MIYOSHIN海外ニュース

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証券会社の外国人幹部逮捕を米国メディアはどう見るか

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SMBC日興証券の事件

外国人のビジネスマンが日本で収監されたケースとしては、カルロス ゴーン氏がすぐに思い出されますが、最近SMBC日興証券の外国人トレーダーが逮捕されました。

今回の事件については日本のメディアでも大きく取り上げられていますが、外国から見るとこの事件はどの様に見えるのでしょうか。

米紙ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)が「American Finance Executive Arrested in Tokyo Describes His Ordeal」(東京で逮捕された米国人証券会社幹部試練を語る)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

トレヴァー・ヒルは、検察官が自宅に現れたとき、引っ越し後の空になったマンションでテイクアウトディナーを取っていました。

日本の証券会社の幹部に上り詰めた数少ない外国人の一人である彼は、当局がいくつかの取引を捜査していることを知っていましたが、何が自分の身にふりかかってくるか見当もつきませんでした。

 

数時間以内に、ヒル氏は逮捕され、弁護士の立ち会いなしの尋問を受けるために東京の刑務所に連れて行かれ、全国メディアで報道の対象となりました。

検察はヒル氏とSMBC日興証券で彼のために働いていたトレーダーを相場操縦の容疑で非難しました。

元自動車業界に君臨したカルロスゴーンの事件を彷彿とさせる逮捕劇で、日本のメディアは今世紀の最も重大な金融犯罪の1つとして取り上げました。

「市場の中核をなす証券会社が適切な価格設定を歪めたのは重大な犯罪だ」と日経新聞は書いています。

 

ヒル氏は、困惑し、憤慨しており、徹底して争う覚悟だと言います。

彼は、問題の取引は適切で、審査も受けていると話します。

いずれにせよ、取引は彼を巻き込むには小さすぎ、壮大な陰謀には程遠いと主張しました。

プリンストン大卒の彼は、インタビューで「私はいかなる取引についても話していないし、取引を行うように指示したり命令したりしていませんでした」と語りました。

 

SMBC日興証券の元エクイティ責任者であるヒル氏を含む合計5人が起訴されました。

日本のメガバンク、三井住友フィナンシャルグループの傘下にあるSMBC日興証券は、調査に協力しているとし、「このような深刻な状況を引き起こしたことを深く遺憾に思う」と述べました。 」

 

有罪判決を受けた場合、ヒル氏は最長15年の懲役に直面することになりますが、日本では刑期が短くなる傾向があります。

彼は先週保釈され、裁判の準備をしています。

しかし裁判を開始するのに何年もかかるかもしれません。

会社との雇用契約は既に失効しています。

 

ヒル氏は、刑務所での尋問の際に、検察官が彼が有罪であることを示すいくつかの証拠の断片を示して、自白することを要求したと語りました。 

しかし、彼は、検察官の話に合わせる事は偽証を意味すると悟り、 真実を語ることに専念したそうです。

東京検察の広報官はコメントを控えました。

検察庁は、尋問は適切に行い、容疑者の権利を保護していると述べました。

 

ヒル被告は自身の手腕により、SMBC日興証券の赤字部門を収益の柱へと変え、その成功に対して十分な報酬も受け取ったと話しました。

友人らは、ヒル被告の出世が嫉妬を招いたのではないかと勘ぐっているといいます。

ヒル被告はこう語りました。「これまで日本人の上司がやり遂げられなかったことを、外国人がやって来てそれを成し遂げれば、自らを標的に置くことになる。」

オープンでスピーディーな裁判を

カルロス ゴーン氏はレバノンに逃亡したので、裁判所が日産事件にどの様な判断を示すかわからず仕舞いですが、ゴーン氏の直属の部下だったケリー氏の裁判は第一審の結果が出て、ほとんどの容疑に対して無罪判決が示されました。

ケリー氏は米国に帰国が許された様です。

今回の事件は詳細を筆者も知りませんので、どちらが正しいかはわかりません。

一つ言える事は、我が国も司法のプロセスをオープンにし、外国人にも納得のいくものにしないと、優秀な外国人が日本で働く事を躊躇するのではと心配です。

東京をファイナンシャルハブに」という日本政府の目標を達成するためには、外国の優秀な人材に東京に来てもらう事が必要です。

WSJの記事の最後の段落を読めば、そういう人材が二の足を踏むのではと心配です。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

漁夫の利を得るインド

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中立ポジションをとるインド

今回のウクライナへのロシア侵攻から漁夫の利を得るのは誰でしょうか。

それはインドであるとする論文が米誌Foreign Policyに掲載されました。

「For India, Putin’s War Starts to Look Like a Gift」(インドにとって贈り物の様に見え始めたプーチンの戦争)と題された論文をかいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

ロシアがウクライナとの本格的な戦争を開始したとき、インドは最初、居心地の悪いコーナーに追い詰められている様に見えました。

インドは、その主要な敵である中国に対する保険政策として近年西側に近づいたため、ウクライナ紛争において米国とその同盟国と連携することが期待されていました。

しかし、インドはロシアを非難することに消極的であり、その軍事装備の大部分をロシアに依存し続けています。

西側諸国がパキスタンと協力する一方、ロシアがインドを支援した1950年代以来、ロシアとインドには長い友好関係があります。

インドの西側諸国との関係は過去20年間で急速に拡大しましたが、ロシアへの共感は続いています。

それでも、インドがロシアの侵略を非難する国連での決議を棄権したことは少なからず驚きです。

 

しかし、戦争は実際にはインドへの贈り物かもしれません。

米国は批判を抑えています。

インドが中国に対抗する上で、パートナーとして必要であると認識しています。

中国と同じように、資源に制約のあるインドは危機をうまく利用して安価なロシアの石油を手に入れました。

欧米の顧客がロシアからの調達を避けているため、市場価格を大幅に割り引いて購入しています。

 

一方、中国とロシアは、ロシアの侵略を非難するために西側に加わることを躊躇したインドを自分達の陣営に誘おうと動いています。

先週、中国の王毅外相が予告なしにニューデリーに到着しました。

今週の木曜日、ロシアのラブロフ外相もインドに到着する予定です。

しかし、中国とロシアがその様な動きを見せる中で、インドは米国とその同盟国への戦略的方向転換をあきらめることはないでしょう。

 

インドは、居心地の悪いコーナーに追い詰められたどころか、中間に位置する事で、双方から譲歩を引き出そうとしています。

必死に新しい買い手を探すロシアから、インドは割引された石油、肥料、および他の商品を手に入れています。

インドはヒマラヤにおける中印の軍事対立の緩和を中国から引き出すことを目指しています。

インドは、米国やその他の西側のパートナーとともに、防衛産業基盤を近代化し、ロシアの軍事物資への依存を減らすことを目指しています。

 

インドの国連投票に対して米国は当初不満を示し、バイデン 大統領はインドを「ふらついている」と形容しましたが、その後、政府高官はインドの立場についての理解を示しました。

米国当局は、ロシアからのインドの石油購入は現在の制裁に違反していないことを認めています。

インドのロシア兵器への継続的な依存については、ヌーランド国務次官は、これは冷戦中にインドに近代兵器を供給することを躊躇した米国のせいであると認めました

ニューデリーへの最近の訪問の間に、彼女は、米国が今より強力な防衛産業の協力を含む、償いをする準備ができていると語りました。

 

中国とロシアは、インドを新しい反西洋アジア連合に誘い込むことを望んでいます。

ロシアの軍事的失敗と前例のない西側の団結を前に、中国とロシアは接近し、非西側世界に新しいパートナーを参加させようとしています。

必然的に、インドはそのリストのトップにあります。

王外相は中国が2022年にBRICSサミットを主催する事を強調し。中国は、BRICSと上海協力機構(インド、中国、ロシアが定期的に会合するもう1つの非西側多国間フォーラム)を、容認できない西側の支配と見なしている世界秩序に対抗する方法として推進しています。

 

しかし、インドは、中国とそのジュニアパートナーであるロシアが主導する新しい同盟に簡単には参加しないでしょう。

インドの最も差し迫った懸念は、ヒマラヤでの中国との国境戦争を終わらせることです。

もし、中国がこの問題に関して譲歩し、インドが中国に対する考え方を見直したとしても、インドは米国とのより深い安全保障協力、特に日本とオーストラリアを含むパートナーシップであるクワッドを重視する考えに変わりはないでしょう。

ロシアの戦争によって生み出された新しい状況では、モディ政権はインドの防衛産業の近代化において米国およびその他の西側の投資を推進する機会を持っています。

 

インドの理想的なシナリオは、ロシアが欧米と平和を維持し、アジアから遠ざかるというものです。

しかし、プーチンのロシアは中国を受け入れ、ウクライナとの戦争で西洋の怒りを呼び起こし、アジアの安定を求めるインドの探求を複雑にしました。

それでも、インドはロシアとの関係を維持し、中国とのチャンネルを開いたままにしておくでしょうが、インドが中国やロシアにできる事をかなり制限する結果となるでしょう。

両陣営から取り合いになったインド

インドを訪問したのは中国やロシアの外相だけではありません。

最近、岸田首相も訪問しています。

それだけ西側と中露双方から重要な国とみなされているのでしょう。

インドは、ロシアから安く原油を購入しても、ロシアの対空防衛システムであるS400を買っても米国からお咎め無しという特別待遇を得ています。

 

今回のウクライナ戦争で漁夫の利を得たのはこのインドとトルコだと思います。

双方ともロシアとエネルギーや軍事面で緊密な関係を有していた事から、戦前は欧米との関係がギクシャクしていましたが、戦争が始まるや否や相手陣営に入られては絶対にまずい国なので、両国とも欧米、中露双方からラブコールを受けています。

