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英国から見た日本人の中国観

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複雑な日中関係

日中両国は隣国として2000年を超える関係を持っていますが、20世紀に入ってからというもの、幾つかの戦争を経験しました。

現在も民主主義陣営に属する日本は中国と様々な問題を抱える一方、最大の貿易パートナーとして緊密な関係を有しています。

この二国間の関係を欧米はどの様に見ているのか。

この点について英誌Ecoinomistが「How Japan sees China」(日本から見た中国)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

日本から中国への公式訪問の最初の信頼できる記録は紀元前238年ににさかのぼります。

そのとき、日本の女王である卑弥呼が、10人の奴隷と織物を捧げて中国の魏王朝に代表団を派遣しました。

7世紀には、当時日本の大部分を支配していた大和は、隋と唐の宮廷に敬意を表して使節を定期的に派遣していました。

日本は中国の漢字を採用しました。

 

日本は、何世紀にもわたって、大きな隣国を警戒しながらも、緊密な関係を築いてきました。

1970年代後半から1980年代にかけて、戦時中の残虐行為に対する罪悪感に一部動機付けられて、日本は中国の近代化を支援しました。

日本企業は、成長する市場にいち早く参入しました。

日本の指導者たちはまた、特に2010年から2012年にかけて、日本が尖閣諸島と呼び、中国が釣魚島と呼ぶ東シナ海の無人島をめぐって衝突した後、中国の拡大主義について早期に警鐘を鳴らしました。

「私たちは警告しました。これは日中間の小さな問題ではなく、この地域で中国の力が高まっている兆候です」と元駐米日本大使の佐々江賢一郎は言います。

 

当時、中国を世界経済に統合することに夢中になっていた欧米は、その様な見方に耳を貸しませんでした。

しかし、近年、香港での中国の侵略、新疆ウイグル自治区での弾圧、台湾周辺での緊張は、多くの西側政府を中国に関して懐疑的にしました。

中国との競争の時代に突入する中、日本の視点は見直されています。

一部の米英の当局者は、中国への理解を深めることを期待して、日本を英語圏の情報共有ネットワークであるファイブアイズに招き入れる事を検討しています。

「15年前、中国のネガティブな側面について[西洋の同僚]と話をした際、私は右翼で中国を嫌う日本人学者として扱われました」と東京大学の中国専門家である松田康博は言います。

「今、彼らは私たちの言うことに耳を傾けます。」

 

中国に関する日本人専門家は現在、3つの懸念される傾向について語っています。

1つ目は中国の自信過剰です。

「彼らは、西側諸国が衰退していると本当に信じています」と、元日本の国家安全保障問題担当補佐官である兼原信克は言います。

彼らの中には第二次世界大戦前の日本の自信過剰状態との類似性を指摘する人もいます。 

 

2つ目は、習近平国家主席の下での集団的リーダーシップから個人的リーダーシップへの移行です。

日本の当局者は、一人の男性の決定に依存していることで、中国が北朝鮮のようになる事を心配しています。

確かに、この点では、習氏は、スイスで教育を受けた金正恩よりも西側の世界を知らない可能性があります。

 

最後に、中国経済の状況があります。

「共通の繁栄」を求める中、最近の大企業に対する習氏の取り締まりにより、東京の多くの人々は中国経済の将来について懸念を抱いています。

「中国人が私たちのところにやって来て、私たちにもっと投資するように勧めています」と日本の大手銀行の顧問は言います。

「しかし、中国人がこれを言うとき、それは彼らが問題を抱えていることを意味します。」

一帯一路イニシアチブを通じた中国の海外インフラプロジェクトへの支援は、近年劇的に低下しました。

中国経済が国内で「深刻な問題」に直面している兆候であると、国際協力銀行の前田匡史総裁は語ります。

 

中国の経済減速は、日本自身の経済に劇的な影響を与えるでしょう。

中国は、最大の貿易パートナーであり、日本の輸出の22%は中国向けです。

日本の中国ウォッチャーは、台湾や尖閣/釣魚島周辺でナショナリズムをかき立てることによって、習氏が経済の低迷から注意をそらす可能性があることを恐れています。

それでも、多くの日本の学者は、台湾をめぐる戦争が差し迫っている点についてアメリカの学者よりも懐疑的です。



日本の対中政策はここのところ変化しようとしています。

コロナが発生する前は、日本と中国は比較的好関係を維持していました。

安倍首相は2020年4月に習近平氏を公式に招待しました。

コロナはそれらの計画を中止させました。

岸田文雄新首相は慎重ですが、いくつかのタカ派的アプローチを採用しました。

彼の内閣には「経済的安全保障」のための新しい大臣が含まれており、重要な物資に対する中国への依存を減らす任務を負っています。

彼はまた、新疆ウイグル自治区と香港での中国の虐待に対してより厳しい姿勢を取ることを視野に入れて、中国に対するタカ派として知られる元国防相の中谷元を人権担当補佐官に任命しました。

2022年、日本と中国は戦後の関係正常化から50周年を迎えます。

これを祝おうというムードはほとんどありません。

2021年には、日本人の約71%が、中国が「脅威」をもたらしたと述べ、2020年の63%から増加しました。

同様に、中国人の66%は、53%から増加して日本に対して否定的な見方をしました。

日中関係は今後混乱する可能性があります。

欧米の日中両国を見る目は変化する

上記の記事を読むと、日本の中国を見る目が変わったのではなく、欧米が日中両国を見る目が大きく変わった事に気付きます。

基本的に、欧米は中国と仲の良い時は、日本を軽視し、中国と関係が悪化すると日本をちやほやする傾向にあります。

第二次世界大戦直後は国民党の中国を欧米は重視しましたが、冷戦時代に入ると共産党の支配下に入った中国を敵視し、日本を同盟国に引き上げました。

今回も中国が欧米の最大のライバルになるや否や、日本をファイブアイズといったアングロサクソンの諜報網に仲間入りさせようなどと言い出します。

大事なことは、日本は自分の国益をよく考えて行動することだと思います。

欧米は移り気です。

その内、中国とよりを戻し、日本を冷遇するかも知れません。

そういうシナリオも頭の隅に置いておく必要があるでしょう。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

外国人入国禁止に対する英国の厳しい意見

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自宅隔離の経験

海外出張から帰国し、今日漸く14日間の自主隔離期間が終了します。

生まれてこの方これほど長い期間外出しなかった事はなく、正直言ってかなりしんどい経験でした。

それでも筆者などは運が良い方で、同じ飛行機に同乗した乗客の中にオミクロン患者が見つかれば、自宅ではなく指定されたホテルで隔離生活を送るはめになっていました。

我が国はオミクロンの感染が始まってからというもの、外国人の入国禁止(滞在許可を有している人も含む)など世界で最も厳しい検疫対策を講じました。

これが功を奏したのか、現時点で感染者は非常に少ない状態を維持しています。

しかし日本の常識は海外の常識ではありません。

英誌Economistが「Why travel bans are usually the wrong way to curb Omicron - Most such restrictions are disruptive and ineffectual」渡航禁止令がオミクロンを抑制するための間違った方法である理由 - そのような制限のほとんどは混乱をもたらすだけで効果が無い)と題した記事を掲載しました。

現在20万人近い新規感染者を出す英国にそんな事言う権利はないと思われる方も多いかと思いますが、彼らの言い分を聞いてみましょう。

Economist記事要約

2019年12月31日、世界保健機関は、武漢で生じた肺炎の症例と思われるもののクラスターについて知らされました。

次の数週間と数ヶ月の間に、最初は都市、次に国、そして最後に地球全体が閉鎖されました。

人類は過去2年間でコロナウイルスについて多くのことを学びました。

マスク、ソーシャルディスタンス、そして何よりも、ワクチンはその広がりを抑えるのに効果的であることが証明されています。

しかし、1つの教訓は浸透していません。

それは長期にわたる渡航禁止令はほとんど無駄という事です。

 

11月、南アフリカが急速に普及している新しい変異種であるオミクロンの発見を発表した時、多くの国の最初の対応は、南アフリカからの旅行者に対する入国禁止または面倒なホテル隔離でした。

日本やイスラエルなどの一部は、すべての外国人に対して国境を閉鎖しました。

シンガポール、韓国、タイなど、再開の過程にあった他の国々もすぐに考えを変えました。

ヨーロッパの国境のないシェンゲン圏でも、移動制限が復活しました。

 

発生の初期段階では、変異株の感染が少なく、検査そして追尾システムが感染経路をたどることができるため、渡航禁止令は理にかなっています。

 渡航禁止令によって、新しい変異株について調べたり、病院を準備したり、予防接種を展開したりするための時間を買うことができます。

しかし、渡航禁止令は、変異株が国内で勝手に拡大し始めると、ほとんど意味がないにもかかわらず、政府はそれに固執する傾向があります。

フランスが12月16日に英国からの必須ではない旅行を禁止し、オミクロンを締め出すことを望んだ時には、フランスはすでに1日平均50,000を超えるオミクロンの感染を記録していました。

これは、渡航禁止令によって引き起こされた経済的および社会的混乱を正当化するには十分ではありません。

 

渡航禁止令が長続きしない理由の1つは、禁止しても漏れるからです。

国は国民、居住者、その家族、不可欠な労働者、外交官、重要なビジネスマン、またはそれらのいくつかの組み合わせを許可しています。

オーストラリアやニュージーランドが行った様な長期渡航禁止令を課す国は、彼らの世界的なつながりだけでなく、国民自身にも莫大な負担が生じる事を覚悟しなければなりません。

2021年のほとんどの間、オーストラリア人は自国に戻るのに苦労し、そのために飛行機や検疫ホテルに法外な金額を支払わなければなりませんでした。

オーストラリア人は過去2年間、州境を越えることを許可されていません

メルボルン市は2021年に262日間封鎖されました。

 

そのような政策は人命を救うことができ、島国での感染は少なくなります。

しかし、非常に長い間それを容認することをいとわない民主主義国家はありません

依然として厳格なゼロコロナ政策を追求している唯一の国は中国であり、中国は最近のウイルスの発生を封じ込めるために必死の対策を講じています。

12月に毎日の感染がゼロから100以上に増加した西安市では、当局が猛烈な封鎖を課し、人口を繰り返し大量検査し、約3万人をホテルの検疫に押し込みました。

そのような措置は中国で人気があり、人々は厳しい支配者を信用しています。

しかし、オミクロンの高い伝染性を考えると、中国のゼロコロナ政策が持続可能であるかどうか、また中国が最終的にどのようにそれを超えて病気と共生するかは明らかではありません。

世界の他の地域にとって、最善のアプローチは、政府が最も費用効果の高い政策、特にワクチンブースターを促進する一方で、幻想を作り出すためだけに物事を禁止したいという衝動に抵抗することです。

