防長官人事に関しては、業界を挙げて、バイデン氏に圧力をかけていたと思います。

今回、オースティン氏が指名を得たのも、彼が防衛産業の老舗レイセオン社の役員を務めていた事と関係がありそうです。

同社はミサイルやレーダーシステムで有名で、日本のイージス艦にも搭載されている事で有名ですが、同社の様な大手軍事企業が防衛産業の改革を唱えるフロノイ氏の指名に難色を示した可能性があります。

 

オースティン氏の国防長官指名が日本にどの様な影響を与えるかですが、次の様な懸念点があります。

同氏の軍歴を見ますと、中東での経験は豊富ですが、アジアにおける経験は見当たりません。

今後、対中、対北朝鮮と言った問題に国防総省がどの様に対応するか不安です。

元防衛大臣の小野寺議員が、「フロノイ氏はアジアについても識見があり、彼女が国防長官になれば心配ないが、他の民主党系の人は共和党系に比べれば、中国に極めて甘く、心配だ。」と述べてましたが、同議員の心配が杞憂で終われば良いと思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。