モディ、エルドアンという強権的なリーダーに対する批判も聞かれなくなりました。

西側も一貫性がないと言えばないのですが、これが現実の国際政治なのかもしれません。

両国は現在の恵まれた国際環境を最大限利用しようとするでしょう。

朝鮮戦争の際には、日本が漁夫の利を得ましたが、現在はインドとトルコが同じ様な立場にあります。

 

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欧州からアジアに回帰するロシア

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中国、インドとの関係を深めるロシア

ロシアはヨーロッパなのかアジアなのかどちらでしょうか。

これはなかなか難しい問いです。

モスクワなど大都市を見ると、欧州に近く感じますが、ロシアは世界最大の国です。

その中にはタタール人等アジア系の人も多く含まれます。

ロシアには「タタールのくびき」という表現があり、これは13世紀にモンゴル族によってロシアが征服された結果、アジア系とヨーロッパ人の混血が生じ、文化的にもアジア系のものがかなり導入された事を指します。

ロシアはこれまで、欧州への帰属を望んでいた様ですが、欧米からの厳しい経済制裁を受けて、一気にアジアへの志向を高めている様です。

この点について、米誌Foreign Policyが、「Russia Joins the Asian Club」(アジアに加わろうとするロシア)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要約

プーチン大統領がウクライナを侵略しなかったとしても、ロシアはアジアへの傾倒を高めていたでしょう。

ロシアは欧州評議会からの脱退を発表しましたが、国連では、中国とインドが、ウクライナの侵略を非難することは共に拒否しました。

米国が制裁対象にしているにもかかわらず、中国が軍事、金融、外交面で支援しているベネズエラ、キューバ、イラン、シリア、リビア、ミャンマーなどいわゆる不正な政権のリストがあります。

今回このリストにロシアを加える事になるでしょう。

一方、インドのウクライナ侵攻に関する判断は、インドがますます米国に傾倒していると感じていた西側の多くの人々を驚かせました。

しかし、インドとロシアとの関係は依然として堅固で良好です。

ロシアは、石油を20%割引でインドに販売し、ルピーで支払いを受ける契約を結んだばかりです。

インドはもはや、すべての自信を持っている国がそうであるように、その目的に合うように政策を自由に選択します。

 

サウジアラビアの指導者であるモハメッド ビン サルマン皇太子は、バイデンからの電話を受けていませんが、プーチンと何度か話し合い、中国への石油輸出の人民元での価格設定を開始することに暫定的に合意しました。

中国とロシアは制裁にもかかわらずイランとの貿易を継続し、アジアのクラブでの関係をさらに強化しています。

 

侵略前、ロシアのアジアとの貿易は成長していました。ロシアに対する欧州の需要が激減することで、ロシアはアジアの経済家臣になるでしょう。

ルーブルが紙屑になり、西側ではロシアのお金も市民も歓迎されないため、中国との二国間貿易は急増し、ロシアはウクライナでの戦争を継続するために要求した武器システムを含む中国からの輸入にさらに依存するでしょう。

ロシアの中国へのエネルギー輸出は、様々な商品購入に関連する中国への支払いを賄うのに十分な人民元を生み出します。

銀聯のATMカードと、中国の人民元国際決済システムとロシアのミール決済システムの統合が加速します。

HuaweiとZTEは、NokiaとEricssonが提供しなくなったインターネットおよび5G通信機器を提供します。

 

ガスプロムの「Power of Siberia」パイプラインは、2019年に開通しました。

ドイツ行きのNord Stream 2パイプラインが停止されたため、ロシアと中国は、さらに2つの直接的なロシアと中国のパイプラインの完成を加速することに合意しました。

一方、今年、中国はロスネフチからのロシア石油の購入を増やすことにも合意した。

 

人口動態のレンズがなければ、アジアにおけるロシアの将来を見るのは困難です。

ロシアの広大な東側には、水と食料、石油とガス、木材と金属など、考えられるあらゆる資源が豊富にあります。しかし、そこはほぼ完全に過疎化した地域です。

この地域の取り組みには中国の季節労働者が不可欠であるだけでなく、昨年、ロシアはインドとスキルパートナーシップ協定を締結し、急増する小麦の生産量を管理するために、より多くの農家と食品加工労働者を採用しました。

 

子供たちが地理を学ぶとき、彼らはアジアとヨーロッパの間の境界を見つけるのが難しいことに気づきます。良くも悪くも、この問題は解決されました。

ロシアの人々は自分たちをヨーロッパ人と見なすかもしれませんが、彼らの国はアジアの大国のように振る舞い、彼らの地理はアジアの未来に属しています。

中国にロシアを接近させる米国

現時点では、欧米はロシアをコーナーに追い詰めていると感じていると思いますが、彼らの思う様な結末が待っているかどうかは、歴史の審判を待たなければならないでしょう。

バイデン 大統領の発言「プーチンは政権に留まってはいけない」は、どう見てもロシアの政権交代を要求している様に思われます。

この呼びかけは、ロシアの反体制派の政権奪取を期待しているのかも知れませんが、この発言でロシア国民は米国の内政干渉を嫌い、米国の思惑とは逆に結束が固まるのではないかと思います。

また、経済制裁も短期的には効果を生じるかも知れませんが、制裁された国は当然抜け穴を考えます。

ロシアが石油やガスの購入者にルーブル払いを求めたそうですが、これはドルの世界覇権に挑戦する狙いがありそうです。

ロシアだけなら何とか押さえ込む事が可能かも知れませんが、ロシアが中国やインドと手を組み、ドル払いを止めて、中国元や露ルーブルでの支払いを行う様になると、基軸通貨ドルの覇権が脅かされる事になります。

米国は今回ロシアを追い詰めて満足しているかも知れませんが、将来彼らの逆襲をくらうきっかけを作ってしまったかもしれません。

 

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(速報)イスタンブールにおける和平会議

トルコ新聞第一報を伝える

注目を集めるロシア - ウクライナ両国の和平会議が本日、トルコのイスタンブールで行われました。

オスマン帝国時代の宮殿であるドルマバフチェ宮殿で行われた両国代表団の会合について、第一報がトルコの大手紙Hürriyetによって発信されました。

おそらくこの記事は世界で最も早く発信されたものですから、日本の新聞に出るのは明日の朝刊になるのではと思います。

Hürriyet記事要約

ロシア・ウクライナ戦争を終結させるために開催された歴史的サミットは、本日ドルマバフチェ宮殿で開催されました。

エルドアン大統領の開会のスピーチの後、両国は会談を行いました。

会談後の最初の声明は、ウクライナ代表団によってなされました。

ウクライナ代表団は、「2週間以内に交渉を継続する。

安全保障が提供されれば、中立の地位に切り替える。

協定のいかなる条項も、EUへの加盟を妨げるものではない

トルコを含む幾つかの国に、保証人になってもらう。」と述べましたが、ロシア側は「いくつかの項目について合意した」と述べました。

 

トルコのチャブシュオル外相も代表団の会合に関して声明を発表しました。

チャブシュオル大臣は、次のように述べました。

「今日、私たちはイスタンブールに両国の交渉代表団を集めました。

エルドアン大統領による会議の開会は、私たちが両国を重視していることを示しています。

この戦争は今やめなければなりません。

今日、私たちはこの会議で両国間の距離が縮まった事を認識しました。

幾つかの問題については、コンセンサスと共通の理解が得られました。

交渉の開始以来、最も有意義な進展が今日行われました。

より困難な問題は、次のレベルで両国の外相によって解決される事が期待されます。

そして、最後は両国の大統領会議が想定されています。

今回、人道援助と人道回廊の開設についても話し合いました。

これまでに、16,500人以上のトルコ国民をウクライナから避難させました。

また、この地域で立ち往生している船舶の出港と航行の問題も提起しました。

本日の会議は、トルコに対する両国の信頼を示しています。

トルコの果たす役割

先日のブログでトルコはロシアに一目置かれていると書きましたが、ボスポラス海峡というロシアにとってロジスティック上の生命線をトルコが握っている事や、NATOにおいても兵員数では米国に次いで2番目に多い60万人もの兵力を持っている事がその背景にあります。

一方で、トルコはロシアとも関係が深いので、ウクライナにもトルコは睨みが効きます。

ウクライナにとってもボスポラス海峡がチョークポイントですし、万一ロシアとトルコが組む様な事になれば、間に挟まれたウクライナは抵抗する術がありません。

両国に睨みが効くトルコは両国が要求する保証人にうってつけの存在なのです。

筆者が、このままトルコが仲介人となって両国の和平が実現すると良いなと思いますが、欧米はトルコが和平の主役に座る事を簡単には許さないのではと思います。

特にフランスのマクロン大統領辺りは、主役の座を奪われたとしていろいろ難癖をつけてくるのでしょう。

今回は大国のエゴを振り回さずに、ともかく早期の和平を実現してもらいたいものです。

 

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波紋を広げるバイデン 大統領の失言

ロシアに体制変更を求めたバイデン 大統領

バイデン大統領の「プーチンは権力にとどまる事は出来ない」との発言が米国内外で波紋を呼んでいます。

この発言は当初の演説原稿にはなかった模様ですが、翌日ブリンケン国務長官が「大統領の発言は体制変更を求めるものではない。」と慌てて火消しにかかりましたが、時すでに遅しの感があります。