英国とアメリカは、最近評価すべき常識を示しています。

両国は、変異株が国内で感染していることが明らかになった後、アフリカ南部の国々の渡航禁止令を撤廃しました。

アメリカは、旅行前にPCRテストを取得しなければならない期間を短縮しました。

英国は、到着してから2日以内に検査を受け、否定的な結果が出るまで自己隔離するように旅行者に求めました。

そのような措置は、最小限の混乱を目指すべきです。

合理的な判断を

今回のコロナ騒ぎで感じたのは、感染対策というのは極めて政治的な判断を求められるという事でした。

感染を食い止めるという観点から言えば、入国禁止が最も効果があります。

しかし、経済を回すという観点から言えば、それは零点に近い回答です。

従って、感染防止をとるのか経済を取るのかという極めて難しい方程式を解く事が必要になり、これは感染学の専門家ではなく、政治家の仕事になります。

ここで問題になるのは、政治家は選挙のことを最優先に考える点です。

マクロン大統領が英国からの入国禁止を主張したのは、やはり大統領選挙が視野に入っているからではないかと思います。

我が国も来年参院選挙があります。

これが政治家のメガネを曇らせなければよいなと思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

良い年をお迎え下さい。

プーチン大統領が築き上げた筋肉質のロシア

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悪役のロシア大統領

プーチン大統領は欧米メディアにおいては、明らかに悪役です。

ただし、どこの国のメディアにも何らかのバイアスがかかっていますので、彼を客観的に評価する努力は必要だと思います。

プーチン氏が冷血漢である事は間違いなさそうですが、政治家としての彼の評価は歴史の判断を待つ必要があるでしょう。

米国の外交誌Foreign Affairsが「What Putin Learned From the Soviet Collapse - To Preserve Its Global Ambitions, Russia Is Managing Its Economic Limits」(プーチンがソ連崩壊から学んだ事 - 世界的な野心を実現するために、経済面での弱点を補強している)と題した論文を掲載しました。

著者は米国のシンクタンクに務める二人のロシア専門家(Richard ConnollyとMichael Kofman)です。

Foreign Affairs論文要約

ソ連が30年前の、1991年12月25日に崩壊する前、経済的機能不全は数十年続いていました。

ソ蓮の指導者ゴルバチョフは、1970年代と1980年代を停滞の時代であるザストイと呼び、改革の実施を唱えました。

しかし、彼は問題を認識していましたが、病んでいる社会主義システムを救うことはできませんでした。

 

表面的には、ロシアの経済は今日も同様に機能不全に陥っている様に見えます。

一人当たりの収入は過去10年間改善されていません。

世界のGDPに占めるロシアの割合は2008年以降減少しています。

また、経済の大部分は技術的に後れを取っているか、近代化が必要とされています。

一般的な経済状態は、再び「停滞」と表現することができます。

 

それでも、プーチン大統領と彼の政府は、彼らのソ連の先祖と同じ運命に苦しむ可能性は低いと思われます。

北京の共産党指導者がソ連の歴史を研究したように、現在のロシアの指導者も1970年代と1980年代にソ連の衰退を逆転させようとしたが失敗した試みから教訓を得ました。

ロシアの経済学者セルゲイ・グリエフが最近述べたように、「ロシアのマクロ経済政策は保守的であり、インフレは抑制されており、大きな準備金があり、バランスの取れた予算があり、対外債務はありません。そして市場経済としてロシアはソ連よりはるかに効率的で回復力があります。」

 

確かに、ロシアは、継続的な成長と資源輸出への依存を減らすという点では、まだ苦労しています。

しかし、モスクワは米国との持続的な競争のために自らを強化することに成功しました。

経済は大きな弱点ではなく、政権の安定を確保し、西側が課した制裁を乗り切る事が可能になっています。

 

1986年と1997年の石油市場の暴落は、ソビエト連邦とその後誕生したロシア連邦に大きなショックを与えました。

2000年にプーチン大統領が就任直後に創設した安定化基金は、これらの不安への直接的な対応でした。

今世紀初めの石油価格の大幅な下落、および2014年と2015年の景気後退にもかかわらず、モスクワは外貨準備の再構築に成功し、将来の米国の制裁に対する脆弱性が低くなっています。

 

プーチン政権下では、輸入への依存を減らすことも目指してきました。

1986年オイルショックが発生したとき、ソ連のパンの3斤のうち1斤は輸入穀物を使用して生産されました。

 

ロシアの指導部はまた、財政の弱さが国際舞台での外交の自由を制限するという教訓も得ました。

1980年代後半、ワルシャワ条約機構の混乱とドイツ統一の可能性に直面したとき、ゴルバチョフは限られた選択肢に直面しました。

ワルシャワ条約機構の主要国は西側から多大な支援を受けていましたが、ソ連はこれらの衛星共産主義政権の衰退する経済を支える能力がありませんでした。

西ドイツの財政支援を獲得することも、ソ連がドイツ統一を黙認する要因でした。

 

その後、ロシアは、1990年代を通じて外交の世界で無視されました。

ロシアの指導部が国の債務を返済し、外部資金への依存を減らすと、ロシアの国際社会における地位も回復し始めました。

 

現在のロシアは今日、ソ連時代とはまったく異なる経済システムで世界に対峙しています。

そこにはいくつかの重要な違いがあります。

 

食料生産を見てみましょう。

ソ連は、史上、最も非効率的な農業システムを所有していました。

1980年代までに、国の予算の大部分は食糧生産への補助金に充てられました。

ソ連は矛盾に満ちていました。

世界最大の食料輸入国であり、膨らんだ食料輸入法案の資金を調達するために莫大な石油の販売を必要としていました。

対照的に、今日のロシアは世界最大の小麦輸出国であり、食料の純輸出国にもなりつつあります。

ロシア経済はソ連と比較して、重要なセクターではるかに市場ベースであり、非効率的ではありません。

 

ロシアの指導部はまた、ソ連時代の多額の軍事費を縮小することに熱心です。

ソ連時代の防衛負担は年間GDPの15〜25パーセントと推測されますが、今日、ロシアの防衛負担はGDPの5%未満です。

このレベルの軍事費は、低成長の条件下でも持続可能です。

 

ソ連は莫大な軍事的負担に加えて、中国と社会主義世界での指導力と米国主導の資本主義世界との競争を行ないました。

ソ連は東欧の生活水準を支え、世界中に助成金を支給しました。

現在、ロシアにはそのようなコミットメントはありません。

現在の海外での関与は、はるかに低コストであり、よりビジネス主導型です。

ロシアは、世界一になるよりも、グローバルな地位確保に重点を置いており、近隣諸国や旧ソビエト圏内に焦点を当てています。

 

ソ連の崩壊は、国際市場への市場開放(石油、穀物)が、経済安全保障のリスクをどのようにもたらすかを鮮明に示しています。

今日のモスクワの政策立案者は、特に炭化水素がロシアの輸出の圧倒的に大きな割合を占めている事を認識しています。

この観点から、米国などの経済的制裁から影響を減らすためにシステムを強化しました。

 

1986年に石油価格が暴落したとき、ソビエトの指導部は巨額の財政赤字を実行し、(インフレを引き起こした)お金を印刷し、国際市場から巨額な資金借入を余儀なくされました。

一方、2020年に、ロシアは財政赤字を3.5%(ヨーロッパ諸国の半分)に抑え、ほぼ完全に自国の財源から資金を調達しました。

これらの国内財源はまた、ロシアが2014年に西側の制裁が課されて以来直面した多くの課題に適応するのに役立っています。

 

今日ロシアの指導者が直面している長期的な経済的課題(低成長率等)は深刻ですが、それらはロシアの将来を決定するものではありません。

ロシアの世界GDPに占める割合が小さいため、経済的に矮小に見えるかもしれませんが、実際の国力はかなり高く、資源を動員するロシアの国力は、実質的で歴史的に永続的です。

 

1980年代の繰り返しを期待している人々は、ザストイ(経済停滞)自体がソビエトシステムを崩壊させなかったことを思い出さなければなりません。

 

ロシアが現在直面している経済停滞は、冷戦後期のソビエト連邦のようにゼロサムの権力の低下をもたらす可能性は低いでしょう。

逆に、米国が中国との対立に注力せざるを得ないため、ロシアが国際社会への影響力を高める可能性に、注意を払う必要があります。

プーチン大統領の統治能力を侮るなかれ

ソ連が崩壊した直接のきっかけは、時の米国レーガン大統領がソ連向けに小麦の輸出を止めた事でした。

上記の論文にもある様に、当時のパンの3分の1が外国産の小麦で作られていた時代に、レーガンの小麦制裁は強烈なパンチになったと思います。

兵糧攻めにされたソ連の轍は踏むまいと、プーチンは様々な施策を講じて、西側の制裁に耐える経済システムの構築に成功した様です。

これを見てもプーチンは無能な指導者とは思えません。

彼が民主主義者でない事は明らかですが、約束は守る男である事も様々な事例から明らかです。

この点、シリアで化学兵器が民間人に使用された時には軍事介入すると発言した後、約束を守らなかったオバマ大統領とは違います。

天然ガスの専門家に話を聞きましたが、ロシアは旧ソ連時代からガスを欧州に供給していますが、ロシアが供給義務に違反した事は現在に至るまで、一回もないとの事でした。

一方、パイプラインの通り道にあたるウクライナでは頻繁にガスが盗まれ、不払いも日常茶飯事だそうです。

ロシアの肩を持つ訳ではありませんが、西側の情報操作により、プーチン大統領の実像はかなり歪められている様に思います。

冷徹な現実主義者、反民主主義者であるが、ソ連時代の弱点を補強し、筋肉質の国に変える事に成功した彼の統治能力を侮ってはならないと思います。

今後も国際政治において、主役の一人として君臨する事は間違いなさそうです。

 

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米国18州で既に合法化されている大麻

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合法化が進む米国

大麻は麻薬の一種で、日本ではその所持、使用を厳しく禁じられています。

しかし、米国では一部大麻の使用が認められている様です。

しかし今日のウォールストリートジャーナル(WSJ)の記事を読んで驚きました。

大麻の使用を公に認めている州が18州にも上っているようなのです。

「​​Cannabis Overhaul in Washington Is Only Getting Harder 」(難度高い連邦レベルでの大麻合法化)と題されたその驚くべき内容をご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

アメリカの大麻関連株にとって今年は良い年ではありませんでした。

1月と2月に上昇したにもかかわらず、大規模なファンドの1つであるAdvisor Shares Pure Cannabis ETFは年初来で23%減少しています。

連邦法案は、ここ数か月で民主党と共和党の両方によって導入されましたが、誰も議会で可決されると思っていないため、株価の上昇には繋がりませんでした。

 

最新の集計によると、現在までに18の州で合法的な成人用大麻産業が存在します。

連邦政府が大麻を非合法化している間は、薬物を州の境を越えて輸送することはできないため、州内で製造されたものはすべて、地元で販売する必要があります。

毎月大きくなっている各州の大麻産業は、連邦レベルの合法化によって混乱するでしょう。

 

最大の懸念の1つは、大麻が全国で取引されるときに何が起こるかです。

カリフォルニアやオレゴンなどのより成熟したマリファナ市場は、州を超える取引を過剰な在庫を捌く良い機会と見なしています。

ニューヨークやニュージャージーなど最近大麻が認可された州にとって、安価な他州からの大麻の流入は、生まれたばかりの彼らの大麻産業にとって脅威となるでしょう。

 

州はまた、大麻が生み出す税の急落を避けたいと考えています。

イリノイ州歳入局によると、イリノイ州は2月以降、毎月大麻から酒よりも多くの税金を徴収しています。

マリファナ政策プロジェクトによると、2014年にコロラド州とワシントン州で合法的な販売が開始されて以来、大麻は州のために79億ドル(約9,000億円)の税金を調達しました。

販売税は地元にとどまると思われますが、大麻が全米で認可された場合、特定の州では生産勢を維持する事が難しくなるでしょう。

栽培は、大麻を屋外で安価に栽培できる、暖かく低コストの州に移行する可能性があります。

 

