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シーザーに学ぶ

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世界史上の偉人

シーザーと言えば古代ローマの英雄として知られますが、この英雄が欧州の政治や文化に与えた影響は我々が想像しているより遥かに大きい様です。

彼は今のフランス、一部ドイツ、ベルギーに跨がるガリア地域を征服し、その戦績を「ガリア戦記」として世に遺しました。

英誌Economistがこの偉人から何を学べるかというテーマで​​「He came, he saw, he lied - RETRACING JULIUS CAESAR’S PATH THROUGH FRANCE」(彼は来た、見た、そして嘘をついた - フランスからジュリアスシーザーの足跡を辿る)と題する記事を掲載しました。

少し長いですが、お付き合い下さい。

Economist記事抜粋

ヘミングウェイ、オーウェル、ジョイス、ツルゲーネフ等多くの偉大な外国人作家がフランスでインスピレーションを得ています。

しかし、永続的な影響力を考えれば、一人の作家がその頂点に立っています。

彼は9年間フランスを旅し、地元の習慣を観察し、無駄のない散文で見たものを語りました。

彼はまた、数百万人の先住民を殺し、彼らの領土を征服し、何らかの形で二千年以上続く文明をそこに押し付けました。

 

もちろん、その人はジュリアス シーザーです。

彼の「ガリア戦記」は素晴らしい文学作品です。

シセロは彼の散文を「裸の人物の様に直立していて美しい」と例えました。

「ガリア戦記」は、そのような将軍によって古代に書かれた唯一の戦記でもあります。

それは歴史家にとってかけがえのない情報源であると同時に、プロバガンダに使われやすいものでもあります。

ウィンストン・チャーチルのセリフと信じられている「歴史は私に親切だろう。なぜなら私自身がそれを書こうとしているからだ。」は、シーザーのものである可能性があります。

Economistは、手元にある「ガリア戦記」のコピー(石ではないタブレット版)を手掛かりに、牛車ではなくフランスの高速列車を使用して、シーザーの歩みの一部をたどりました。

目的は、シーザーの血まみれの劇的な物語を検証する事でした。

また、ヨーロッパの歴史の中で最も重要な作家-兵士-政治家から何を学ぶことができるかを探りました。

私たちもまた、軍隊を有する男性が不正行為をし、政治家が真実をねじ曲げ、今後数十年でどの文化が支配的になるかが明確でない世界に住んでいます。

シーザーに学ぶことは、私たち自身の時代を理解するのに役立つかもしれません。

 

観察力のある読者は、シーザーが現代のデマゴーグの様にフェイクニュースを捏造したことにすぐ気づきます。

ある戦闘で、彼は軍団兵を1人も失うことなく、43万人のゲルマン人を殺害したと主張しています。

原子爆弾が存在しない時代に、これは疑わしいです。

 

シーザーは客観的な歴史を書こうとはしていませんでした。

彼の目的は彼の力を高めることでした。

紀元前58年、ガリア戦が始まったとき、彼はまだローマ帝国の主人ではありませんでした。

彼は、ポンペイ(将軍)やクラサス(金権政治)とともに、三頭政治の一人でした。

ローマ人の人気を買うためにお金を惜しみなく与えたので、シーザーは大きな借金を抱えていました。

 

軍事作戦は略奪を行う事によって借金を返済するチャンスでした。

そして、ガリア戦の勝利は、優秀な軍事指導者としての彼の評判を不動のものにしました。

 

ガリア戦争は移民危機から始まりました。

今日のナショナリストは、移民の流入を「侵略」と表現することがよくあります。

これは正にそうでした。

現在のスイスの部族であるヘルヴェティイ族は、自分たちの領土が過度に狭いと感じ、自分たちの村を燃やして、現在フランス南部の属州であるトランスアルパインゴールに移住しました。

シーザーはアルプスを越え、ヘルヴェティイ族を打ち負かし、生存者を国外追放しました。

移住した37万人のうち生きて追放されたのは11万人です。

 