この発言に関して米中のメディアの反応をお届けしたいと思います。

米ウォールストリートジャーナル記事要約

バイデン米大統領が26日、プーチン大統領は「権力の座に留まってはならない」と発言したことは、米国の政策を混乱させるとともに、ウクライナ戦争の終結に向けた外交努力を損なう恐れがあるとの批判が出ています。

当局者や民主党議員は27日、この原稿にない大統領の発言は、ワルシャワで難民と交流したバイデン氏の感情的な反応だったと述べました。

この大統領の発言に意表を突かれたバイデン氏の側近らは、その影響を直ちに抑えようとしました。 ​​

上院外交委員会の共和党トップであるジム・リッシュ上院議員(アイダホ州)は27日にCNNに出演し、問題の発言は「ひどい失言」で、それ以外はよく練られていた演説を台無しにしたと述べました。

一方、フランスのマクロン大統領は、バイデン氏の26日の発言や同氏がプーチン氏を「虐殺者」と呼んだことが、戦争終結に向けた外交努力を複雑にする可能性もあると懸念を示した。

マクロン氏は、「プーチン大統領との対話を続けたいので、私ならそのような言葉は使わない」とし、「ロシアがウクライナで始めた戦争をエスカレートさせずに終わらせたい。それが目的だ」と述べました。

環球時報記事要約

ウクライナ危機におけるバイデン政権の本音は暴露されました。

それは、ロシアが出血し続けるようにウクライナを窮地に追い込み、ロシア人を屈服させて親米政権を選択させることです。

米国大統領としてバイデン氏は土曜日に、「プーチン大統領は権力に留まる事はできない」と発言しました。

この発言は、米国大統領が、米国の制裁と孤立政策に対するモスクワの効果的な抵抗に不満を持っている事を示しました。

 

米国大統領は、ウクライナの危機の間ずっとプーチン氏に攻撃を仕掛け、彼を「殺人独裁者」或いは「戦争犯罪者」と名付けましたが、ホワイトハウスは大統領の言葉の悪影響を鎮めるためにおおわらわです。

ワシントンの外交官は、米国の指導者が主要な核大国であり、国連安全保障理事会の常任理事国に体制変更を公然と要求する事が、どれほど危険であるかを考えれば、ホワイトハウスはもたらされる不確実性を最小限に抑える必要があると述べました。

モスクワの反応は穏やかで、クレムリンのスポークスマンはバイデン氏の発言を否定し、「ロシア人の指導者はロシア人が選ぶべきだ。」と述べました。

大統領の失言癖

バイデン 大統領は上院外交委員会の会長を務め、外交に明るい筈ですが、過去にも何度も失言しています。

台湾問題についても、記者の質問に「台湾有事には派兵する」と明言しましたが、この発言もその後国務省によって取り消されていますし、ロシアがウクライナ侵攻する前にも、「米国はウクライナに派兵しない」と明言して、プーチン氏の決断を促してしまいました。

外交には敢えて態度を明確にしない事で、多くの選択肢がある事を暗示し、敵の抑止につなげるというテクニックがある様ですが、バイデン 氏は常に手の内を明らかにしてしまっている様です。

今回の発言は、ロシアの反政府勢力に立ち上がれと促したつもりでしょうが、愛国心の強いロシア人は自分たちのリーダーは自分たちが決めると思うでしょうから逆効果です。

早速、中国に反米のプロパガンダに利用されていますが、なにより怖いのは、核のボタンを握っているプーチン氏に対する挑発的発言がプーチン氏を更に不安定にしかねない事です。

 

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石油増産に応じないサウジの思惑

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米国の要請に応じないサウジ

ロシアのウクライナ侵攻が引き起こした影響として、エネルギー価格の高騰そしてロシアへのエネルギー依存度を低下させようとの動きが挙げられます。

しかしいずれもそれほど簡単な仕事ではなさそうです。

というのもロシア以外のエネルギー大国であるサウジアラビアもロシア同様一筋縄では行かない国だからです。

この問題について米誌Foreign Policyが「Mohammed bin Salman Has Leverage on Biden—and Is Using It - Saudi Arabia’s cooperation on lowering oil prices will come at the cost of the West’s values.」(バイデンに対して切り札を持つサウジはそれを行使している - 石油価格の引き下げに関するサウジの協力は、西側の価値を犠牲にしてもたらされる)と題した論文が掲載されました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

ウクライナ侵攻後にロシアに課せられた制裁は、世界のエネルギー市場に大混乱をもたらしました。

西側各国は、石油が1バレルあたり140ドル近くまで上昇したときに、石油の価格を抑える方法と、ロシアの供給を引き離す方法についてパニックに陥りました。

ロシアの石油購入禁止を発表した米英は、彼らの古くからの同盟国に油田の蛇口を開けて世界の石油価格を下げるよう説得しました。

しかし、石油の最大の生産国の2つであるサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)はこれに応えず、これをチャンスと捉えました。

 

サウジアラビアは、UAE以上に、油井の鍵を握っており、増産する前に、米国からの大きな譲歩を期待しています。

人権活動家たちは、エネルギー安全保障の為に人権が再び犠牲になることを恐れています。

米国も英国も、3月中旬にサウジアラビアが81人を死刑に処したことを公に批判しませんでした。

サウジアラビアとUAEは1日300万バレル以上の予備能力を持っており、その一部を解放すれば石油価格を下げる可能性があります。

彼らの支援の保証は、ヨーロッパ諸国の懸念を和らげ、ロシアへの依存を減らすのに大いに役立つ可能性があります。

 

しかし、2つの湾岸諸国は、ロシアを含む石油カルテルであるOPEC+1へのコミットメントを理由に欧米の要求を拒んでいます。

彼らの論理的根拠は、ウクライナでの戦争はこれまでのところ石油供給の大規模な混乱をもたらしていないということです。

しかし専門家は、それが世界政治の大きな変化を反映した政治的決定であると信じています。

価格を維持するという選択は、ロシアにも利益をもたらし、湾岸の独裁政権がもはや米国の側に立つ必要性を感じなくなり、志を同じくする権威主義者との新しい同盟を受け入れていることを示しています。

 

バイデン氏はまだ大統領選挙の候補者の時に、サウジアラビアをならず者と表現し、在任中、ワシントンポストのジャーナリストであったジャマル カショギの暗殺に王子が関与したとする報告書を公表しました。

さらに、サウジアラビアとUAEは、イランの核取引再開に関する懸念が無視された際に強い不満を抱きました。

サウジの統治者は、カショギ氏の殺害を命じたという非難に関して彼を終始支持したプーチンのより緊密なパートナーとして見られることをまったく意に介していません。

 

サウジアラビアの権威主義者への接近は、2015年に当時のオバマ大統領との関係が冷え込んだ時に始まりました。

1年後、ロシアはOPECに含まれました。

リヤドとモスクワの関係はその後強化され、米国との関係は弱まりましたが、イランとの核合意から撤退したトランプ大統領在任中に改善しました。

しかしバイデンがイラン合意の復活交渉を再開したため、再び急落しました。

トランプ政権の間、ビン・サルマンは改革者として描かれましたが、バイデンの下で、彼は民間人を殺したイエメンでのサウジアラビアの軍事行動と王国内の人権侵害のために広く非難される様になりました。

専門家であるトリタ・パルシ氏は、「サウジの皇太子はプーチンに賭けている。彼は信じているだけでなく、共和党が中間選挙に勝ち、バイデンをレームダックに変えることを望んでいます。 2025年までに、バイデンと民主党が権力を失い、プーチンがロシアの大統領であり続けると皇太子は信じているようです。」

 

現在世界最大の石油生産国であるサウジアラムコは、2021年に記録的な利益を報告し、前年の490億ドルから124%の純利益が1,100億ドルに増加しました。

同社は短期的には供給を増やす必要は感じていません。

国際エネルギー機関は、今年末までに、ロシアから1日あたり少なくとも150万バレルの石油が失われる可能性があると述べています。

それは間違いなくさらなる価格上昇につながるでしょう。

 

厳しい国益の世界で最も犠牲にされやすいのは、個人の自由です。

世界的な石油の安定と価格の引き下げの為に個人の人権は犠牲になるかもしれません。

しかしサウジの皇太子は、バイデンからもっと譲歩を引き出せると考えている様です。

ダブルスタンダードのツケ

現在バイデン大統領は自由や民主主義と言った西側が大事にする価値のために戦おうと同盟国に呼びかけています。

それは正しい主張だと思いますが、一方で、サウジを代表とする資源国が人権を侵害したり、他国を侵害したりする事に、これまで目を瞑ってきたのも事実です。

このダブルスタンダードのツケを今米国は払わされているのだと思います。

このあたりで米国もダブルスタンダードをやめる時期に来ているのではないかと思います。

しかし、ウクライナ紛争で漁夫の利を得ているのは米国も同じですから、彼ら自身も油価の上昇を内心ほくそ笑んで見ているかもしれません。

 

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再認識されるトルコの重要性とウクライナ紛争における役割

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和平調停へ動くトルコ

ウクライナの戦争は1ヶ月が経ちましたが、出口が見えません。

ゼレンスキー大統領はプーチン大統領に直接交渉を呼びかけていますが、後者はこれに応えません。

誰が和平の調停を行えるのでしょうか。その適格者は多くありません。何故ならプーチン氏が真剣に耳を傾ける相手でなければならないからです。

中国は適格者と思われますが、火中の栗を拾うつもりはどうやらなさそうです。

そんな中、トルコの和平への動きが注目を集めています。

トルコの英字紙Daily Newsがこの動きに関して「Erdoğan says he will suggest Putin to find honorable exit from Ukraine」(プーチン氏にに対して名誉ある出口を見つける様にと勧めると語るエルドアン氏)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Daily News記事要約