連邦政府はまた、税収の分け前に預かろうと考えています。

今年の夏に民主党のチャック・シューマーによって提出された法案は、当初10%で始まり、5年後に25%に引き上げる連邦勢を提案しています。

MPGコンサルティングによると、これは、実効税率がそれぞれ36%と47%に相当し、すでに闇市場と競争するのが難しいと感じているカリフォルニアやワシントンなどの州にとって連邦税の導入はやっかいです。

 

今年大麻を規制する連邦法の変更に時間がかかり、投資家を失望させましたが、来年の見通しもそれほど明るくありません。

大麻の合法化は世界的な傾向か

米国の18もの州で既に大麻の生産、販売が認可されている事に驚きました。

米国では禁酒法時代にアル カポネなどマフィアが密造酒の販売で大儲けしました。

今回の合法化の動きは、闇市場で販売されている大麻をあぶり出そうとしているので、米国特有の現象かと思ったのですが、調べてみると大麻の合法化は米国だけでなく、世界に広がっている事がわかりました。

特に医療用の大麻は韓国やタイなどアジアでも合法化されており、タイなどでは外国人が大麻による治療を求めてタイを訪れる医療ツーリズムも始まっているそうです。

大麻は​​がん、てんかん、糖尿病、緑内障、パーキンソン病、リウマチなどの患者に有効で、特に今後高齢者の需要が見込まれるそうです。

 

大麻がどれほど人体に悪影響を及ぼすか断定的な事は言えませんが、医療用はともかく嗜好用に大麻が使われ始めると、この薬に溺れる使用者が増えるのではと危惧します。

中国は以前英国にアヘンを持ち込まれ、清帝国が中から崩壊しましたが、米国も嗜好用の大麻を不用意に合法化すると中から崩壊する危険性があります。

アヘンで痛い目にあった中国は今の米国を見て、内心ほくそ笑んでいるかも知れません。

 

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プーチンの強硬姿勢の裏にあるもの - ウクライナ問題

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ロシアの真の狙い

台湾海峡が米中の対決の舞台とすれば、ロシアと西側の戦いの場は現在ウクライナです。

ロシアはウクライナ国境に10万人の兵を集結させ、ウクライナに脅威を与えているというのが西側メディアのもっぱらの報道ですが、実態はどうなっているのでしょうか。

米誌Foreign Affairsが「What Putin Really Wants in Ukraine - Russia Seeks to Stop NATO’s Expansion, Not to Annex More Territory」(ウクライナに関してプーチンが本当に望んでいること - 領土の併合ではなく、NATOの拡大の阻止が狙い)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

2021年が終わりに近づくと、ロシアは、ウクライナでの大規模な軍事紛争の可能性を食い止めるために必要な条件を米国に提示しました。

ロシア政府は、旧ソ連領土におけるNATOの東方拡大の正式な停止を求めました。

ウクライナへの西側の軍事援助の終了、およびヨーロッパにおける中距離ミサイルの禁止等メッセージは明らかでした。

これらの問題に外交的に対処できない場合、ロシアは軍事行動に訴えざるをえないと主張しています。

ロシアは10万人近くの軍をウクライナとの国境に派遣しました。

米国と他のNATO諸国はロシアの動きを非難しましたが、同時に、NATO加盟国ではないウクライナを軍事的に守る事はないと発表しました。

プーチンの引くレッドライン(超えてはならない一線)

西側とロシアがウクライナに帰する重要性には、大きな非対称性があります。

西側諸国は2008年にNATO加盟の見通しをウクライナまで拡大しましたが、正式な加盟予定はありませんでした。

結局のところ、ウクライナのために軍隊を配備することに対して、米国国民の支援はほとんどないでしょう。

対照的に、ロシアはウクライナを重要な国家安全保障上の利益として扱い、その利益が脅かされた場合に軍事力を使用する準備ができていると公言しています。

これは、ロシアのウクライナ侵攻が差し迫っていることを意味するものではありません。

プーチンを無謀な指導者として描写したがる西側メディアが多いですが、彼は実際、力の使用に関しては慎重です。

プーチンはクリミアやシリアでの作戦でわかる通り、リスク回避的ではありませんが、損得の計算はしっかりします。

彼は、単にその指導者が西側を向いているからという理由で、ウクライナを侵略することはありません。

 

とは言うものの、ロシアがウクライナに軍事侵攻するシナリオがいくつかあります。

2018年、プーチンは、ウクライナがドンバス地域の領土を力で取り戻そうとすると、軍事的対応を行うと公に宣言しました。

もう1つのロシアのレッドラインは、ウクライナのNATOへの加盟、またはその領土への西側の軍事基地と長距離兵器システムの配置です。

プーチンはこの点で決して妥協しません。

しかし、今のところ、ウクライナをNATOに加盟させることについて、米国や他のNATO加盟国からの支持はほとんどありません。

 

ロシアがウクライナに侵攻する様な事になれば、ヨーロッパを超えて大きな影響を与える可能性があります。

より厳しい西側の経済制裁および金融制裁が予想され、ロシアは中国に頼るかもしれません。

プーチン大統領と習近平主席は、米国の制裁から自国を守るための財政的メカニズムについてすでに話し合っています。

その場合、2022年2月の冬季オリンピック時のプーチンの中国訪問は、表敬訪問以上のものになる可能性があります。

そうすれば、米国は現在の中国とロシアの関係がより緊密な同盟に変わるのを見る事になるでしょう。

 

西側ではウクライナ国境近くのロシア軍の増強に焦点が当てられてきましたが、これはNATO諸国が黒海地域とウクライナでの軍事活動を拡大したときに起こりました。

6月、イギリスの駆逐艦がクリミア沖の領海を航行しましたが、英国はクリミアがロシアに属していると認識せず、ロシア軍の発砲を促しました。

緊張が高まるにつれ、西側の軍事顧問、インストラクター、武器、弾薬がウクライナに流れ込みました。

プーチン大統領が彼が気にかけているのはウクライナへのNATO拡大を防ぐことです。

プーチンの行動は、彼の真の目標がウクライナを征服してロシアに吸収することではなく、ヨーロッパ東部の冷戦後の体制を変えることであることを示唆しています。

彼がNATOをウクライナ、ジョージア、モルドバから遠ざけ、米国の中距離弾道ミサイルをヨーロッパから遠ざけることができれば、冷戦が終わった後にロシアの安全保障が受けた損害の一部を修復できると彼は考えています。

それはプーチンが2024年に再選されるために役立つ事になるでしょう。

最後の砦ウクライナ

ロシアはペレストロイカ以降、旧ソ連時代その衛星国だった中東欧の国々をNATO側に取り込まれ、元は同じ国であったバルト三国も同様にNATOに加盟してしまいました。

過去に西側の国々に散々蹂躙されたロシア人にとって、ウクライナとベラルーシは最後に残された砦であり、これらがNATOに取り込まれる事は絶対避けたい事態なのだと思います。

それにつけても、欧米の送り込む「軍事顧問」という名称の怪しげなプロ集団の存在が気になります。

彼らは多くの紛争地域に送り込てきましたが、戦争で食っている人たちですので、戦線拡大に走りがちです。

彼ら傭兵軍団が雇い主の思惑とは裏腹に、戦線を拡大してしまうリスクは誰がとるのでしょうか。

軍事顧問は過去にベトナムやイラクやアフガニスタンにも送り込まれました。

非常に心配です。

バイデン 政権としては、プーチン政権と会話を続けるべきでしょう。

ロシアが中国と組んだ場合、相当やっかいです。

プーチン大統領とは休戦協定を結び、主たるライバルである中国と向き合うのがとるべき手段かと思います。

ウクライナは米国にとって核心的利益ではありません。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

イカゲームが映し出す韓国の世相

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若者が絶望する社会

Netflixで最大のヒット作となった「イカゲーム」は私が先日滞在したトルコでも高い視聴率を記録しました。

このドラマはK-Popで注目を集めた韓国に対するトルコ人の関心を更に高めた様で、日本よりも韓国に関心を持つ若者が増えた模様です。

しかし、「イカゲーム」が描く韓国の世相にはかなり暗いものがあります。

特に若者の現実社会に対する失望はかなり根深い様です。

この点について米誌Foreing Policyが「South Korea Is No Country for Young People - “Squid Game” reflects a landscape of despair.」(韓国は若者の国ではない - 絶望的な世相を映す「イカゲーム」)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要約

超暴力的なNetflixサバイバルドラマ「イカゲーム」は、K-POPとK-Beautyのスターが輝く一方で、絶望する若者が溢れる韓国をセンセーショナルに映し出しています。

イカゲームでは、借金を抱える個人が大金を得るために命を賭けたゲームに参加します。

これは、韓国社会に対する断片的な見方です。

しかし、2007年以来、自殺が若者の最大の死因となっている国では、若者は絶望に喘いでいます。

 

過去20年間、先進国の中で最も高い自殺率を示しています。

2017年米国では10万人あたり14.5人が自殺しますが、2019年、韓国では24.6人です。

韓国国家統計局によると、2018年から2019年の間に、自分の命を奪った40歳未満の韓国人の数は10%増加しました。

 

この絶望の核心は、パンデミックによって悪化した経済的苦境です。

20代と30代の韓国人は、持つ人と持たざる人の間の格差を感じてきました。

彼らはこの国を「ヘル朝鮮」と呼び、死や移住によってのみ逃げることができる地獄の王国に例えています。

大学の学位は、仕事を保証していましたが、それも今はかないません。

新型コロナ感染が広がる中、若者の失業率は全国平均のほぼ3倍でした。

2020年11月には、新卒者のほぼ40%が仕事を探すことを断念しました。

 

韓国の人口のほぼ半分が住む首都圏での住宅価格高騰は、事態をさらに悪化させました。

ソウルのアパートの平均価格は、政府の誤った方針の下で、過去5年間で2倍になりました。

4年前、ソウルでアパートを購入するには、韓国の年間世帯収入の中央値の11年分が必要でした。現在、18年以上の収入が必要です。

家賃が急上昇する中、若者の貯蓄は限られており、避難場所もありません。

 

うつ病を経験している20代の人々の数は、過去5年間でほぼ2倍になっています。

しかし、それを弱さの兆候と見なす文化では、治療法を探すことは困難です。

実際、韓国人のほぼ30%が、人生のある時点でうつ病やアル中などの精神疾患に苦しんでいますが、治療を求めているのは15.3%にすぎません。

そこには、幼稚園から始まる苛酷な教育レースのように、絶え間ないプレッシャーと果てしない競争があります。

国立青年政策研究所によると、ソウルの中高生の3人に1人は、学業上の負担と将来やキャリアへの不安から自殺を考えているそうです。

 

1953年に朝鮮戦争が終結したとき、貧困は広がりました。

しかし、誰もが貧しかったので、不平等は感じられませんでした

最も重要なことは、将来への希望があったことです。

たとえば、1960年代と1970年代に西ドイツに行って炭鉱や病院で苦労した鉱山労働者や看護師は、母国の子供たちが良い生活を送れることを知っていました。

 

残念ながら、急速な経済成長は繁栄の共有にはつながりませんでした。

2017年、文在寅が一生懸命頑張れば家を入手できる公正な社会を作ることを約束した時、記録的な数の若い有権者が彼を大統領に押し上げました。

しかしそうはなりませんでした。

エリートの腐敗は続いています。

政府当局者は、家賃の値上げと土地の投機を通じて住宅危機の恩恵を受けました。

法務大臣は賄賂と詐欺で起訴されました。

告発の1つには、娘を不法に大学に入学させることが含まれていました。

 