次の9年間で、彼は、現在のフランス領土のほとんどを占領し、東はライン川まで伸びるゴールを征服しました。

彼はまたゲルマン人と戦い、一時的にイギリスを侵略しました。

彼は優れた戦略家であり、物資の確保に長けており、同盟の巧みな偽造者でした。

しかし、彼はいつも勝ったわけではありません。

Economistは彼の最も有名な敗北の場所を訪れました。

 

それは紀元前52年、ゲルゴヴィアでのウェルキンゲトリクスとの戦いでした。

シーザーに対する彼の勝利は、フランスの芸術と文学、ゴロワーズ(フランスで大衆に愛されるタバコ)の箱、そしてアステリックス(3億部以上売れているフランスの漫画)において不屈のガリア人の象徴として描かれています。

 

シーザーのガリア戦での振る舞いはローマで無批判に受け取られませんでした。

彼を嫌悪した上院議員のカトは、彼が殺した女性と子供たちの部族は彼を裁判にかけるべきだと主張しました。

しかし、多くのローマ人は彼の功績に感銘を受けました。

彼はローマの支配下に広大な土地をもたらしました。

彼はまた莫大な財産を略奪していました。

そして彼は4万人の忠実で強い軍隊を指揮しました。

それは彼の力を強化しました。

もし彼が元老院の命令に従っていれば、彼の敵は間違いなく彼を裁判にかけたでしょう。

代わりに、紀元前49年に、彼はルビコン川を越えてイタリアに軍団を行進させました。

4年間の内戦が続きました。

シーザーはポンペイを打ち負かし、独裁者になりました。

彼は自分自身を「王」または皇帝とは決して呼びませんでした。

しかし、彼の勝利は共和政ローマの終焉を示しました。

そのため、上院議員の一団が紀元前44年に彼を殺害しました。

しかし、彼が「ブルータス、お前もか」と言った事実はありません。

それはシェイクスピアの創作でした。

彼の養子であるアウグストゥスは最初の皇帝になりました。

 

シーザーの遺産は計り知れません。

彼はヨーロッパの政治地理学を形作りました。

彼は、リベルテ、エガリテ、フラテルニテ(自由、平等、博愛)、ヴァンブラン(白ワイン)、クロワッサンなどのフランス語の単語がすべてラテン語にルーツを持つきっかけを作りました。

彼は、地球が太陽を一周するのにかかる時間をより正確に反映し、現在も使用されている暦を世界に提供しました。

今日、イエス・キリストにちなんで名付けられているのはたった2日しかありませんが、シーザーとその後継者は全ての月に名前を残しています。

「カイザー」と「ツァーリ」という言葉は彼の名前に由来しています。

 

私たちはシーザーから何を学ぶことができるでしょうか?

彼の世界は私たちの世界とは違い、多くの点で恐ろしいものでした。

赤ちゃんはゴミの山に捨てられました。

子供たちは鉱山で強制労働を強いられました。

奴隷制は当然の事と考えられていました。

しかし、ローマにも良いところがありました。

 

それはどこから来た才能にも開かれていました。

征服された人々はローマ市民になりました。

現代の欧州連合と同様に、どの市民も大陸規模の帝国内を旅して働くことができました。

これは、非常に多くの人々がローマの支配を歓迎することになった理由であり、帝国が非常に長く続いた理由です。

 

また、社会的流動性がありました。

解放された奴隷は豊かになれる可能性があります。

少なくとも1人の皇帝、ディオクレティアヌスは奴隷出身と考えられています。

他の皇帝は、現代のリビア、セルビア、スペインから来ました。

ローマ人は、肌の色には注意を払いませんでした。

 