ブリュッセルでの臨時NATO首脳会談に出席したエルドアン大統領は、プーチン大統領に、ウクライナから名誉ある出口を見つけ、戦争を終わらせることを提案すると述べました。

「私は今週末か来週初めにプーチン氏と話す可能性があります。 私たちは彼とNATO会合について話し合い、彼に『あなたは和平のために自ら動かなければならない、』と伝えるつもりです。私たちは彼に紛争を終わらせる方法を見つける事を提案すべきです。」とエルドアン氏は語りました。

エルドアン大統領は、トルコは両国が和平協定に合意した際に、ウクライナの保証国になり得る事を強調しました。

 

エルドアン大統領は、ウクライナの中立国化や部分的な軍縮などの問題は、柔軟に妥協する可能性があると示唆しましたが、クリミアとドンバスのは引き続き最も難解な障害であると強調しました。

「ゼレンスキー大統領は、ドンバスの問題について賢明な動きを見せた。彼はこの問題について国民投票が行われるべきだと述べた」とエルドアン首相は述べました。

ドンバスは、ロシア系の民族が多数を占めるウクライナ東部の州です。

この地域は現在、ロシア主導の分離主義者の管理下にあります。



「ヨーロッパの危機はトルコの重要性を再び示しており、すべての同盟国はトルコがこの地域で果たしている役割がどれほど重要であるかをよりよく理解する様になった。」とエルドアン氏は強調しました。

第一に欧州の安全保障の基本はNATOです。

これはとても明確です。

第二に、トルコは地域安全保障の必然的な同盟国です。

これは、NATOの全体会議でも二国間会議でも表明されました。

エルドアン大統領は、過去70年間と同様に、トルコは今後もNATOに対する責任を果たし続けると述べました。

 

米国はF-16の販売に前向き

米国からトルコが最新鋭戦闘機F-16を購入するための交渉については、プロセスが双方の間で前向きに進められ、バイデン大統領が、この取引承認をアメリカ議会に諮るとエルドアン大統領に伝えました。

 

ロシアに制裁を課さないトルコ

エルドアン首相は、ロシアを離れる企業は非常に多く、トルコは彼らを歓迎する準備ができていると示唆しましたが、トルコは対ロシア制裁には参加しないと強調しました。

トルコは国連主導の制裁にのみ参加すると述べました。

トルコはロシアから天然ガス需要の半分を供給しており、ロシアとの最初の原子力発電所の建設に協力しているとエルドアン氏は述べ、「それを無視することはできません。 私はマクロン大統領にも同じことを言いましたが、彼でさえ私が正しいと答えました。」

評価が一変したトルコ

最近のトルコはリラの暴落による高インフレに悩まされ、外交面でも暗い話題が多かったのですが、ロシアのウクライナ侵攻はトルコを取り巻く国際情勢を一変させてしまいました。

今やロシアの南進を食い止めるNATOの重要な一員として、欧米の見る目も大きく好転しました。

朝鮮戦争の勃発で運命の女神が日本に微笑んだ様に、ウクライナ紛争はトルコの運命を大きく変えるかもしれません。

トルコが調停役として適格性を持っているのは、ロシア、ウクライナ両国との信頼関係だけではありません。

トルコが両国の和平を保証する国として、両国に睨みを効かせられるからです。

ご存知の通り、2014年に締結されたミンスク合意はこの合意の履行を保証する筈のフランスとドイツが機能しませんでした。

ボスポラス海峡の封鎖やドローンの販売という切り札をロシアに対して持っている国はトルコ以外にはほとんどありません。

今後の和平交渉に注目しましょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

西側がニッケルを制裁対象にできない訳

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制裁対象から外れた金属

欧米はロシアに対して厳しい経済制裁を課していますが、制裁対象となっていない重要な金属資源があります。

それはニッケルです。

ニッケルは電気自動車のバッテリーの重要な構成要素であり、それが理由で対象から外れている訳です。

米国の保守系新聞であるウォールストリートジャーナル(WSJ)がこれに噛みつきました。

「Russia Can Hold Nickel Hostage」(ニッケルを人質にとれるロシア)と題された記事をかいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

共和党員がアメリカの「エネルギーの独立」を確保することについて話すとき、彼らはより多くの石油の生産を意味します。

民主党は逆に、より少ない石油を消費することを意味します。

バイデン大統領は先週、「ウクライナでの戦争は、私たちを化石エネルギーに依存しないようにする必要を思いおこさせた。クリーンエネルギーへの移行を加速すべきである」と述べました。

しかし左翼勢力が支持する気候温暖化政策は、米国を敵対的な独裁者に対してより脆弱にするでしょう.

先週のニッケル価格の高騰は、再生可能エネルギーに過度に依存することの危険性を明らかにしました。

 

ロシアは世界の高品質ニッケルの約20%を供給しています。

ニッケルは電気自動車を含む電池の重要な材料でもあります。より多くのエネルギーを蓄えるより高度な電気自動車バッテリーは、より多くのニッケルを必要とします。

 

過去数年間、世界的に高品位のニッケルが不足してきましたが、政府の義務を満たすために電気自動車の生産が増えるにつれて、さらに悪化するでしょう。

テスラのCEOであるElonMuskは、2021年2月に「ニッケルはリチウムイオン電池の生産を拡大する上での最大の懸念事項です」とツイートしました。

プーチン氏のウクライナ侵攻前の2年間で、ニッケル価格は2倍になりました。

制裁についての不確実性とロシアが輸出を阻止するという懸念が価格をさらに上昇させました。

プーチン氏は3月8日、特定の原材料と商品の輸出を禁止する法令に署名し、ロンドン金属取引所は3か月の契約価格が2倍以上になった後、1985年以来初めて取引を停止しました。

 

モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は、ニッケルの高コストは電気自動車のコストに1,000ドルを追加する可能性があると警告しました。

西側がロシアのニッケルに対して制裁を課す場合、アナリストは、「おそらく投資家が自動車会社の収益予測を下げる時期である」か、リン酸鉄リチウムのような電池技術の代替案を検討する時だと述べました。

リン酸鉄リチウムはよりエネルギー密度が低く、走行距離は短くなります。

 

これは、ロシアのニッケル採掘会社であるノリルスクニッケルとその社長であるウラジーミル ポタニン(ロシアで最も裕福な男であり、ウラジーミルプチンの長年の友人)がこれまで制裁を回避した理由を説明するのに役立ちます。

ノリルスクニッケルは、世界トップクラスのニッケル生産者です。 2018年、ノリリスクニッケルは、ドイツの化学会社BASFと「戦略的協力」を確立し、電気自動車用バッテリーの材料を製造しました。

「この合意により、ヨーロッパでの電池生産のための原材料の現地調達と安全な供給が確立されます」と彼らの共同プレスリリースは述べています。

 

パートナーシップの目的は欧州の中国への依存を減らす事でした。

中国は、電気自動車用バッテリーのサプライチェーンを支配し、世界の原材料精製の80%、バッテリーセル容量の77%、部品製造​​の60%を占めています。

中国は、グラファイトやリチウムなどの重要な鉱物も採掘しています。

しかし、ほとんどはロシア、コンゴ民主共和国、ミャンマー、インドネシアなどの国で、多くの場合中国企業によって抽出されています。

 

これらの国々は、アメリカの政治的および経済的価値や私たちの厳しい環境基準を共有していません。

鉱物採掘は汚いビジネスです。

ニッケルを採掘および精製するプロセスは、電気自動車による気候上の利点を相殺する可能性のある量の有害廃棄物と温室効果ガスの排出を生み出します。

 

したがって、民主党が米国をより「エネルギーに依存しない」ように努めれば務めるほど、私たちは、ロシア、中国、および敵対的または不安定な政府を持つ他の国に依存するようになります。

再生可能エネルギー源に必要なミネラルは、電化製品、スマートフォン、テニスラケットなどの他のものにも必要です。

再生可能エネルギーは、これらの重要な鉱物の需要を押し上げるでしょう。

 

中国やロシアが鉱物の輸出を制限した場合、深刻な原材料不足が発生し、その結果、製品が広範囲に不足し、価格が高騰します。

ガソリンが1ガロンあたり4ドルなのか5ドルなのかを心配していた頃を将来懐かしく思い出す様になるかもしれません。

 

米国という国はなかなか面白い国だと思います。

「エネルギーの独立」の定義が共和党と民主党では全く違うのですね。

グローバリゼーションの風が一時吹き荒れた世界経済でしたが、今後は敵対する陣営への依存を避けるために、経済のブロック化が加速しそうです。

我が国も資源国に首根っこを押さえつけられない様に早め早めに手を打つ必要がありそうです。

 

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ロシアに賭けるか習近平の判断は

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中国の判断は如何に

ウクライナでの戦闘は更に拡大しています。

この戦闘の帰趨を決するのは中国がロシアを支援するか否かにかかっている様です。

この点について英誌Economistが「Xi Jinping places a bet on Russia」(ロシアに賭ける習近平)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います、

Economist記事要約

中国共産党のエリートたちは、中国に都合の良いウクライナ戦争の結末を描くことができます。

中国では、「制裁措置がロシアを屈服させる事が出来ず、代わりにエネルギー価格が高騰するため、今回の西側のショーは遅かれ早かれ終息する」と学者や政府高官が予測しています。