韓国も若者のメンタルヘルスの改善に投資すべきです。

フィンランドから学ぶことができます。

北欧諸国は、世界初の全国的な自殺予防キャンペーンを使用して、1990年以来自殺者の数を半分に減らしました。

全国的なメンタルヘルスシステムとコミュニティレベルのサービスを確立し、より多くのメンタルヘルス専門家を訓練することは、明らかな前進となるでしょう。

現在、メンタルヘルスは国の総医療予算の3パーセントでしかありません。

 

2018年に新法により週労働時間の上限が68時間から52時間に短縮された際に、高齢者はそれを嘆きました。

彼らは「朝鮮戦争の灰から国をここまで育てたのは彼らの汗と涙だった今、飢餓を知らない若者たちは、経済を台無しにしている。今の若者は一生懸命働くかわりにうつ病を訴えている。」と主張します。

 

おそらく、これは若者が根性がないからではありません。

むしろ、時代は変わり、人々はそれに伴って変化したという事でしょう。

苦しんでいるのは韓国人だけではないでしょうが、豊かで文化的に成功している人々と多くの人々の絶望との間の格差は痛ましいほどです。

韓国にはまだ希望が

大金を掴むために命まで賭けるというのは普通では考えられませんが、そこまで現実に失望しているのでしょう。

ただ貧しいだけでなく、将来に希望が持てない若者が絶望の淵に立たされている事が窺えました。

過酷な受験競争を潜り抜けて大学を卒業しても、まともな職にありつけず、運良く就職できても、アパート1戸さえ手に入れる事ができないとなれば、希望を失うのも無理はありません。

でも韓国には大きなチャンスがあります。

それは朝鮮半島統一です。

あの北朝鮮と一緒になるってありえないと思われるかも知れませんが、ドイツやベトナムも統一前は皆そう思っていました。

挑戦半島に基地を維持したい米国が反対するので、簡単ではありませんが、その内実現すると思います。

統一されれば、朝鮮半島は好景気に沸くでしょう。

現在、韓国が抱える少子高齢化問題は若者の多い北朝鮮が解決してくれますし、物のない北朝鮮で韓国製品は飛ぶ様に売れるでしょう。

筆者は韓国の将来は実は明るいと見ています。

 

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シーザーに学ぶ

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世界史上の偉人

シーザーと言えば古代ローマの英雄として知られますが、この英雄が欧州の政治や文化に与えた影響は我々が想像しているより遥かに大きい様です。

彼は今のフランス、一部ドイツ、ベルギーに跨がるガリア地域を征服し、その戦績を「ガリア戦記」として世に遺しました。

英誌Economistがこの偉人から何を学べるかというテーマで​​「He came, he saw, he lied - RETRACING JULIUS CAESAR’S PATH THROUGH FRANCE」(彼は来た、見た、そして嘘をついた - フランスからジュリアスシーザーの足跡を辿る)と題する記事を掲載しました。

少し長いですが、お付き合い下さい。

Economist記事抜粋

ヘミングウェイ、オーウェル、ジョイス、ツルゲーネフ等多くの偉大な外国人作家がフランスでインスピレーションを得ています。

しかし、永続的な影響力を考えれば、一人の作家がその頂点に立っています。

彼は9年間フランスを旅し、地元の習慣を観察し、無駄のない散文で見たものを語りました。

彼はまた、数百万人の先住民を殺し、彼らの領土を征服し、何らかの形で二千年以上続く文明をそこに押し付けました。

 

もちろん、その人はジュリアス シーザーです。

彼の「ガリア戦記」は素晴らしい文学作品です。

シセロは彼の散文を「裸の人物の様に直立していて美しい」と例えました。

「ガリア戦記」は、そのような将軍によって古代に書かれた唯一の戦記でもあります。

それは歴史家にとってかけがえのない情報源であると同時に、プロバガンダに使われやすいものでもあります。

ウィンストン・チャーチルのセリフと信じられている「歴史は私に親切だろう。なぜなら私自身がそれを書こうとしているからだ。」は、シーザーのものである可能性があります。

Economistは、手元にある「ガリア戦記」のコピー(石ではないタブレット版)を手掛かりに、牛車ではなくフランスの高速列車を使用して、シーザーの歩みの一部をたどりました。

目的は、シーザーの血まみれの劇的な物語を検証する事でした。

また、ヨーロッパの歴史の中で最も重要な作家-兵士-政治家から何を学ぶことができるかを探りました。

私たちもまた、軍隊を有する男性が不正行為をし、政治家が真実をねじ曲げ、今後数十年でどの文化が支配的になるかが明確でない世界に住んでいます。

シーザーに学ぶことは、私たち自身の時代を理解するのに役立つかもしれません。

 

観察力のある読者は、シーザーが現代のデマゴーグの様にフェイクニュースを捏造したことにすぐ気づきます。

ある戦闘で、彼は軍団兵を1人も失うことなく、43万人のゲルマン人を殺害したと主張しています。

原子爆弾が存在しない時代に、これは疑わしいです。

 

シーザーは客観的な歴史を書こうとはしていませんでした。

彼の目的は彼の力を高めることでした。

紀元前58年、ガリア戦が始まったとき、彼はまだローマ帝国の主人ではありませんでした。

彼は、ポンペイ(将軍)やクラサス(金権政治)とともに、三頭政治の一人でした。

ローマ人の人気を買うためにお金を惜しみなく与えたので、シーザーは大きな借金を抱えていました。

 

軍事作戦は略奪を行う事によって借金を返済するチャンスでした。

そして、ガリア戦の勝利は、優秀な軍事指導者としての彼の評判を不動のものにしました。

 

ガリア戦争は移民危機から始まりました。

今日のナショナリストは、移民の流入を「侵略」と表現することがよくあります。

これは正にそうでした。

現在のスイスの部族であるヘルヴェティイ族は、自分たちの領土が過度に狭いと感じ、自分たちの村を燃やして、現在フランス南部の属州であるトランスアルパインゴールに移住しました。

シーザーはアルプスを越え、ヘルヴェティイ族を打ち負かし、生存者を国外追放しました。

移住した37万人のうち生きて追放されたのは11万人です。

 

次の9年間で、彼は、現在のフランス領土のほとんどを占領し、東はライン川まで伸びるゴールを征服しました。

彼はまたゲルマン人と戦い、一時的にイギリスを侵略しました。

彼は優れた戦略家であり、物資の確保に長けており、同盟の巧みな偽造者でした。

しかし、彼はいつも勝ったわけではありません。

Economistは彼の最も有名な敗北の場所を訪れました。

 

それは紀元前52年、ゲルゴヴィアでのウェルキンゲトリクスとの戦いでした。

シーザーに対する彼の勝利は、フランスの芸術と文学、ゴロワーズ(フランスで大衆に愛されるタバコ)の箱、そしてアステリックス(3億部以上売れているフランスの漫画)において不屈のガリア人の象徴として描かれています。

 

シーザーのガリア戦での振る舞いはローマで無批判に受け取られませんでした。

彼を嫌悪した上院議員のカトは、彼が殺した女性と子供たちの部族は彼を裁判にかけるべきだと主張しました。

しかし、多くのローマ人は彼の功績に感銘を受けました。

彼はローマの支配下に広大な土地をもたらしました。

彼はまた莫大な財産を略奪していました。

そして彼は4万人の忠実で強い軍隊を指揮しました。

それは彼の力を強化しました。

もし彼が元老院の命令に従っていれば、彼の敵は間違いなく彼を裁判にかけたでしょう。

代わりに、紀元前49年に、彼はルビコン川を越えてイタリアに軍団を行進させました。

4年間の内戦が続きました。

シーザーはポンペイを打ち負かし、独裁者になりました。

彼は自分自身を「王」または皇帝とは決して呼びませんでした。

しかし、彼の勝利は共和政ローマの終焉を示しました。

そのため、上院議員の一団が紀元前44年に彼を殺害しました。

しかし、彼が「ブルータス、お前もか」と言った事実はありません。

それはシェイクスピアの創作でした。

彼の養子であるアウグストゥスは最初の皇帝になりました。

 

シーザーの遺産は計り知れません。

彼はヨーロッパの政治地理学を形作りました。

彼は、リベルテ、エガリテ、フラテルニテ(自由、平等、博愛)、ヴァンブラン(白ワイン)、クロワッサンなどのフランス語の単語がすべてラテン語にルーツを持つきっかけを作りました。

彼は、地球が太陽を一周するのにかかる時間をより正確に反映し、現在も使用されている暦を世界に提供しました。

今日、イエス・キリストにちなんで名付けられているのはたった2日しかありませんが、シーザーとその後継者は全ての月に名前を残しています。

「カイザー」と「ツァーリ」という言葉は彼の名前に由来しています。

 

私たちはシーザーから何を学ぶことができるでしょうか?

彼の世界は私たちの世界とは違い、多くの点で恐ろしいものでした。

赤ちゃんはゴミの山に捨てられました。

子供たちは鉱山で強制労働を強いられました。

奴隷制は当然の事と考えられていました。

しかし、ローマにも良いところがありました。

 

それはどこから来た才能にも開かれていました。

征服された人々はローマ市民になりました。

現代の欧州連合と同様に、どの市民も大陸規模の帝国内を旅して働くことができました。

これは、非常に多くの人々がローマの支配を歓迎することになった理由であり、帝国が非常に長く続いた理由です。

 

また、社会的流動性がありました。

解放された奴隷は豊かになれる可能性があります。

少なくとも1人の皇帝、ディオクレティアヌスは奴隷出身と考えられています。

他の皇帝は、現代のリビア、セルビア、スペインから来ました。

ローマ人は、肌の色には注意を払いませんでした。

 

シーザーはしばしば法律を破りました。

しかし、これはローマに法律があったからこそ言えます。

他の古代の政体では、部族の慣習に露骨に違反しない限り、首長が言ったことは何でも通りました。

ローマ帝国では、法律は見知らぬ人との付き合いを容易にし、人生を予測しやすくしました。

今日、多くの政治家は、ハンガリーやロシアからブラジルやアメリカに至るまで、法の支配を弱体化させています。

有権者は、西ローマ帝国がシーザーの5世紀後に崩壊した後、その後の無法時代が快適ではなかったことを思い出してください。

 

古典時代からの最後の教訓は、難しい決断を下すことではありません。

シーザーが権力を掌握できた理由の1つは、ローマの司令官が退役軍人に年金を提供する責任があったことです。

したがって、ガリアでシーザーのために9年間戦った軍団は、彼の将来の権力掌握に大きな経済的利害関係を持っていました。

彼らはローマ政府ではなく、彼に対して忠実でした。

 