シーザーはしばしば法律を破りました。

しかし、これはローマに法律があったからこそ言えます。

他の古代の政体では、部族の慣習に露骨に違反しない限り、首長が言ったことは何でも通りました。

ローマ帝国では、法律は見知らぬ人との付き合いを容易にし、人生を予測しやすくしました。

今日、多くの政治家は、ハンガリーやロシアからブラジルやアメリカに至るまで、法の支配を弱体化させています。

有権者は、西ローマ帝国がシーザーの5世紀後に崩壊した後、その後の無法時代が快適ではなかったことを思い出してください。

 

古典時代からの最後の教訓は、難しい決断を下すことではありません。

シーザーが権力を掌握できた理由の1つは、ローマの司令官が退役軍人に年金を提供する責任があったことです。

したがって、ガリアでシーザーのために9年間戦った軍団は、彼の将来の権力掌握に大きな経済的利害関係を持っていました。

彼らはローマ政府ではなく、彼に対して忠実でした。

 

イラクからミャンマーまで、今日民兵が横行している国の市民が証明できるように、司令官に退役軍人の年金支払義務を負わせるのはひどいシステムです。

アウグストゥスは中央政府に軍事年金の責任を負わせることでそれを終わらせました。

それは大金を要しました。

ある見積もりによると、帝国の年間税収の半分以上です。

しかし、それは平和をもたらしました。

年金改革について逃げ回っている今日の指導者はこの故事に注意を払う必要があります。

政治家はルビコン河を渡れるか

ユリウス暦やルビコン河がシーザー由来とは知っていましたが、彼が兵隊の年金にまで責任を負っていた事は知りませんでした。

そしてフランスで高い人気を誇る漫画であるアステリックスの主人公が、シーザーが手痛い敗北を喫したゴール人のリーダーをモデルにしている事も初耳でした。

Economistが挙げるローマの遺産の中で最も重要なのは、ローマ帝国が開かれた帝国であり、征服された諸部族がローマ市民になれた点かと思います。

これが有能な人材を継続して帝国に供給できた秘訣であり、帝国が長続きした主因だったでしょう。

この点、同じ様に長続きしたオスマン帝国にも見られる制度上の特徴です。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

レストランの経済史 - コロナが与える影響は

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レストラン史に残るパンデミック

昨年から今年にかけて、飲食業界にとっては最悪の時期だったと思います。

世界中のレストランはコロナの新しい波が押し寄せるたびに、閉店を余儀なくされました。

パリは美食の都として知られますが、多くのシェフや給仕人はレイオフを余儀なくされ、その一部はレストラン業界から去っていきました。

経済が再開されるにつれて、遠ざかっていた客足は戻りつつある様ですが、今後の見通しはどうなるのでしょうか。

英誌Economistが、過去のレストランの歴史を振り返りながら、コロナ後のレストランのあり方について記事を掲載しました。「AN ECONOMIC HISTORY OF RESTAURANTS - And how the pandemic may change them」(レストランの経済史 - パンデミックが与える影響)と題された記事かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

2021年4月9日は、レストラン業界にとって最も暗い日でした。

ロックダウンの強制は、レストランの予約を激減させました。

一方、 経済が解き放たれるにつれて、多くのレストランが、現在、労働力不足に直面しています。

ロンドンで最もおしゃれなフレンチレストランの1つであるLe Gavrocheは、ランチサービスを停止する必要があり、総支配人を失いました。

 

2010年から10年の間に英国の認可レストランの数は26%増加しました。

アメリカ人は初めて、食事に使うお金の半分以上を外食に費やしました。

香港やロサンゼルスの高給とりは、キッチンのないアパートを喜んで借りていました。

近くでおいしい料理が手に入るのに、なぜわざわざ料理をするのでしょうか。

新型コロナはこの流れを大きく変えました。

 

レストランを奪われたことで、人々はレストランがどれだけ重要であるかを実感するようになりました。

外食は人間の基本と思われるニーズを満たします。

人々はそこでデートし、取引を行い、仲間と語り合う事ができます。

良いレストランでは、旅行せずに旅行した気分に浸る事もできます。

しかし、現在の形のレストランはせいぜい数百年前のものです。

政治改革から都市化、労働市場の変化が、レストランの供給と需要を生み出してきました。

その歴史はまた、パンデミック後の世界でその将来がどうなるかを暗示します。

 