彼らは、今回の紛争がアメリカの衰退を早め、中国を筆頭とする少数の独裁政権によって支配される勢力圏が力を増す新しい世界秩序が到来すると予測しています。

第二次世界大戦以来、世界貿易ルールの作成や普遍的価値と人権の定義を主導してきた自由民主主義について、中国のアナリスト達は、その支配を多数決の形で終わらせると自慢げに説明しています。

西側は、141カ国が国連総会でロシアのウクライナ侵攻を非難することに投票したと述べていますが、中国の学者たちは、ロシアを棄権または支持した40か国(特に中国とインド)は世界の人口の大部分を占めていると反論しています。

 

中国にとって悩ましい部分は、ウクライナでの戦争です。

中国は敗者を支持することを嫌っており、少なくとも今のところ、プーチン大統領はウクライナでの戦いに勝っていません。

これは、習近平大統領にとって厄介なことです。

習近平大統領は、侵略の直前に北京オリンピックに参列したプーチン氏と注目に値する声明に署名しました。

その中で、中国とロシアは、欧州でのNATO拡大アジアでのアメリカの同盟関係構築を批判する事に同意しました。

彼らは、民主主義の促進は西側の陰謀であることに同意しました。

北京の外交筋では、プーチン氏が習氏に、共同声明の後3週間以内にウクライナとの戦争を開始する予定であると伝えたかどうかについて議論がある様です。

習氏は、ロシア軍が侵略を目的に集結している事は、中国がロシアを熱心にスパイしているため知っていたが、プーチン氏から戦争はわずか1週間で終わるという保証を受け入れた可能性があるというのが一般的な見方です。

ロシアも中国の指導者も、ウクライナからの抵抗、ロシア軍の準備不足、西側の団結や予想もしなかった援助の提供を予期していませんでした。

「彼らは、西側は退廃的であり、ヨーロッパは中国人のカップルが新婚旅行をする巨大なディズニーランドだと思っていました」とある北京駐在の外交官は述べています。

習氏の判断ミスはタイミングが悪いです。

今年後半の党大会で、彼は長年の慣例に挑戦し、最高指導者として3期目の任期を求めると予想されています。

 

中国は当初、ウクライナについて曖昧な態度をとりました。

ロシアの侵略は、おそらく国家主権と領土保全に関する中国の神聖な原則を踏みにじっています。

これらの原則に留意し、中国はロシアが2008年にジョージアを併合し、2014年にクリミアを併合したことを認めることを拒否しました。

2022年、中国政府は1日かけて親ロシアの疑似中立の立場を採用し、旧ソ連の衛星国をNATOに加盟させたことで、アメリカがロシアを追い詰めたと非難しました。

一部のヨーロッパ人は、中国がその調子を和らげ、ウクライナで調停するかもしれないという希望を表明しました。

悲しいかな、中国はプーチン氏に敗北に似たものを受け入れるように促す動機はほとんどありません。

3月7日、習氏はプーチン氏への賭けを倍加しました。

外相の王毅氏は、年次議会でジャーナリストに、中国とロシアの関係は、米国が中国を抑圧しようとする試みに対する戦略的パートナーシップであり、さらには世界に平和と安定をもたらすと語りました。

学者たちは、ウクライナを守ることはアメリカに味方する事になる為、中国はロシアの戦争の正当性について議論することはできないと外国の特派員に語りました。

2005年から2017年までメルケル首相の外交政策顧問であるホイスゲンは、習氏との会談に何時間も参加しました。

彼は、慎重な党官僚である前任者の胡錦濤とは対照的に「力強く」、習氏が2012年に主席に就任してから、中国の政策は著しく自信を持ち、断定的になったと回想します。

それでも、彼は習氏を計算高いリスクテイカーと呼んでいます。

「中国人はそれを乗り越えることができると思うときにリスクを冒します」とホイスゲン氏は言い、香港での中国の民主主義崩壊の例を挙げ、その金融センターの重要性を反映して、最終的に国際的な抗議と制裁は限られたものになったと語ります。

彼は、中国が外国の批判を嫌う事と、国連で孤立する事に対するロシアの無関心とを対比させています。

 

第三者からみると、プーチン氏を受け入れることが中国の評判を傷つけていることは明らかです。

特に、中国の国家メディアと外務省のスポークスマンが、プーチン氏を侵略者として指名することを拒否し、ウクライナに関する悪質なロシアの偽情報を赤面もせずに繰り返す場合はなおさらです。

習氏は動揺していないようです。

残念なのは、彼が対立が賢明な選択であると信じている事かもしれません。

公の場で、習氏は、中国の台頭は止められないという印象を人々に与えるのが好きです。

彼は3月6日の諮問評議会で、「中国の統治と西側の混乱との対比がより顕著になっている」と語りました。

習氏が「力は正義」的な世界秩序を信奉している場合、ウクライナの問題は、中国企業がロシアに対する制裁に見舞われず、欧州との貿易関係が損なわれない限り、中国にとって重要ではありません。

しかし、そのリスク分析は間違っているかもしれません。

大きすぎる中国に制裁をためらう西側

さて中国はどうするでしょうか。

昨日ローマで米中の高官会議が7時間にもわたって行われた様ですが、米国は中国にロシアを支援すれば中国も制裁対象にすると圧力をかけたものと思われます。

しかし、ロシアに対するのと同じ様な経済制裁を西側が中国に対して行えるかといえば、かなり難しい様な気がします。

ロシアに対して団結したG7も中国が相手となると足並みが乱れるでしょう。

我が国もロシアと中国では経済関係の規模と重要性がまるで違います。

結果として、中国はロシアをあまり目立たない様に支援し続け、そんな中国に思い切った制裁は行われないのではと思います。

中露両国は歴史的には決して仲が良かった訳ではありませんが、米国を中心とする世界秩序に対抗するという意味ではパートナーです。

ウクライナ戦争は後で振り返れば、第二次冷戦の火蓋を切った事件として記憶されるかもしれません。

中国はアヘン戦争の敗北で覇権を失いましたが、今の中国はその時とは比べ物になりません。

 

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日本はロシアとエネルギー分野でも絶縁すべきか

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エネルギーメジャーの相次ぐ撤退

ロシアに対する経済制裁は日々厳しさを増しています。

経済制裁に関するニュースの中で、おやっと思ったのは、ロシアのサハリンで行われているエネルギープロジェクトからエクソンやシェルと行った欧米のメジャーが相次いで撤退を表明した事でした。

これらのプロジェクトは日本政府の支援を受けて、日本の民間企業も資本参加して始めたものです。

彼らも欧米企業と共に撤退するのでしょうか。

この点について米紙ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)が「Japan Sticks to Russian Oil and Gas, Bucking Western Pullouts’(欧米企業が撤退を決めたロシアエネルギープロジェクトに固執する日本)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

石油とガス購入のためにロシアへの数十億ドルの流れを遮断することは、日本がロシアを懲らしめる観点から言えば最も効果的な手段でしょう。

しかし、日本の当局者は、それが消費者価格を押し上げ、中東への依存を高める可能性があると述べています。

これまでのところ、日本はいくつかのロシアの銀行とプーチン大統領に制裁を課し、ウクライナに一億ドルの援助を提供しています。

岸田文雄首相は木曜日、ロシアのウクライナ侵攻を「絶対に受け入れられない」と明確に主張しました。

一方、日本がロシア政府主導の石油・ガスプロジェクトへの投資をシェルが行なった様に撤回するかどうか尋ねられたときに彼のトーンは弱まりました。

「エネルギーの安定供給」は「国益の一部であり、可能な限り保護しなければならない」と彼は述べました。

彼は、「日本は他国がどうするか見定めるため、しばらく様子を見るだろう」と語りました。

 

日本の躊躇は、ロシアとの関係をどこまで断ち切るかについての世界各国で始まっている再考の一例です。

米国でさえ、ロシアに厳しい制裁を課していますが、ロスネフチやガスプロムのようなロシア政府が管理するエネルギー会社との取引を許可しています。

 

日露エネルギー協力の目玉は、ロシアのサハリン島での二つの天然資源開発プロジェクトです。サハリン-1は石油を生産します。

株主には、30%の株式を保有する日本政府主導のコンソーシアムが含まれます。

日本の経済産業省は、サハリン-1が1日あたり22万バレルの石油を生産したと述べた。

 

一方、サハリン2は天然ガスを生産し、液化して海外の顧客に出荷しています。

日本はこのプロジェクトが生産するガスの約60%を購入しています。

このプロジェクトはガスプロムが主導しており、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を株を所有しています。

2021年、日本は天然ガスの9%、石油の4%近くをロシアから入手しました。これは主にサハリンからの輸入によるものです。

 

ロシア事業の構築に数十年を費やした後、日本政府と民間の投資家は、欧米企業がサハリンのプロジェクトから撤退したため、衝撃を受けました。

撤退を決めた欧米企業は、プーチン氏のロシアとの取引はもはや不可能であると述べました。

サハリン-1の運営者であるExxonMobil Corp.は火曜日、生産を停止する準備をしており、ロシアへの新規投資を終了すると述べました。

サハリン2の投資家であるシェルも、プロジェクトから撤退すると述べました。

 

三井と三菱を含む日本の関係者は、現在事実関係を確認中と回答しました。

撤退することが選択肢であると具体的に言った人はいませんでした。

 

 

現在、一部の日本のビジネスリーダーは、日本企業がロシアへの投資案件を簡単には放棄できないと述べています。

日本商工会議所の三村明夫会長は、「日本企業がすぐに欧米企業に右にならえする必要があるとは思わない」と述べました。

萩生田経産相は金曜日、サハリン-1を「我が国の安定したエネルギー供給のための重要なプロジェクト」と定義しました。

これは、ロシアが、石油の約90%を供給している中東以外の数少ない供給業者の1つだからです。

 