イラクからミャンマーまで、今日民兵が横行している国の市民が証明できるように、司令官に退役軍人の年金支払義務を負わせるのはひどいシステムです。

アウグストゥスは中央政府に軍事年金の責任を負わせることでそれを終わらせました。

それは大金を要しました。

ある見積もりによると、帝国の年間税収の半分以上です。

しかし、それは平和をもたらしました。

年金改革について逃げ回っている今日の指導者はこの故事に注意を払う必要があります。

政治家はルビコン河を渡れるか

ユリウス暦やルビコン河がシーザー由来とは知っていましたが、彼が兵隊の年金にまで責任を負っていた事は知りませんでした。

そしてフランスで高い人気を誇る漫画であるアステリックスの主人公が、シーザーが手痛い敗北を喫したゴール人のリーダーをモデルにしている事も初耳でした。

Economistが挙げるローマの遺産の中で最も重要なのは、ローマ帝国が開かれた帝国であり、征服された諸部族がローマ市民になれた点かと思います。

これが有能な人材を継続して帝国に供給できた秘訣であり、帝国が長続きした主因だったでしょう。

この点、同じ様に長続きしたオスマン帝国にも見られる制度上の特徴です。

 

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レストランの経済史 - コロナが与える影響は

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レストラン史に残るパンデミック

昨年から今年にかけて、飲食業界にとっては最悪の時期だったと思います。

世界中のレストランはコロナの新しい波が押し寄せるたびに、閉店を余儀なくされました。

パリは美食の都として知られますが、多くのシェフや給仕人はレイオフを余儀なくされ、その一部はレストラン業界から去っていきました。

経済が再開されるにつれて、遠ざかっていた客足は戻りつつある様ですが、今後の見通しはどうなるのでしょうか。

英誌Economistが、過去のレストランの歴史を振り返りながら、コロナ後のレストランのあり方について記事を掲載しました。「AN ECONOMIC HISTORY OF RESTAURANTS - And how the pandemic may change them」(レストランの経済史 - パンデミックが与える影響)と題された記事かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

2021年4月9日は、レストラン業界にとって最も暗い日でした。

ロックダウンの強制は、レストランの予約を激減させました。

一方、 経済が解き放たれるにつれて、多くのレストランが、現在、労働力不足に直面しています。

ロンドンで最もおしゃれなフレンチレストランの1つであるLe Gavrocheは、ランチサービスを停止する必要があり、総支配人を失いました。

 

2010年から10年の間に英国の認可レストランの数は26%増加しました。

アメリカ人は初めて、食事に使うお金の半分以上を外食に費やしました。

香港やロサンゼルスの高給とりは、キッチンのないアパートを喜んで借りていました。

近くでおいしい料理が手に入るのに、なぜわざわざ料理をするのでしょうか。

新型コロナはこの流れを大きく変えました。

 

レストランを奪われたことで、人々はレストランがどれだけ重要であるかを実感するようになりました。

外食は人間の基本と思われるニーズを満たします。

人々はそこでデートし、取引を行い、仲間と語り合う事ができます。

良いレストランでは、旅行せずに旅行した気分に浸る事もできます。

しかし、現在の形のレストランはせいぜい数百年前のものです。

政治改革から都市化、労働市場の変化が、レストランの供給と需要を生み出してきました。

その歴史はまた、パンデミック後の世界でその将来がどうなるかを暗示します。

 

人々は長い間、家の外で食事をしてきました。

考古学者は、西暦79年の火山噴火によって破壊された都市ポンペイで158のスナックバーを発掘しました。

これは、60〜100人に1店で、今日の多くの世界の都市よりも高い比率です。

ロンドン市民は、少なくとも1170年代から、調理済みの肉、狩猟肉、魚を食べることができました。

初期の開拓者であるサミュエル・コールは、1634年にボストンに最初のアメリカの居酒屋をオープンしました。

 

しかしこれらは、レストランというよりは、テイクアウトの様なものでした。

コールの頃にフランスで登場した定食屋は、近代のレストランに近い存在でした。

顧客は1つしかない大きなテーブルを共有し、与えられたものを食べていました(現在、このトレンドは復活しています)。

外食が始まったばかりの時代のレストランは、地元の人々のために存在する食堂であり、半ば慈善事業の様なもので、見知らぬ人は必ずしも歓迎されませんでした。



しかし外食は当時、ステータスの低い活動でした。

今日、外食は贅沢と見なされていますが、人類の歴史のほとんどで、最も安価な食事方法でした。

17世期、裕福な人々は自宅で食事をすることを好み、料理と片付けをするスタッフがいるという贅沢を楽しんでいました。

 

しかし、時が経つにつれて、富裕層が公の場で食事をするというスタイルが徐々に定着しました。

ロンドンのフィッシュレストラン、ウィルトンズは1742年に開店しました。

ニューヨーク市で最も古いレストランであるフランシス タバーンは、おそらく1762年にオープンしました。

そしてフランスの詩人ボードレールが観察したように、19世紀の都市は人々が消費を誇示する場所になりました。

他人に見られるのにレストランより良いところはありません。

そこは、人々が必要以上の多くの食べ物を注文する事で、富を誇示できる場所になりました。

 

20世紀にはレストランの成長が加速しました。

フードサービスにおけるアメリカの雇用は、この期間に労働力のシェアとして4倍になりました。

ミシュランガイドは1900年に最初に発行されました。

星による格付けは26年後に始まりました。

フードプロセッサーや食器洗い機などの電化製品の導入により、外食は比較的高価になりました。

1930年のアメリカでは、レストランでの食事は自宅での同等の食事よりも25%しか高くありませんが、2014年までにその差は280%に拡大しました。

 

コストが上昇したにもかかわらず、次の三つの経済的要因によりレストランの需要が確実に増加しました。

一つ目は移民です。

第二次世界大戦後の50年間で、人口に比べて、豊かな国への移民の純流入は4倍以上になりました。

レストランを始める事は、移民にとって合理性があります。

正式な資格も、少なくともシェフにとっては現地の言語に堪能である必要もありません。

移民は地域のレストランの質を向上させる傾向があります。

ロンドンは、EUとの自由な移動の時代にはるかに良くなりました。

移民が殺到するシンガポールには、世界で最高の食べ物がいくつかあります。

価格が上がったとしても、レストランはずっと魅力的になりました。

 

2番目の要因は、家庭におけるミクロ経済学の変化でした。

家庭での食事の本当のコストは、材料の出費だけでなく、買い物や準備に費やされる時間も含みます

女性の労働力参加が少ない時代には、この隠れたコストは低かったのですが、20世紀に多くの女性が労働力に加わると、この方程式は変化し、隠れたコストが上昇しました。

今、夕食を作る女性は、お金を稼ぐために使う事ができたかもしれない時間を犠牲にします。

そのため、外食は、より高価になったとしても、経済的に意味が増しました。

 

3番目の要因は労働パターンの変化でした。

歴史的に貧しい人々は裕福な人々よりも長時間働く傾向がありました。

しかし、20世紀の後半には、それは逆転しました。

知識集約型の仕事の台頭とグローバリゼーションにより、金持ちの仕事は経済的にやりがいが増し、深夜労働はステータスシンボルになりました。

結果として、彼らの余暇も少なくなったため、ますます外食を必要とする様になりました。



レストランの将来見通しは明らかではありません。

パンデミックにより、多くの人が以前よりも多くのテイクアウトを購入するようになりました(Uberの配達による収益は、人々の移動から得られる収益を上回っています)。

レストランは状況の変化に適応し続ける以外に選択肢はありません。

それは、彼らが最も得意とする事を強化することを意味します。

つまり、ロマンス、食の魅力や華やかさを人々に提供することです。

国際都市の条件

都市の魅力にレストランの良し悪しは大きな影響を与えます。

国際ビジネスマンは食事がまずい街に喜んで行こうとしません。

住むとなると尚更このクライテリアは重要になってきます。

ロンドンは昔、食事がまずい事で有名でした。

確かにイギリス料理はどれも美味しいとは言えません。

しかし、ロンドンは国際都市であり、多くの外国人移民が住んでいます。

従い英国料理さえ避ければ、世界で最高級の料理が食べられます。

特にEUに加盟していた頃は、フランスやイタリアのシェフがビザなしでロンドンで働けましたので、金の集まるロンドンには一線級のシェフが集結していました。

ロンドンには中国系、インド系の移民もたくさんいますので、アジアの味も楽しめます。

懇意にしていた日本人の寿司職人が英国の永住ビザを取得しましたが、英国政府は、ロンドンが外国人を引きつけるのは金融の中心シティだけではないという事を良くわかっていると思います。

ウィンブルドンやミュージカルなどエンターテインメントに加えてレストランも重要視されているのでしょう。

この観点から言えば、東京も国際都市として非常に魅力があります。

東京にはミシュランの星付きレストランがパリ以上にあると言われています。

最近落ち目と言われている東京も、カジノなど招致せずに、その食の魅力を国際的にアピールしては如何かと思います。

 

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トルコ大統領の仕掛けた奇策の成否は

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乱高下するトルコリラ

トルコの通貨リラはここ数ヶ月の間、大幅な下落を示してきました。

私もトルコにここ3週間ほど滞在したのですが、その間見る見るうちに通貨の価値が下がっていきました。

今、外国人がトルコに行けば、何でも商品が安く感じられます。

イスタンブールのアップルストアは、11月23日にドルに対してリラが15%下落した際に、店を閉めてしまいました。

その後再開されましたが、あまりの通貨価値の急落に値札を張り替える作業が追いつかない様です。

この通貨の下落は何が原因かといえば、高金利を嫌うエルドアン大統領が中央銀行に圧力をかけて、9月には19%だった政策金利を14%まで下げてしまった為です。

通貨防衛のためには利下げではなく、利上げで対処するのが普通ですが、エルドアン大統領は常識破りの対応を行ったわけです。

同大統領は今週に入ってから、リラ防衛のために新たな奇策を発表しました。

これについて英誌Economistが「Turkey’s president launches a plan to shore up his plummeting currency」(急落する通貨を支える計画を開始したトルコ大統領)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

エルドアン大統領が何か話す時、トルコリラは一般的に暴落します。

しかし最近全く異なる現象が生じました。

トルコの指導者は、自国通貨が過去最低水準に急落した直後の12月20日に、リラを救うために劇的な一歩を踏み出しました。

政府は、為替レートの変動から銀行預金を保護すると発表しました。 リラはその後見事に反発し、18.36リラ/ドルから11.11リラ/ドルに上昇しました。

 

新しい計画では、トルコ政府は、通貨の目減りが銀行が提供する金利を上回った場合はリラ預金の保有者を補償します。

たとえば、リラが1年でドルに対して30%下落した場合、預金率が14%の銀行の口座保有者は、トルコの財務省により差額をポケットに入れることになります。

少なくとも、エルドアン首相の一時的な解決策は、今のところ、トルコの指導者がリラを救出する必要性を認識していることを示して、投資家を安心させています。

スキームはまた、銀行の取り付け騒ぎを防いだ可能性があります。

トルコ人は、過去1か月間、記録的なペースで貯蓄をドルに換金してきました。

最近、彼らの一部はこの流れを完全に撤回することを考え始めました。 

 

リラの崩壊は主に、金利を大幅に引き下げるというエルドアン首相の決定によって引き起こされました。

今週の展開の前に、通貨はわずか2か月でドルに対して価値のほぼ50%を失っていました。

エルドアン大統領は暗黙裏に、利下げを維持する様、中銀に要請しました。

彼は高利貸しに対してイスラムの差し止め命令を発動しました。 

 

しかし、彼が思いついた計画は、実際には、ドルに連動した間接的な利上げです。

「現在の預金金利を受け取り、それに加えて差額を得ることができるので、外貨保有者がリラに切り替えるインセンティブになります」とドバイの金融コンサルタントは述べています。

しかし、それは金融引き締めに代わるものではありません。 「それは持続可能ではありません」と同氏は言います。

「これが実施される限り、財政の負担は増大するからです。」

 