人々は長い間、家の外で食事をしてきました。

考古学者は、西暦79年の火山噴火によって破壊された都市ポンペイで158のスナックバーを発掘しました。

これは、60〜100人に1店で、今日の多くの世界の都市よりも高い比率です。

ロンドン市民は、少なくとも1170年代から、調理済みの肉、狩猟肉、魚を食べることができました。

初期の開拓者であるサミュエル・コールは、1634年にボストンに最初のアメリカの居酒屋をオープンしました。

 

しかしこれらは、レストランというよりは、テイクアウトの様なものでした。

コールの頃にフランスで登場した定食屋は、近代のレストランに近い存在でした。

顧客は1つしかない大きなテーブルを共有し、与えられたものを食べていました(現在、このトレンドは復活しています)。

外食が始まったばかりの時代のレストランは、地元の人々のために存在する食堂であり、半ば慈善事業の様なもので、見知らぬ人は必ずしも歓迎されませんでした。



しかし外食は当時、ステータスの低い活動でした。

今日、外食は贅沢と見なされていますが、人類の歴史のほとんどで、最も安価な食事方法でした。

17世期、裕福な人々は自宅で食事をすることを好み、料理と片付けをするスタッフがいるという贅沢を楽しんでいました。

 

しかし、時が経つにつれて、富裕層が公の場で食事をするというスタイルが徐々に定着しました。

ロンドンのフィッシュレストラン、ウィルトンズは1742年に開店しました。

ニューヨーク市で最も古いレストランであるフランシス タバーンは、おそらく1762年にオープンしました。

そしてフランスの詩人ボードレールが観察したように、19世紀の都市は人々が消費を誇示する場所になりました。

他人に見られるのにレストランより良いところはありません。

そこは、人々が必要以上の多くの食べ物を注文する事で、富を誇示できる場所になりました。

 

20世紀にはレストランの成長が加速しました。

フードサービスにおけるアメリカの雇用は、この期間に労働力のシェアとして4倍になりました。

ミシュランガイドは1900年に最初に発行されました。

星による格付けは26年後に始まりました。

フードプロセッサーや食器洗い機などの電化製品の導入により、外食は比較的高価になりました。

1930年のアメリカでは、レストランでの食事は自宅での同等の食事よりも25%しか高くありませんが、2014年までにその差は280%に拡大しました。

 

コストが上昇したにもかかわらず、次の三つの経済的要因によりレストランの需要が確実に増加しました。

一つ目は移民です。

第二次世界大戦後の50年間で、人口に比べて、豊かな国への移民の純流入は4倍以上になりました。

レストランを始める事は、移民にとって合理性があります。

正式な資格も、少なくともシェフにとっては現地の言語に堪能である必要もありません。

移民は地域のレストランの質を向上させる傾向があります。

ロンドンは、EUとの自由な移動の時代にはるかに良くなりました。

移民が殺到するシンガポールには、世界で最高の食べ物がいくつかあります。

価格が上がったとしても、レストランはずっと魅力的になりました。

 

2番目の要因は、家庭におけるミクロ経済学の変化でした。

家庭での食事の本当のコストは、材料の出費だけでなく、買い物や準備に費やされる時間も含みます

女性の労働力参加が少ない時代には、この隠れたコストは低かったのですが、20世紀に多くの女性が労働力に加わると、この方程式は変化し、隠れたコストが上昇しました。

今、夕食を作る女性は、お金を稼ぐために使う事ができたかもしれない時間を犠牲にします。

そのため、外食は、より高価になったとしても、経済的に意味が増しました。

 