ロシアのエネルギープロジェクトの主要な貸し手である国際協力銀行の前田匡史総裁は、ロシアの侵略を踏まえ、「このまま同じ様に事業を進めることはできないでしょう。」と語りました。

ただ何を変更する必要があるか彼は明確にしませんでした。

 

アナリストは、日本のロシアのエネルギーへの依存度は、ドイツなどの一部のヨーロッパ諸国ほど大きくはないが、撤退は依然として苦痛をもたらす可能性があると述べています。

ムーディーズのアナリストは、「日本は、ロシアからの供給減少分をオーストラリアによって補填する可能性が高い。天然資源価格の値上がりは、インフレを引き起こすでしょう。その結果、成長が遅くなります。」と語りました。

オイルメジャーの戦略には要注意

ロシアのウクライナ侵攻は間違った行為であり、ロシアは批判されるべきであり、その対価を払ってもらう必要があると思います。

しかし、古今東西、戦争の危険を避けるためには経済関係を維持することが重要です。

相手憎しとばかり経済制裁をとことんまでエスカレートさせれば、窮鼠猫を噛むとばかり戦争拡大の引き金を引くことになりかねません。

日米戦争の原因を作ったのは日本側かも知れませんが、最終的に日本に開戦の決定を下させたのは、米国の日本に対する厳しい経済制裁でした。

ロシアと一定の経済関係を維持する事は、交渉の際のテコにもなりえます。

一方、エネルギー安全保障は我が国にとって一丁目一番地の重要課題です。

欧米のオイルメジャーは日本からロシアという選択肢を消して、高い自分のエネルギーを買わせようとしているのかも知れませんが、我々はその手には簡単に乗らない方が良いでしょう。

 

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ドル覇権に影響を与えるロシア外貨準備への制裁

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外貨準備凍結が与えるショック

ロシアに対する西側の経済制裁の中で、ロシア中銀が各国に積み立てた外貨準備金を凍結するというものがありました。

意外にも日本にもロシア政府tの外貨準備金がかなり積み立てられている事がわかり、驚きました。

ロシアが外国に保有する外貨準備への制裁は一定の効果がありますが、一方で副作用もある様です。

この点について、米紙ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)が「If Russian Currency Reserves Aren’t Really Money, the World Is in for a Shock」(ロシアの外貨準備がお金として使えないなら、世界に与える衝撃は大きい)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

「お金とは?」経済学者が何世紀にもわたって熟考してきた問題ですが、ロシアの中央銀行の外貨準備金の凍結は、特に中国にとってその重要性を再認識させました。

外国資産の積み上げが危険であると見なされる場合、軍事的および経済的ブロック間の距離が更に離れていく事になります。

ロシアが先週ウクライナを攻撃した後、米国とその同盟国は、ロシア中央銀行の6300億ドル(約73兆円)の外貨準備のほとんどへのアクセスを遮断しました。

G20の一国に対する金融システムの兵器化は長期的な影響をもたらすでしょう。

 

国際通貨基金によると、1997年のアジア金融危機に学んだ開発途上国が自国通貨を暴落から守るために手元資金を厚くしたため、外貨準備金を2兆ドル足らずから2021年には記録的な14.9兆ドルに押し上げました。

中央銀行は最近、金の購入に力を入れていますが、金は資産の13%しか占めていません。

外貨は未だにその資産の78%を占めています。

 

多くのエコノミストは、このお金を貯金箱の貯金と長い間同一視してきました。

最近の出来事は、この考え方が誤っている事を明らかにしています。

金以外の外貨による資産は他人の債務です。

つまり、預かっている人が価値がないと判断すれば価値が無くなります。

昨年、IMFはタリバーンが支配するアフガニスタンの資金へのアクセスを停止しました。

イランに対する制裁は、準備金を海外に保有することが米国財務省の行動を妨げるものではないことを証明しています。

 

確かに、西側はロシアの外国における準備金を凍結しましたが、ドルとユーロのロシアへの流入は阻止していません。

米国とEUが買い続けたい石油とガスの輸出により、ロシアの経常黒字は月に200億ドルに達すると推定されています。

Sberbankのような大手銀行のドル使用の停止や、Swiftシステムから一部の銀行の排除により、ロシア経済は混乱に陥ります。

しかし、ガスプロムバンクのようなエネルギー分野に特化した銀行への外貨の流入は増え続けるでしょう。

 

それでも、ロシアへの主要品目の輸出禁止とアップルやナイキのような企業のボイコットによって、お金の価値所蔵手段としての価値そのものが低下する可能性があります。

ロシアはエネルギー資源を西側に売るのをやめるのが合理的です。

少なくとも、ロシアの資金の多くは金と中国の資産にシフトする可能性があります。

 

実際、人民元を国際化しようとする中国の試みに対して浴びせられた批判は、ドルとは異なり、人民元へのアクセスは常に政治的考慮によって取り消されるリスクがあるというものでした。

ある意味で、これはドルを含めたすべての通貨に当てはまることが今や明らかです。

 

ほとんどの西側の国が米国と連携している上に、中国が資本規制を行っているため、ドルの覇権が脅かされる可能性は依然として限定的です。

しかし、制裁対象国が中国でしか準備金を蓄積できない場合、中国と制裁対象国との間の財政的および経済的つながりは必然的に強化されるでしょう。

制裁対象でない国でさえ、地政学的リスクを分散させたいと思うかもしれません。

それは、技術力、金融力、軍事力の2つの別々の勢力圏を定着させる事でしょう。

投資家は何ができるでしょうか?

今回に限っては、金を買うという古い慣行は懸命かも知れません。

世界の中央銀行の多くがそれを行うでしょう。

経済制裁は諸刃の剣

イランに対する経済制裁は、イラン経済を疲弊させました。

歴史上最も厳しくかつ効果的な経済制裁だったかも知れません。

北朝鮮に対する制裁も同様です。

しかしロシアの様な大国に対して同じ様な制裁を行えば、西側諸国は返り血を浴びます。

ドルが基軸通貨として特別な地位を保ってこれたのは、どの国でも使える普遍性ゆえでした。

冷戦時代の1980年代後半にモスクワを訪れた筆者は、ドルが如何に共産圏で評価されているかを知り驚きました。

ドルしか通用しない店やレストランがモスクワにはいくつもあり、そこは共産党の幹部か外国人しか入れませんでした。

今回のロシア資産の凍結は、この普遍性に逆行する動きであり、ロシア政府は今後ドルやユーロでの外貨準備を中国元などにシフトしていく事でしょう。

お金に色はないとよく言いますが、ドルの使用に政治的思惑で制限がかかるようになると、その価値は減少します。

経済制裁は注意深く使用する必要がありそうです。

それは諸刃の刃です。

 

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NATOはウクライナを見殺しにするのか

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高みの見物

昨日、バイデン大統領は一般教書演説の冒頭ウクライナ情勢に触れ、「プーチンは大きな計算間違いを犯した。自由は独裁に常に勝つ。」と誇らしげに語り、共和党を含む超党派の拍手喝采を受けました。

しかし、米国は現在の状況を手放しで喜んでいてよいのでしょうか。

ウクライナでは激しい先頭が続き、既に2000名以上の犠牲者がウクライナ側に出ています。

米国は経済制裁と防衛機器の提供に留まり、軍隊はは一兵も送りません。

これは見方を変えれば、兵力で圧倒的に見劣りするウクライナを見殺しにして高みの見物を決め込んでいるとは言えないでしょうか。

昨日、ポーランドを訪れたジョンソン英国首相は、ウクライナ人記者から「何故NATOはウクライナ上空にno-fly zone(飛行禁止区域)を設定しないのか。あなたたちは怖がっているのか。」と詰め寄られ、回答に窮している様子が報道されました。

首相の最終的な回答は「飛行禁止区域を設ける事は大変困難だ。」でした。

聞きなれない飛行禁止区域とは何でしょうか。

この点について、英誌Economistが「What is a no-fly zone? - What sounds like a humanitarian measure is also an act of war」(飛行禁止区域とは何でしょうか - 人道的措置の様に聞こえますが実は戦争行為です)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

ロシアの軍隊がキエフに接近し、ロケットがウクライナの都市に落下するにつれて、アメリカとその同盟国は介入するよう求められています。

2月28日、ウクライナの大統領であるゼレンスキーは、西側に「ウクライナに飛行禁止区域を設ける」様に求めました。

一部の影響力のある人々はこれに同意します。

「大国が主権国家を侵略し、征服しようとしているのに、あなたたちは座視して見守るつもりですか?」と2016年までNATO軍を指揮していた元アメリカの将軍フィリップ・ブリードラブは米誌Foreign Policyのインタビューで語りました。

 

空域の立ち入り禁止を宣言するという考えは古くからありました。

第一次世界大戦後、ドイツはベルサイユ条約の下でいかなる種類の軍事飛行も禁止されました。

しかし、現代の飛行禁止区域は、イラクの当時の独裁者であったサダム フセインが、彼の国の北部のクルド人と南部のシーア派を攻撃した1990年代にさかのぼります。

米英仏は、イラクの北部と南部に飛行禁止区域を宣言しました。

それを実施するために、彼らは1991年から2003年の間に約225,000回の出撃を行ないました。

同様の飛行禁止区域は、1993年から1995年の間にボスニア・ヘルツェゴビナで、2011年にリビアでNATOによって施行されました。

飛行禁止区域は、地上の軍事目標や民間人を攻撃するために戦闘機を使用することを防ぎます。

しかし、その人道的メリットには代償が伴います。

単に立ち入り禁止を宣言するだけでは十分ではありません。

自らの飛行機でその地域をパトロールし、敵の飛行機に発砲する準備をする必要があります。

安全なパトロールを確実にするためには、地上の防空システムを特定し、妨害し、破壊することを必要とします。

飛行禁止区域の現実は、それが戦争行為であるということです」とブリードラブ氏は指摘します。

 