これまで、為替レートの大幅な変動のリスクを背負っていたのはトルコの預金者でした。

これからはトルコの納税者になります。

「過去10年ほどにわたってトルコを支えていたと考えられていた財政は、今や崩壊するリスクがあります」とキャピタル・エコノミクスのジェイソン・トゥベイは書いています。

この措置はまた、トルコのインフレ問題を悪化させるリスクもあります。

ほとんどのトルコ人が実際の率をはるかに下回っていると考えている公式のインフレ率は、11月に21%以上に上昇しました。

アナリストは、特に今月初めに発表された最低賃金の50%の引き上げが発効した後、2022年の前半に最大50%に達すると予想しています。

エルドアン氏の新しい計画は事態を悪化させるリスクがあります。

リラの価値がさらに大幅に下落すると、中央銀行はリラの預金者に返済するためにお金を印刷する以外に選択肢がなくなる可能性があります。

エルドアン氏は、彼自身が付けた火の上に毛布を投げましたが、その 毛布にも火がつく可能性があります。

トルコ経済はこの難局を乗り切れるか

これほど急激なリラ安になると、イスタンブールでは暴動や反政府デモが頻発しているのではと思われるかもしれませんが、そんな動きは全く見られません。

トルコは経済的体力がありますので、ちょっとやそっとした事では、経済は崩壊しません。

欧米のメディアは、トルコの現政権に対して批判的ですので、彼らの書く事をそのまま鵜呑みにするのは危険です。

日露戦争の時に、日本の国債を大量に買った英国の金融資本を日本の救世主の様に称賛する人もいますが、彼らは日本を支援するというよりも、金儲けのチャンスとして見ていた訳で、あまり美談として捉えるべきではないと思います。

彼らは情報戦にも長けていて、当初優勢と見られていたロシア帝国の内部に革命の兆しが芽生えている事をいち早く把握し、ロシアの反政府組織に資金や武器を供給しながら、日本に大金を張っているのですから、相当な悪です。

欧米のメディアは今もこのDNAを継承していますので、騙されない様に十分注意して読む必要があります。

 

しかし、今回のトルコ政府の措置に限って言えば、かなり危ない橋を渡っている感があります。

現地でトルコ人から直接聴取しましたが、市民の実感としてインフレが相当進んている様です。

富裕層は外貨の蓄えがありますからリラ安はそれほどこたえませんが、貧困層にとってひどいインフレは最悪です。

中間層より下の層を支持層とするエルドアン大統領率いる与党にとって、インフレは自殺行為です。

今回の措置は、リラの防衛というよりも、与党の支持層である比較的貧しい国民に対する支援策と言えると思います。

しかし、今回の奇策とも言える措置は、形を変えた利上げ策で、短期的にはリラの防衛になりましたが、金融引き締め策にはなっていません。

もしリラが更に下落した場合、政府は莫大な出資を迫られ、ひいては政府の信用不信、高インフレ、リラの暴落と悪いサイクルに入っていくのではと心配になります。

トルコのファンダメンタルズ(基本的な経済指標)はインフレ率を除いて、かなり良い水準を維持していますが、今回の措置により最後の砦として守り続けてきた財政規律が悪化する事が危惧されます。

 

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欧州で猛威を振るうオミクロン(英国からの報告)

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急速に拡大したオミクロン感染

オミクロンの感染はあっと言う間に欧州各国に広がっている様です。

ついこの間まで猛威をふるったデルタ株の感染が下り坂になる中、入れ替わる形でオミクロンが拡がっています。

気になるのはワクチン接種率が世界で最も高いと思われる欧州で感染が広がっている点です。

我が国での感染はいまだ僅かですが、いずれ感染が広がる事が予想されます。

欧州の対応は今後の参考になるものと思われます。

英誌Economistの「Omicron storms Europe」(欧州を襲うオミクロン)と題された記事をご紹介したいと思います。

Economist記事要約

感染性の高いオミクロン変異株は、ロンドンでの新型コロナ症例の大部分をすでに占めています。

現在、大陸ヨーロッパで急増しており、各国政府は新しい対策を急ぐようになっています。

ドイツは、12月20日から、英国から到着するすべての旅行者に14日間の検疫を課しています。

フランスは12月18日、英国からの観光客の入国を禁止しました。

ただし、海外旅行の制限は、変異株の広がりを抑えるのに十分ではありません。

12月19日、オランダは新たなロックダウンを導入しました。

これは少なくとも1月14日まで続きます。

他の場所でも、より厳格な措置が見込まれています。

 

オミクロンの感染拡大は、デルタ変異株によって引き起こされた感染がピークを過ぎたと思われた時に始まりました。

フランスの首相であるカステックス氏は、12月17日、この変異株はヨーロッパの他の地域に「電光石火の速さ」で広がっており、オミクロンによる新たな症例数は2〜3日ごとに倍増していると述べました。

フランスの保健大臣であるOliverVéranは、この変異株がクリスマスまでにフランスでの症例の大部分を占める可能性があると述べています。

 

オミクロンがデルタよりも深刻ではないことが判明したとしても(これはまだ明らかではありません)、この感染のスピードは、重症者の数が増える可能性があることを意味します。

多くの最前線の医療従事者は、重圧を受けています。

しばらくの間この圧力を和らげるために、ヨーロッパの政府は自由に使える2つの主要な手段を有しています。

1つは、ブースター(追加接種)の展開を加速することです。

もう1つは、社会的活動を制限することです。

 

ブースターから始めます。

特に欧州連合の西側では、ワクチンの投与が順調に進みました。

ポルトガル人のほぼ89%、スペイン人の83%、フランス人の80%、イタリア人の79%が少なくとも1回のワクチン接種を受けています。

これは、英国の76%、ドイツの73%、アメリカの73%と比較して高率です、

しかし、ブースターショットは、オミクロンに対してより重要な保護を提供するようです。

英国はこのレースで先行しています。

アメリカでは18%であるのに対し、英国の40%以上がブースター接種を行っています。

ドイツでは30%、フランスで24%、イタリアで23%です。

ヨーロッパは現在、ブースターの展開において競争しています。

マクロン大統領は、11月下旬に、18歳以上のすべての人々にブースターを開放しました。

彼はまた、65歳以上の人に、レストラン、バー、その他の屋内会場への入場に必要なデジタル証明書であるフランスのワクチンパスは、持ち主がブースター接種を受けなかった場合、12月中旬に期限切れになると警告しました。

 

しかし、欧州の保健機関は12月15日、ブースターの展開が早くても、社会活動に関する制限が「遅滞なくさらに強化」されない限り、医療制度は対処に苦労するだろうと警告しました。

これが、ヨーロッパ諸国が2番目の対策、すなわち旅行やその他の活動に対するより厳しい制限に目を向けている理由です。

 

オランダは、市民にこれまでで最も厳しい規則を課しました。

すべてのバー、レストラン、映画館、生活必需品を売っていない店舗、屋内スポーツセンターは1か月間閉鎖されています。

スポーツイベントは空のスタジアムで行われます。

クリスマス期間中、家族は13歳以上の4人のゲストのみを自宅に招待できます。

オランダの首相であるマーク・ルッテ氏は、変異株が予想よりも「さらに速く」広がっていたことを考えると、選択の余地はないと述べました。

 

今のところ、フランスはロックダウンも夜間外出禁止令も課していません。

現在、PCRテストによる陰性証明は、レストランやその他の公共の場所へのアクセスを得るためにも使用できますが、政府はこれをワクチン証明に切り替える事を計画しています。

イタリアはすでに同様の規則を課しています。

オーストリアはさらに進んでいます。

2月にオーストリアでは予防接種が義務付けられ、拒否した人には多額の罰金が科せられます。

オミクロン波のタイミングは、2つの理由からフランスでは特に厄介です。

1つは経済的です。クリスマスと新年に英国人観光客に大きく依存しているアルプスのホテルとレストランのビジネスは、国境制限のためにシーズンが悲惨なスタートを切る事が確実です。

しかし、より大きな問題は政治的です。

フランスは4月に大統領選挙を行い、1月には選挙キャンペーンが始まります。

再度立候補する予定のマクロン氏は、新たなロックダウンを課したり、学校を閉鎖したりする積もりはありません。

フランス人は去年の冬、何ヶ月も夜間外出禁止令を受けており、その時のネガティブな記憶が残っています。

 

オミクロンの感染拡大は、国の政治的展開を変える可能性さえあります。

これまでのところ、ポピュリスト国家主義者からの圧力の下で、移民問題が議論を支配してきました。

これらは今や公衆衛生問題によってとって変わられようとしています。

政治家がコロナに右往左往する社会

英国ではブースターを国民の4割も受けているんですね。

これは知りませんでした。我が国では未だ医療従事者だけだと思います。

欧州では、コロナが最重要課題になっている様ですが、我が国も事情は同じです。

もしコロナ感染者数の低下が1ヶ月早く始まっていたら、菅前首相は政権を投げ出さなくて良かったかもしれません。

政治家は新規感染者の数に一喜一憂し、メディアは朝から晩までコロナの話題を流し続けます。

勿論、コロナ対策は必要ですが、物事には程度というものがあります。

国民の関心がコロナ一点に集中し、政治家がコロナ対策に駆けずり回る現在の状況は、若干行き過ぎている感があります。

コロナ以外にも重要な政治課題はたくさんありますので、そちらにも十分な注意を払って頂きたいものです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございます。

コロナが導入を加速した次世代技術

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羽田空港の水際対策

一昨日、日本に帰国しました。

空港の水際対策は昨年とは打って変わって厳重を極めました。

多くの関係者が頑張っておられる事は評価致しますが、デジタル化において我が国が如何に遅れをとっているかこの空港の検疫対策だけとってみても良くわかりました。

何重にも書類をチェックされ、手作業をさせられますが、電子化を進めれば殆どのチェックポイントは省略する事が出来る筈です。

国の玄関である空港で時代遅れの検疫プロセスを経験した外国人は、日本のイメージが変わってしまう筈です。

 

イスタンブールに滞在して思った事は、トルコの方がデジタル化では先を行っているという事です。

イスタンブールではQRコードでATMからお金を引き出したり、レストランでメニューを読むなんて事が行われていましたが、東京では殆ど見られません。

非接触のクレジットカードでの支払いはトルコでは当たり前でしたが、日本はまだ始まったばかりです。

ショッピングモールでトイレの入り口は非接触で開閉しますが、そんなドアは日本では見当たりません。

老人が多いからデジタル化が難しいというのはわかりますが、少なくとも先端技術による選択肢をオプションとして提供してもらいたいところです。

日本がもたもたしている間に、世界は先に行ってしまいます。

 

米誌ウォールストリートジャーナル(WSJ)が10年先の世界を想像する記事を掲載しました。

未来学者のブライアン ソリス氏が書いた記事かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事抜粋

私たちが2030年に生きている事を想像してみてください。

次に、物事がどう変わるかを想像してみてください。

空飛ぶ車、超音速の旅行、私たちの間を歩くロボット、1日の大部分をメタバースで過ごす自分を想像できますか。

おそらくそうなるでしょう。

しかし、2030年までに広く採用されると予想される技術トレンドの多くは、今日既に動き出している様です。

 