3番目の要因は労働パターンの変化でした。

歴史的に貧しい人々は裕福な人々よりも長時間働く傾向がありました。

しかし、20世紀の後半には、それは逆転しました。

知識集約型の仕事の台頭とグローバリゼーションにより、金持ちの仕事は経済的にやりがいが増し、深夜労働はステータスシンボルになりました。

結果として、彼らの余暇も少なくなったため、ますます外食を必要とする様になりました。



レストランの将来見通しは明らかではありません。

パンデミックにより、多くの人が以前よりも多くのテイクアウトを購入するようになりました(Uberの配達による収益は、人々の移動から得られる収益を上回っています)。

レストランは状況の変化に適応し続ける以外に選択肢はありません。

それは、彼らが最も得意とする事を強化することを意味します。

つまり、ロマンス、食の魅力や華やかさを人々に提供することです。

国際都市の条件

都市の魅力にレストランの良し悪しは大きな影響を与えます。

国際ビジネスマンは食事がまずい街に喜んで行こうとしません。

住むとなると尚更このクライテリアは重要になってきます。

ロンドンは昔、食事がまずい事で有名でした。

確かにイギリス料理はどれも美味しいとは言えません。

しかし、ロンドンは国際都市であり、多くの外国人移民が住んでいます。

従い英国料理さえ避ければ、世界で最高級の料理が食べられます。

特にEUに加盟していた頃は、フランスやイタリアのシェフがビザなしでロンドンで働けましたので、金の集まるロンドンには一線級のシェフが集結していました。

ロンドンには中国系、インド系の移民もたくさんいますので、アジアの味も楽しめます。

懇意にしていた日本人の寿司職人が英国の永住ビザを取得しましたが、英国政府は、ロンドンが外国人を引きつけるのは金融の中心シティだけではないという事を良くわかっていると思います。

ウィンブルドンやミュージカルなどエンターテインメントに加えてレストランも重要視されているのでしょう。

この観点から言えば、東京も国際都市として非常に魅力があります。

東京にはミシュランの星付きレストランがパリ以上にあると言われています。

最近落ち目と言われている東京も、カジノなど招致せずに、その食の魅力を国際的にアピールしては如何かと思います。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

トルコ大統領の仕掛けた奇策の成否は

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乱高下するトルコリラ

トルコの通貨リラはここ数ヶ月の間、大幅な下落を示してきました。

私もトルコにここ3週間ほど滞在したのですが、その間見る見るうちに通貨の価値が下がっていきました。

今、外国人がトルコに行けば、何でも商品が安く感じられます。

イスタンブールのアップルストアは、11月23日にドルに対してリラが15%下落した際に、店を閉めてしまいました。

その後再開されましたが、あまりの通貨価値の急落に値札を張り替える作業が追いつかない様です。

この通貨の下落は何が原因かといえば、高金利を嫌うエルドアン大統領が中央銀行に圧力をかけて、9月には19%だった政策金利を14%まで下げてしまった為です。

通貨防衛のためには利下げではなく、利上げで対処するのが普通ですが、エルドアン大統領は常識破りの対応を行ったわけです。

同大統領は今週に入ってから、リラ防衛のために新たな奇策を発表しました。

これについて英誌Economistが「Turkey’s president launches a plan to shore up his plummeting currency」(急落する通貨を支える計画を開始したトルコ大統領)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

エルドアン大統領が何か話す時、トルコリラは一般的に暴落します。

しかし最近全く異なる現象が生じました。

トルコの指導者は、自国通貨が過去最低水準に急落した直後の12月20日に、リラを救うために劇的な一歩を踏み出しました。

政府は、為替レートの変動から銀行預金を保護すると発表しました。 リラはその後見事に反発し、18.36リラ/ドルから11.11リラ/ドルに上昇しました。

 