イラクとリビアとの戦争とロシアに対する戦争は全く別物です。

飛行禁止区域には、「英国の戦闘機がロシアの戦闘機を撃墜することが含まれる」と、英国の国防大臣のベン・ウォレスは語りました。

彼は、それがNATOを紛争に引きずり込み、最終的には「ヨーロッパ全体でのロシアとの戦争」をもたらす可能性があると述べました。

NATOの事務総長であるイェンス・ストルテンベルグは、NATOは「地上でも空中でもウクライナに移動する意図はない」と述べました。

 

一部の人は、「 アメリカは、ウクライナ西部に部分的な飛行禁止区域を確立できる。」と主張します。

もしキエフが陥落した場合、ウクライナ西部の飛行禁止区域は、ゼレンスキー氏が西部の都市リヴィウに代替政府を設立するのに役立つかもしれません。

おそらくまさにその理由で、ロシアはこの案に関心を示していない様です。

ロシアはウクライナ上空を自由に飛ぶ事を望んでいます—そして西側はそれを止める手段はほぼありません。

危険な前例を作ることに

西側の経済制裁が功を奏して、ロシアがすんなり撤退してくれると良いのですが、そううまく行くでしょうか。

プーチン氏はいかなるコストを払っても、ウクライナを制圧しようと考えている筈です。

もし彼の試みが成功すると、これは大変危険な前例を作ることになります。

もし通常兵力で優勢な国が核も保有しており、隣国が核を持たず通常兵力でも劣勢な場合、今回のウクライナの様に隣国に侵略されかねません。

しかも援軍はロシアとの核戦争を恐れて介入しません。(先日のプーチン氏の核爆弾に関する言及は西側への警告だったと思われます。)

米国が世界の警察官だった時には考えられないシナリオが現実化しようとしています。

オバマ大統領の時代から、米国は内向きに向かい、海外への関与を減らそうとしてきました。

プーチン氏の様な策略家はこの米国の変化を見逃さなかったという事だと思います。

我が国に一大事が起こった時に、米国は本当に助けに来てくれるのでしょうか。

ウクライナを外野から応援している米国に一抹の不安を感じざるをえません。

当面、ウクライナの市民の犠牲を増やさないために、西側は経済制裁だけでなく、停戦合意の実現のため、積極的な調停を行う必要があると思います。

 

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トルコで野党団結固まる

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2023年はトルコにとって選挙の年

ここのところ欧米のメディアはウクライナの話題で持ちきりです。

皆争い事が好きなんですね。

メディアもビジネスですからどうしても視聴率が取れるとか読者の目を引く方に流れます。

国内問題から国民の目をそらしたい各国政府もこれ幸いとばかりに、この話題に飛びついている様な気がします。

という訳で、今日はウクライナから離れて、その対岸に位置するトルコの政治情勢について取り上げたいと思います。

トルコはNATOの同盟国で、黒海と地中海に面する戦略的要衝に位置する国です。

この国は過去20年間実質的にエルドアン大統領に統治されてきました。

議院内閣制であったシステムは途中で大統領制に変わり、現在に至っています。

来年2023年はトルコにとって重要な年です。

大統領選と総選挙が予定されているからです。

トルコの新聞Hürriyetが「Altılı masa’dan açıklama için 28 Şubat tarihi」(2月28日の為に6つの野党党首が集結)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Hürriyet記事要約

前夜、野党第一党CHP党首のクルッチダオル氏の招待を受けて集まった6人の野党指導者は、ロードマップを作成しました。

合意されたロードマップを2月28日に発表することが決定された一方で、クルッチダオル氏はHDP(クルド系の政党)についても「私たちは彼らを無視しているのではなく、話し合っている」と述べました。

5時間15分に及ぶアンカラでの「円卓会議」で、彼らは政権を獲得した際に実現しようとする「強化された議院内閣制」について議論しました。

 

二度目の党首会談が2月28日に行われる事は事前に予定されていなかったとのことで、今回の党首会談の準備に携わっている情報筋は、「スケジュールは党首の決定に委ねられた。それは私たちにとって驚きだったが、それはクルチュダオル氏の政界引退に沿った一歩と見なすことができる。」と語りました。

 

「HDPとの協議」

選挙協力の議論について、クルッチダオル氏は「アライアンスが大きくなるのか小さくなるかよりも 重要なことは、国を現在の状態から脱却させる方法が設定されていることです。HDPを無視しません。 そうすれば、それは私たちが民主主義を信じていないことを示すでしょう。 この過程で、私たちは各当事者と話し合い、交渉を続けていきます。」と語りました。

CHPの情報筋は、「共通の原則は明確であり、これらの原則の枠組みの中に入ることを望む人々に門戸が開かれている」というメッセージを与えました。

会議中に、選挙と権力掌握の目標のために、6つの党の間で合同作業部会を形成することも決定されました。

これらのグループの作業領域は、経済、憲法と正義、外交政策、選挙協力と安全保障、そして政権発足後最初の100日と500日の準備とする事が決定されました。

 

会談後に署名された共同声明の中で、彼らは「トルコが何年にもわたって見たいと望んでいた歴史的な和解と団結のために集まった。」と述べました。

「それは私たちの問題に対して。民主政治の領域を広げ、多元主義に基づいてそれを解決するためです。トルコでは、協議と合意によって解決できない問題はありません。重要なことは、欧州評議会とEUの規範の枠組みの中で基本的権利と自由が保証され、誰もが自分たちを平等で自由な市民と見なし、自由に自分の考えを表現し、自分たちのように生きることができる民主的なトルコを構築することです。今日、私たちは国を代表して『明日のトルコ』を建設するための重要な一歩を踏み出しました。」と述べています。

トルコを左右する大統領選

トルコのエルドアン大統領は強権的と言われ、トルコでは野党に関する記事など紙面に載らないのではと思っておられる方も多いと思いますが、それは誤解です。

確かに、言論の自由が侵害されている部分はありますが、独裁国家ではありません。

メディアも西側ほど自由ではありませんが、上記記事の通り野党の活動についても報道されています。

選挙もかなり公正に行われ、市民の監視が許されています。

でなければ、昨年行われたイスタンブールやアンカラの市長選で与党候補が破れるなどと言う事はありえません。

従って、与党が選挙結果を操作するのはほぼ不可能です。

 

その様な環境下、エルドアン大統領を党首とするAKP(公正発展党)にとって、今回の野党連合は大きな脅威になると思われます。

今回大同団結した野党の中には、以前エルドアン政権下、首相を勤めたダブトール氏財務大臣だったババジャン氏が新しく作った党も含まれています。

要するにエルドアン氏の腹心の部下が袂を分かって反エルドアン連合に加わっている訳です。

この野党連合を仕掛けた人物、野党第一党CHPの党首クルッチダオル氏が今回の野党団結を機に政界引退を考えているというニュースには驚きました。

彼が野党の統一候補としてエルドアン氏との大統領選に臨むのではと、筆者は予測していたのです。

好好爺然としたこの政治家、人は良さそうですが、エルドアン大統領の向こうを張って勝てるほどのカリスマ性は備えていません。

彼が今回自らの政治的野心を封印して野党団結を促したとしたら、政治家として立派な決断だと思います。

来年の大統領選どうなるでしょう。

もし野党候補が勝ち、ババジャン氏(エルドアン政権前半期の財務大臣)が経済の司令塔に返り咲く様な事が起これば、トルコリラは急騰すると思います。

先日のブログで「ビッグマック係数」を取り上げ、トルコでは米国の三分の一の価格でビッグマックが買えるとお伝えしましたが、野党が勝てばそうは行かなくなるでしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

 

中国のグランドデザインを描く知恵袋

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中国の戦略を担う男

中国が経済開放路線に舵を切って以来、その成長には目覚ましいものがあります。この成長戦略を描いたのは誰でしょうか。

その中心人物として注目される人物が存在します。

それは現在、七人しかいない政治局常任委員の一人である王滬寧氏です。

彼は過去三代の主席(江沢民、胡錦濤、習近平)の知恵袋として仕え、米紙ウォールストリートジャーナルは彼のことを「​​カール・ローブとヘンリー・キンシャンジャーを一緒にした様な存在」と形容しました。

奥の院で中国のグランドデザインを描くこの人物に関して英誌Economistが「Wang Huning’s career reveals much about political change in China - He has shaped the leaders’ defining policies for more than two decades」(中国の政治の変遷を反映する王滬寧の経歴- 20年以上にわたり中国主席を輔弼)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

1989年の天安門広場事件の前年、中国では国をリベラルにする方法について議論が高まりを見せました。

一部の知識人に、西側はモデルを提供しました。

同時期、ソ連では、ゴルバチョフが如何にスタートを切るかを示しました。

そんな中、1988年8月、ある中国の政治学者が半年間の研究のためにアメリカに到着しました。

彼はアメリカが多くの問題を抱えていることを知りましたが、同時に称賛すべき点も多く見出しました:

特に大学、イノベーションそしてスムーズな権力の移行です。

32歳の共産党員は資本主義を「過小評価すべきではない。」と書きました。

 