過去2年間の不自由な生活は、この流れを加速させました。

世界が長期間にわたって自宅から仕事、学習を行う様になった時、未来のテクノロジー採用のスケジュールは前倒しされました。

何年にもわたって二の足を踏んでいましたが、顧客と従業員のニーズと変化に対応するために、デジタル化に踏み切る必要が生じました。

 

次の様な変化が訪れると思われます。

監視下におかれる巨大ハイテク企業

Facebookの元従業員であるFrances Haugenblewが、Facebookがプラットフォーム上で有害な関与を行っている事を告発した時、多くの政府、企業幹部やユーザーは「もうたくさんだ」との共通認識を得た様です。

ユーザーは、ハイテク企業の恐るべきアルゴリズムのモルモットであることが明らかになりました。

今年を振り返ると、巨大ハイテク企業が自らを規制する時代が終わったかもしれません。

ユーザーの安全性とネットワークの説明責任は、デジタル社会と現実世界が共存していくために非常に重要です。

Web 3.0とよりオープンで協調的で説明責任のある枠組みは、オンラインでのやり取りをより良いものにするために不可欠です。

拡張現実(AR)が現実のものに

パンデミックが続く中、実店舗が一時的に閉鎖されるか、入場が制限されたとき、電子商取引(EC)は飛躍的に成長しました。

ただし、従来の電子商取引は、オンラインショッピングの二次元的で静的な性質のために、顧客が買い物の実感を得るのに十分ではありませんでした。

ARは、衣料品、靴、車、フォークリフトなど、あらゆる種類の製品を仮想化し、物理的に目の前にあるかのように製品を体験できるようにします。

顧客の61%が、パンデミック後のオンラインで以前よりも多くの時間を費やすと述べており、実際の店舗や倉庫が今後再開したとしても、ARは電子商取引の売り上げを拡大する上で重要な役割を果たします。

革新的なWeb3.0

暗号通貨、NFT(非代替トークン)、ブロックチェーン、分散型自律組織、メタバースいずれも流行語です。

Webの次の世代(別名Web 3.0)の先駆けとなる重要なトレンドも表しています。

Web 2.0は、モバイル、ソーシャル、クラウドコンピューティングの「黄金の三角形」を組み合わせた、ソーシャルWebまたはプラットフォームとしてのWebの時代として広く認識されています。

Web 3.0のビジネスモデルは、分散化、開放性、管理者の存在しないネットワークであり、暗号化された説明可能な分散型台帳を利用しています。

アート、銀行、保険、ヘルスケア、政府サービスなど、すべてが、従来の会社組織によってではなく、共有グループによって所有される付加価値のある商品やサービスとして見直されます。

加速化するデジタル技術

およそ2年間のコロナ体験がこういった次世代技術の導入を加速している様です。

個人的には以前の様なコロナのない世界の再来を期待したいのですが、今後もウイルスは突然変異を繰り返しますので、新たな変異株の登場は避けられません。

思い返せば、9.11のテロは空港での荷物検査を厳重にしましたが、それも今や慣れっこになっています。

コロナの検疫対策もそのうち、当たり前のようになるでしょう。

コロナのおかげで次世代技術の導入スケジュールが前倒しになったと前向きに考えるのは楽観的に過ぎるでしょうか。

 

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インターネットの進化が大きく変える世界秩序

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インターネットの新しい時代

Web 3.0という言葉を聞いた事あるでしょうか。

実は私も最近この言葉を初めて聞いたのですが、今後のインターネット世界のことを指す言葉だそうです。

インターネットの初期はWeb 1.0と称されるそうですが、その頃のネットの世界は一方通行で、静的なウェブサイトを閲覧するというのがもっぱらの使用法でした。

その後ネットの通信速度が早くなるにつれて、Web 2.0の世界が出現しました。そこではネットの利用法は双方向となり、SNSを使って世界の人々と繋がる事ができる様になりました。

Web 1.0では使用者は一部のヘビーユーザーに限られていましたが、iPhoneの様なスマホの普及もあり、Web 2.0ではネットの世界が一般大衆に解放されたのも大きな特徴です。

Apple, Google, FacebookといったいわゆるBig Techの影響力が増したのもこの時代でした。

随分便利になったネット環境ですが、弊害も多く見られる様になりました。

ビックテックが集める個人データは知らない間に広告などに流用され、情報漏洩の事故も頻繁に起きる様になりました。

更には国がネット検閲を行う様なところも出てきました。

既にネットはWeb 3.0の時代に入ろうとしています。

それはブロックチェーン技術を応用した分散型ネットワークの登場です。

そこではビックテックの様な企業或いは政府が情報を管理する訳ではありません。

この新しい時代の到来に際して、米誌Foreign Policyが「Great Protocol Politics - The 21st century doesn’t belong to China, the United States, or Silicon Valley. It belongs to the internet.」(世界を牛耳るインターネット - 21世紀は中国や米国やシリコンバレーのものではありません。インターネットが牛耳ります)と題した論文を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

最近のエッセイで、政治学者のイアン ブレマーは、ビッグテック企業が世界秩序を再構築すると主張し、コラムニストのスティーブン ウォルトは、これに反論し、国が引き続き支配的だと主張しました。

私たちは3番目の見方をします。

テクノロジーはすでに世界秩序を変えただけでなく、企業と国家の両方の性質も変えています。

21世紀は、中国や米国のものではありません。また、テクノロジー企業のものでもありません。

それはインターネットのものです。

 

おそらく最も重要なのは、ビットコインやイーサリアムのように、国や企業によって管理されていない分散型プロトコルの台頭です。

世界的なテクノロジー企業の弱点は、彼らが通常、米国または中国に本拠があり、契約執行のためにそれらの法制度に依存していること、そして彼らの権力の行使はすでに世界的な反発を引き起こしている事が挙げられます。

これらの問題は、伝統的な国民国家の境界を越えて財産を保護し、契約を履行することができる暗号プロトコルの導入によって解決されます。

この新しいテクノロジーの普及は、デジタル世界を超えて様々な分野で大きな影響を及ぼす事になりそうです。

 

マッキンダー派の伝統的な地政学は、国家間の位置関係に依存しています。

ロシアと日本の距離関係は永遠に変わりません。

しかし、インターネットの世界は違います。

2人の間の距離は、地球上の移動時間ではなく、ソーシャルネットワーク上の距離です。

つまり、誰もがソーシャルネットワークでフォローするだけで他の人の近くに身を置くことができます。

すべての市民は、インターネットにアクセスできれば、、画面を介して在宅勤務し、毎日数時間をクラウドで過ごすことで、別の国の市民になることさえできます。

物理的な移民は必要ありません。

 

新聞で何が起こったのか考えてみてください。まず、新聞はすべてオンラインになりました。

同様の運命は国の通貨に降りかかるでしょう。

すでに国の通貨は暗号通貨と競合しています。

これは、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)が導入されてより加速します。

私たちは世界的な金融競争の時代に突入しようとしています。

日本円のデジタル版は、スイスフランやビットコインなど他の資産との直接のグローバル競争に突入します。

誰もが常に外国為替トレーダーになり、最強の通貨、または暗号通貨だけが生き残るでしょう。

 

エストニア、シンガポール、台湾、アラブ首長国連邦、チリなど、さまざまな国が、「遊牧民ビザ」と呼ばれるプログラムを通じて、外国の才能を求めています。

ネットを通じた外国の人材活用は今後加速化するでしょう。

 

30年間の介入、侵略、制裁と監視の後、米国はもはや国際秩序の公平な仲裁者であるとして信頼されていません。

もちろん、中国もルールに基づく秩序の擁護者であると主張することはできません。

しかし、国際的なルールを作るという目標自体は望ましいものです。

少なくとも商業分野では、小国がますます「インターネット上の国際ルール」と呼ばれるものに目を向けると信じられます。

まだ初期の段階ですが、強制力のある国際法は、国際貿易の文脈では、分散型スマートコントラクトを可能にします。

そして、貿易を超えて、暗号化プロトコルは言論の自由やプライバシーのような市民の自由に国境を越えた保護を提供します。

Web 3.0の長所

Web 3.0の導入によって何が変わるのでしょうか。

まずデータの所有権がユーザー自身になるため、今の様にユーザーの知らないところで、個人データが取引される様なリスクが解消されます。

次にWeb 3.0は現在の様なサーバーを通じた取引ではなく、ピアツーピア取引によって直接ユーザー同士が繋がる事ができます。

最後に、中央集権的にデータを取り扱う組織が存在しませんんので、政府の検閲を受けにくい事が挙げられます。

今まで、我々は政府が存在するのが当たり前の様に思ってきました。

我々は何を国に期待しているのでしょうか。

例えば自分たちが持っている財産を裏付けてくれる機能だったりするのかも知れません。

しかし、その機能がブロックチェーンを使った技術によって置き換えられるとすれば、政府の存在価値はかなり薄れるかも知れません。

この論文の筆者が唱える様に、国際的なルールが出来あがれば、現在政府が果たしている役割の多くはWeb 3.0の時代には不要になってしまう可能性があります。

もちろん、既得権益を持つ政府の人たちはこの流れに強く反対すると思いますので、直ぐに実現するとは思えませんが、Web 3.0は国境を取り払うパワーを秘めています。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

オミクロンに対する欧州の対応

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二転三転した水際対策

先月、日本の新型コロナ感染者が急速に減少した頃、政府も水際対策の緩和に動きました。

隔離期間は最低3日間に短縮されました。

しかしそこで新たな難問が登場しました。

新しい変異株オミクロンです。

感染力がデルタよりも高いと言われるこの変異株の出現のために、日本の水際対策は逆戻りどころか、在留資格のある外国人の再入国さえ認めない、事実上の鎖国状態となりました。

同じ先進国である欧州のオミクロンに対する対応はどうだったのでしょうか。

仏紙Les Echosが「Covid : face à Omicron, le retour désordonné des restrictions de voyage en Europe」(オミクロンに直面したヨーロッパ各国の渡航禁止令に足並みの乱れ)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Les Echos記事要約

イタリアは火曜日、オミクロンの異変株の急速な蔓延に直面し、木曜日のEU27カ国首脳会談の前に、入国条件の強化を発表しました。

木曜日の時点で、イタリアでは、完全にワクチン接種されている欧州連合(EU)からの訪問者を含め、到着時にすべての訪問者にPCR検査が必須となりました。

EUからの訪問者は「欧州健康パス」の創設以来免除されていました。

ワクチン未接種のEU国民も、世界の他の地域からの訪問者と同様に、到着時に5日間の隔離を行う必要があります。

感染率は住民10万人あたり200人をわずかに上回っており(ヨーロッパの平均の2分の1)、イタリアは今のところオミクロンの感染を比較的免れています。

イタリア政府が今回導入した措置はできるだけ多くの追加接種を行う時間を稼ぐことを目的としています。

このイタリアの突然の措置はヨーロッパを驚かせました。

国境での制限については、加盟国は、他の国と委員会に48時間前に「可能な限り」通知するという点について一年前に合意していたからです。

 

ギリシャも日曜日からワクチン接種されたヨーロッパ人にも入国事検査を行う事を発表しました。

イタリアとギリシャはポルトガルとアイルランドに加わり、入国時にPCRテストが必要です。

フランスは、、木曜日に、オミクロン変異株が広がっている英国など非EU諸国との旅行条件の強化を発表しました。

旅行者の「やむを得ない理由」を正当化する義務は、土曜日に復活しました。


最近の出来事は、緊急時に、国はEUが決めた原則から解放されることを示しています。

イタリアのドラギ首相は、彼の決定に驚いた他のEU加盟国に対し、2020年に彼の国が支払った重い人的被害を思い起こさせる事で自らの判断を擁護しました。

 

欧州疾病予防管理センター(ECDC)は水曜日に、ワクチン接種は依然として「鍵」であるが、感染を防ぎ、医療制度への負担を軽減するためにそれだけでは「十分ではない」と警告しました。

テレワーク、マスクの着用、交通機関や公共スペースの混雑の制限などの対策の迅速な再導入を推奨しています。

やっかいな新規変異株の発生

厳しくなったとは言え、鎖国状態の日本に比べれば、かなり甘いのが欧州の現状の様です。

新規感染者が7万人を超えた英国に比べ、日本の本日(16日)の新規感染者数は190人と素晴らしい数字を記録しています。

これはG7で最も高いワクチンの接種率と、厳しい水際対策が功を奏している結果だと思います。

オミクロンは日本でもいずれ感染が広がると思いますが、出来るだけ3回目のワクチン接種を進める時間を稼ごうというのが当面の政府の作戦だと思います。

最も高齢化が進んでいる日本ではこの作戦が妥当だとは思いますが、海外とビジネスを進めようと考えている企業にとっては、これが大きなハンディになる事は間違いありません。

今後もオミクロンの様な新しい変異株が現れるために、隔離期間が延長されるとなると、安心して海外出張に出れません。

特にトップ外交は今の状況では無理でしょう。

急に2週間社長が帰国後隔離されるとなると、会社が回りません。

私もこれからイスタンブールから帰国ですが、上手くいっても2週間の自宅隔離が待っています。とほほ。

 

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ミャンマーに元を使わせようとする中国

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最後のフロンティアの暗転

ミャンマーは一時東南アジアに残された最後のフロンティアと言われて、日本企業が大挙して押しかけた有望市場でした。

そんなに昔の話ではありません。

長く軍政が続いたミャンマーに政治革命が訪れたのが2011年ですから、つい10年前の話です。

しかし、民主化の動きは軍が起こしたクーデターによって暗転しました。

多くの日本企業は駐在員の引き上げなど事業の縮小に追われています。

一番被害が大きいのは大型の投資を行った日本企業で、今日の日経新聞にも軍に繋がりのある企業と合弁会社を組んだキリンビールが合弁相手と訴訟沙汰になっている事が明らかにされていました。

クーデターによる国民への弾圧を理由に、国際社会が制裁を与えているミャンマーですが、中国は着々とその影響力を増している様です。

中国の政府系報道機関環球時報が「Myanmar to include yuan in settlement currency for border trade with China」(ミャンマーは中国との国境貿易のために人民元を決済通貨として認可)と題する記事を掲載しました

かいつまんでご紹介したいと思います。

環球時報記事要約

ミャンマーは中国との国境貿易の公式決済通貨に人民元を認める予定であり、試験段階での目標決済規模は約20億元(3億1400万ドル)に設定されています。

 

情報筋によると、この動きは、不安定な政治情勢の中で経済崩壊に陥った後、ミャンマーが現在直面している米ドルやその他の外貨調達の危機に対処することを目的としています。

中国のミャンマーとの急成長する貿易において、ミャンマーの銀行が人民元にアクセスできる事は、その財政難を緩和するのに役立ちます。

 

アナリストらは、米国のドルを使ったいじめが、一方的な制裁を課すのに大いに役立っているため、これは、元の国際化を推進し、米ドルの覇権に対抗するための近隣諸国との中国の共同努力における重要な一歩でもあると評価している。

 

貿易決済における元の使用は、人々が「小さな貿易」と呼ぶ小さな商品や日用品の取引に焦点を当てて、初期段階で国境貿易を試験的に行うでしょう。

 

匿名の情報筋は、「将来的には、元の使用拡大は、私たちが『ビッグトレード』と呼んでいるものをカバーするように拡大するだろう。」と述べています。

ミャンマー中央銀行と中国大使館職員が参加する予定の公式式典が2022年1月1日に開催される予定です。

 

「これは、インフレの上昇、失業、経済の停滞に苦しんでいるミャンマーの人々にとって、助けになる手段です。少なくとも部分的に彼らの生計を助けます。」と、中国の金融専門家は環球時報に語りました。

 

人民元は2019年1月にミャンマーの公式決済通貨に含まれていました。

しかし、業界関係者によれば、すべての契約と貿易が依然としてドルまたはミャンマーチャットで決済されていたため、当時のこの動きはより象徴的なものでした。

 

専門家は、長期的には、ミャンマーの外貨準備におけるドルの独占も解決すると述べました。

アナリストらによると、米国はドルの支配的地位を悪用して他国に制裁を課すことで有名であり、ミャンマーの貿易決済における人民元のさらなる拡大はこれらの問題に対処する可能性があるとしています。

ドルの覇権は脅かされるか

第二次世界大戦後、基軸通貨はポンドからドルに代わり、その後一貫してドルが基軸通貨としての地位を保っています。

これに続くのはユーロですが、為替市場での使用率はドルの4割強に対して、ユーロは2割弱と大きな隔たりがあります。

中国の元に至っては2%程度で現時点では全く相手になりません。

基軸通貨を発行する国は様々なメリットを持ちますが、何と言っても自国通貨を取引に使えますので、為替リスクがないのが最大の利点でしょう。

それと共に、多くの国がドルを決済手段に使えば、制裁をかけやすく、国際的な政治力、外交力の強化に繋がります。

一見、米国と関係なさそうなイランが米国の制裁に悩むのは、貿易取引の決済がドルが一般的だからです。

米国がその気になれば、イランの原油販売にドルを使わせない事も可能であり、イランの首根っこを抑える事ができるのです。

今は、ドルの足元にも及びませんが、中国政府が将来的に狙っているのは、この基軸通貨としてのドルの地位を脅かす事だと思います。

ミャンマーでやっていることはその一環だと思います。

しかし、市民に銃を向ける様な政府を金融面で支援する事は、国際社会の批判を浴びることになります。

強権主義の政府に甘い中国ですが、ミャンマーの市民がこれをどういうふうに評価するのでしょうか。

 

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「愛の不時着」が描く北朝鮮の市民生活は真実だった

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闇に包まれた市民生活

北朝鮮の市民の生活については闇に包まれており、なかなかそれを知ることができません。

拉致された後、解放された日本人から断片的な情報は聞き出せたかもしれませんが、拉致された日本人は北朝鮮国民とは違う境遇で暮らしていたかも知れませんので、参考情報にしかなりません。

一番真実に近いのは脱北して韓国に逃げてきた市民から話を聞くことでしょう。

英誌Economist脱北者の証言を元に「Many North Korean women outearn their husbands, but still do the chores - Women trade; men do badly paid state jobs」(多くの北朝鮮の女性は夫より稼いでいるが、それでも家事をしている - 女性は商売をし、男性は殆ど無給で国の仕事をしている)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

彼女が6年前に韓国に逃げる前に、キム・ウンギョンは北朝鮮に多くある闇市場の1つで日々過ごしていました。

彼女は家庭用品と違法な韓国テレビドラマを販売していました。

夕方、彼女は家事をし、娘の世話をしました。

彼女は、「国が義務付けた工場の仕事で夫は1日数時間働き、残りの時間をギャンブルと飲酒に費やした。」と言います。

彼らはすれ違いの生活を送っていました。

「彼が家事を手伝ってくれたら良かったのですが、私たちはまったく別の生活を送っていました」とキムさんは言います。

「私たちがこれまで率直に話し合ったのは、私たちの経済状況だけでした。」

 

過去20年間に韓国に逃亡した人々の調査から判断すると、キムさんの話は北朝鮮の女性の一般的な生活を表しています。

1990年代に北朝鮮の計画経済と公共流通システムが崩壊した後、政府は女性の労働要件を緩和しました。

政府は、ほとんどの男性に政府のために働くことを強制し続けていますが、彼らにはほとんどまたはまったく給料を支払っていません。

したがって、男性よりも自由に市場で働くことができ、家族を養うためにそうしている女性は、ある程度の経済力を獲得しています。

 

多くの北朝鮮の家族では、女性が主な稼ぎ手であるように見えます。

2020年、ソウルにあるNGOである北朝鮮人権データベースセンター(NKDB)は、北朝鮮の中国との国境にある恵山市からの60人の難民に、故郷での結婚生活について尋ねました。

47%が妻がキムチを家に買って帰ったと述べ、37%がそれが夫であると述べ、17%が両方が等しく貢献したと述べた。

 

しかし、女性の追加収入は、女性が家庭で何をすべきかについての期待をまだ変えていません。

「家族生活の伝統的な見方は今でも一般的です」とソングさんは言います。

NKDBの調査では、男性と女性の両方が育児と家事を女性の仕事と見なしていました。

「もちろん、女性は子供の世話をする必要があります。彼らはそれを男性よりはるかに上手にしています」と、2015年にソウルに来た恵山出身の30代の女性であるチョンジンは言います。

彼女は「多くの女性が二重の負担について不平を言っていることを認めるが、欠点は男性に賃金なしで働かせるシステムにある」と言います。

 

重荷を負った妻の中には、家事を手伝うことを要求する人もいます。

役に立たない夫に対する一般的な侮辱には、ヘバラギ(妻が帰ってくるのを待っている「ひまわり」)、ナチョンドゥン(「デイランプ」、日差しの中で点灯するランプと同じくらい便利)などがあります。

 

最も成功した結婚は、女性の経済活動と男性の政治的影響力を組み合わせたもののようです。

チョンさんは、密輸業者として働いていた彼女と、高位の警察官との結婚は幸せなものだったと言います。

「私の夫にはほとんどお金がありませんでしたが、大きな力がありました」と彼女は説明します。

男性は何年にもわたって低賃金の軍隊や警察の仕事に苦しみながらも、地位を上げていきます。

その時点で、密輸業者から賄賂を引き出したり、捕まえてボーナスを獲得したりすることで、妻の闇市場での活動を保護しながら、より高い給料とそれを補充する機会の両方をもたらすことができます。

 

国が女性により多くの権利を提供したり、男性により良い仕事を提供したりする可能性は殆どありません。

北朝鮮の独裁者である金正恩は、女性戦闘機のパイロットとエンジニアを一時持ち上げましたが、最近、伝統的な家族生活に回帰し、女性に夫の世話をするように促しました。

北朝鮮の忙しい既婚女性にとって、金正恩氏はナチョンドゥン(昼間に点いているランプ)の様に役に立たないものの様です。

愛の不時着は真実を伝えている

Nexflixで人気になった韓国ドラマ「愛の不時着」はなかなか面白いドラマでしたが、今回のEconomistの記事で描かれている北朝鮮の市民生活と一致している点が多く見られます。

このドラマでは北朝鮮の男性は給料の遅配に悩み、隙があれば闇酒を飲んで仕事をサボる一方、女性は闇市場で韓国製の商品を売って生計を立てている様子が描かれています。

経済力を持っているのは女性の様ですので、北朝鮮が内から崩壊する様な事があれば、女性が政府に不満を持つ事がきっかけになるかも知れません。

そういう意味では、金正恩氏はミサイルの打ち上げにうつつを抜かすよりも、女性の地位向上に注力した方が良さそうです。

日本にも昼行灯という言葉がありますが、北朝鮮にも似た様な言葉があるんですね。

いやいや女性はどこでもたくましいです。

 

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