その学者である王滬寧は現在、共産党の最高統治機関である政治局常任委員会の7人のメンバーの1人です。

彼はイデオロギーとプロパガンダの責任者として、「中国は真の民主主義を実践しており、アメリカは偽物であり、アメリカは衰退している。」というメッセージを打ち出しています。

アメリカとの激化するイデオロギー戦争に奔走する党にとって、このメッセージは驚くべきことではありません。

しかし、 彼の初期の著作を見れば、彼は偏狭なナショナリズムに囚われていませんでした。

彼はアメリカのシステムに弱点を見ていましたが、それらを誇張しませんでした。

彼は中国にも問題が存在することを認識していました。

さらに驚くべき事は、彼は三人の異なった指導者の下で党のメッセージを作り続けてきた事です。

中国の現在の統治者である習近平は、彼が古くからの仲間ではないにもかかわらず、彼を信頼し、かけがえのない役割を任せています。

国営新聞は彼を党の「ナンバーワンアドバイザー」と呼びました。

 

彼が舞台裏で何をしているのかは闇に包まれています。

唯一ヒントを与えてくれる香港の共産党に近いメディアによれば、、江沢民の「3つの代表」(民間起業家の党への入会をめぐるタブーを取り除いた)から胡錦濤の「科学的発展観」そして習近平の、豊かで軍事的に強く、世界のリーダーになるという「中国の夢」に至るまで全て王氏の手にかかったものの様です。

 

三代の主席に重用されるという事は、政治的な綱渡りが必要だったかもしれません。

1995年に上海の復旦大学から王氏を北京の党本部に登用したの江沢民でした。

現在、江沢民と胡錦濤は習近平の粛清の対象になっています。

政治家ではなく学者であることが王氏が党の権力抗争を乗り越えるのを助けたかもしれません。

すべての派閥は、理論家としての彼のスキルと、それらを柔軟に使用する能力を評価しています。

 

王氏が本当に何を考えているのかを知ることは不可能です。

王氏が政治局常任委員会に昇格した翌年の2018年に、習近平氏が規則を変更して、中国の指導者が無期限に政権を維持しやすくしたとき、彼はどのように反応したでしょうか。

1991年に出版された彼のアメリカ滞在についての著作「America Against America」の中で、王氏は、政治システムが権力を移行する方法を考案しなかった場合、その国は永続的に安定するのは難しいだろう」と述べています。

しかし、王氏が現在習近平氏が推進しているキャンペーンを信じていると仮定すると、彼の知的冒険はこの本を書いた時点で終わったのかも知れません

 

1980年代末期以降、多くの変化がありました。

第一に、1989年の天安門事件に代表される民主化の混乱は、党の政治改革の話をほとんど終わらせました。

その後、他の国々で共産主義体制が崩壊しました。

そして 1990年代のこの国の経済ブームは、国を安定させることができる強力な政党の魅力を後押ししました。 



今年の終わりに、党は5年に一度の会議を開催します。

そこでは、習近平主席が党の指導者であり続けることが明らかになるでしょう。

その会議後に王氏に何が起こるかは明らかではありません。

彼は66歳で、さらに5年間政治局常任委員会にとどまるのに十分な若さです。

しかし、おそらく、王氏は引退の準備ができています。

「人が長い間仕事をしていると...彼の考えは徐々に固定され、オープンマインドを欠く様になるでしょう」と彼は1994年の彼の日記に書きました。

習近平主席への無条件の献身を執拗に要求する中国のプロパガンダは、固定的思考が政治システムに浸透した問題であることを示唆しています。

中国で権力移行は可能か

ベルリンの壁が崩れ、ソ連が崩壊した際に、西側諸国は中国の共産党政権の崩壊も近いと予測しました。

しかし、その予測は見事に外れました。

ソ連や東欧の共産主義国家が崩壊したのは、市場経済をうまく導入できなかった事が主因である事を示し、経済解放を見事に果たした中国と好対照を示しました。

政治は強権の一党独裁、経済は自由な市場経済というハイブリッド国家を中国は実現し、貧困に喘いでいた国民の多くを貧困レベルから解放しました。

西側の予測を見事に外させた中国政府の中枢には、王滬寧氏の様な優秀な官僚が存在している事は間違いありません。

秦の始皇帝以来の中央集権官僚システムを侮ってはいけないと思います。

 

チャーチルが指摘した様に、西側の民主主義システムは多くの欠点を有していますが、権力の移行を選挙によってスムーズに行えるという点がこの政治システムの優位性だと思います。

しかし、昨年の米国での国会議事堂襲撃事件にみられる様に、西側の民主主義も揺らいでいます。

中国は西側の民主主義が抱える問題を間違いなく突いてくるでしょう。

筆者の推測では、王氏は現在次の様に考えているのではないでしょうか。

「中国は一党独裁であるが、共産党の中には多くの異なったグループがあり、激しい政策論争を繰り広げている。そして派閥間の権力移行も過去にスムーズに行われてきた。『選挙は盗まれた』と唱えて、権力にしがみつこうとしたトランプなどよりは遥かにまともだ。今回の習近平主席の任期延長は、米国との対立という文脈の中で、党内抗争に明け暮れる場合ではないという例外的な判断である。」

米国のメディアでは、「中国恐るるに足らず」と楽観視する報道も多いのですが、王氏の様に米国留学で米国の強みと弱みを認識した中国人は数百万人に上ります。

油断すれば敗北する可能性があります。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

英誌Economist岸田首相の新資本主義を斬る

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「新しい資本主義」とは何か

岸田政権は支持率の面では上場の滑り出しを示しています。

「国民の声に耳を傾ける政治」というキャッチフレーズが評価されている模様で、野党もソフト路線の首相を攻めあぐねている様です。

しかし、彼が提唱する「新しい資本主義」の中身は未だ明らかにされていません。

この点について英誌Economistが「Kishida Fumio’s “new capitalism” is many things, but it is not new 」(岸田文雄の「新しい資本主義」は盛り沢山だが新しくない)とする記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

岸田首相のスローガンである「新しい資本主義」は少なくとも新しいアプローチを約束しているように見えます。

しかし、その考えは古いアイデアと中身のない流行語の寄せ集めの様です。

岸田氏の政策リストには、賃金の引き上げ、新興企業の育成、地方の活性化、炭素排出量の削減が含まれています。

すべて賢明なアイデアですが、目新しいものはほとんどありません。

 

何十年も停滞している賃金を取り上げましょう。

賃金上昇が経済を活性化すると岸田首相が指摘するのは正しい事です。

先進国の基準では低い平均最低賃金(1時間あたり930円)を大幅に引き上げることや同一労働同一賃金法を厳格に実行させたり、労働者の会社間の移動を容易にする事も可能です。

しかし岸田氏は、それらの代わりに一部の公的部門の従業員に1回限りの昇給を行い、民間企業に同じことをするように働きかけました。

2012年から2020年まで首相を務めた安倍晋三氏は、同様の政策を実施し、ほとんど役に立ちませんでした。

 

もう1つの慢性的な問題は、日本の労働力の減少です。

より多くの外国人労働者を受け入れるという選択肢もありましたが、首相は、代わりにパンデミックが始まって以来、ほとんどすべての外国人入国を禁止する厳格な国境政策に固執し、1633年から1853年の鎖国時代になぞらえました。

気候変動に関する新しい考え方には、炭素排出量への課税と石炭の廃棄が含まれる可能性がありましたが、岸田氏は産業界を尊重して両方の政策に抵抗しました。

 

古いアイデアも彼の政策に盛り込まれています。

岸田氏の「田園都市国家構想」は、農村を復活させるためのデジタルインフラへの投資であり、1970年代に大平正芳元首相が提唱した「田園都市」のコンセプトをアップデートしたものです。

この計画を実現するために、彼は大規模な財政刺激策と比較的緩い金融政策、すなわち安倍氏が「アベノミクス」の3本の矢と呼んだものの最初の二つに依存します。

 

岸田氏の下での最大の変化は言葉の上でした。

彼は、不平等と貧困を悪化させる「新自由主義」に反対しています。

「改革」という言葉は、岸田氏の語彙には事実上ありません。

岸田氏の政策は、彼の国の病気に関する誤診を明らかにしています。

日本は新自由主義の要塞ではありません。

それは多くの先進国より平等です。

日本の場合、不平等の拡大よりもダイナミズムの欠如が問題です。

 

岸田氏の唱える「新資本主義」に一貫性があるとすれば、それは国内政治に関する部分でしょう。

新自由主義の悪に対して説教することは、野党から有用な論点を奪います。

アベノミクスを批判することで、まだ影響力を持つ前任者との差別化を図ることができます。

非常に慎重なコロナ政策は、菅前首相を政権から引き摺り下ろした無関心層の非難から隔離します。

有権者は満足しているようです。

岸田氏の支持率は60%近くにとどまっています。

 

パンデミックに関連した大きな挫折がなければ、彼は今年の夏に予定される参議院選挙で勝利が見込めます。

その後、岸田氏は次の総選挙まで3年の猶予があります。

その間、何か新しいことを考え出すのに十分な時間があります。

国民に優しげな政策の危うさ

なかなか厳しいEconomistの指摘ですが、痛いところを突いていると思います。

現在の岸田政権は、今年6月の参院選挙まで支持率を維持する事に専念し、安全運転に終始している様です。

長期政権の目処がたてば、エッジの効いた政策を展開してくれると筆者は期待していますが、どうなるでしょうか。

次世代の日本が再び輝ける様な国造りを進めてくれると良いのですが。

国民も一見優しげなばらまき政策などに騙されない様にした方がよさそうです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。