新しい計画では、トルコ政府は、通貨の目減りが銀行が提供する金利を上回った場合はリラ預金の保有者を補償します。

たとえば、リラが1年でドルに対して30%下落した場合、預金率が14%の銀行の口座保有者は、トルコの財務省により差額をポケットに入れることになります。

少なくとも、エルドアン首相の一時的な解決策は、今のところ、トルコの指導者がリラを救出する必要性を認識していることを示して、投資家を安心させています。

スキームはまた、銀行の取り付け騒ぎを防いだ可能性があります。

トルコ人は、過去1か月間、記録的なペースで貯蓄をドルに換金してきました。

最近、彼らの一部はこの流れを完全に撤回することを考え始めました。 

 

リラの崩壊は主に、金利を大幅に引き下げるというエルドアン首相の決定によって引き起こされました。

今週の展開の前に、通貨はわずか2か月でドルに対して価値のほぼ50%を失っていました。

エルドアン大統領は暗黙裏に、利下げを維持する様、中銀に要請しました。

彼は高利貸しに対してイスラムの差し止め命令を発動しました。 

 

しかし、彼が思いついた計画は、実際には、ドルに連動した間接的な利上げです。

「現在の預金金利を受け取り、それに加えて差額を得ることができるので、外貨保有者がリラに切り替えるインセンティブになります」とドバイの金融コンサルタントは述べています。

しかし、それは金融引き締めに代わるものではありません。 「それは持続可能ではありません」と同氏は言います。

「これが実施される限り、財政の負担は増大するからです。」

 

これまで、為替レートの大幅な変動のリスクを背負っていたのはトルコの預金者でした。

これからはトルコの納税者になります。

「過去10年ほどにわたってトルコを支えていたと考えられていた財政は、今や崩壊するリスクがあります」とキャピタル・エコノミクスのジェイソン・トゥベイは書いています。

この措置はまた、トルコのインフレ問題を悪化させるリスクもあります。

ほとんどのトルコ人が実際の率をはるかに下回っていると考えている公式のインフレ率は、11月に21%以上に上昇しました。

アナリストは、特に今月初めに発表された最低賃金の50%の引き上げが発効した後、2022年の前半に最大50%に達すると予想しています。

エルドアン氏の新しい計画は事態を悪化させるリスクがあります。

リラの価値がさらに大幅に下落すると、中央銀行はリラの預金者に返済するためにお金を印刷する以外に選択肢がなくなる可能性があります。

エルドアン氏は、彼自身が付けた火の上に毛布を投げましたが、その 毛布にも火がつく可能性があります。

トルコ経済はこの難局を乗り切れるか

これほど急激なリラ安になると、イスタンブールでは暴動や反政府デモが頻発しているのではと思われるかもしれませんが、そんな動きは全く見られません。

トルコは経済的体力がありますので、ちょっとやそっとした事では、経済は崩壊しません。

欧米のメディアは、トルコの現政権に対して批判的ですので、彼らの書く事をそのまま鵜呑みにするのは危険です。

日露戦争の時に、日本の国債を大量に買った英国の金融資本を日本の救世主の様に称賛する人もいますが、彼らは日本を支援するというよりも、金儲けのチャンスとして見ていた訳で、あまり美談として捉えるべきではないと思います。

彼らは情報戦にも長けていて、当初優勢と見られていたロシア帝国の内部に革命の兆しが芽生えている事をいち早く把握し、ロシアの反政府組織に資金や武器を供給しながら、日本に大金を張っているのですから、相当な悪です。

欧米のメディアは今もこのDNAを継承していますので、騙されない様に十分注意して読む必要があります。

 

しかし、今回のトルコ政府の措置に限って言えば、かなり危ない橋を渡っている感があります。

現地でトルコ人から直接聴取しましたが、市民の実感としてインフレが相当進んている様です。

富裕層は外貨の蓄えがありますからリラ安はそれほどこたえませんが、貧困層にとってひどいインフレは最悪です。

中間層より下の層を支持層とするエルドアン大統領率いる与党にとって、インフレは自殺行為です。

今回の措置は、リラの防衛というよりも、与党の支持層である比較的貧しい国民に対する支援策と言えると思います。

しかし、今回の奇策とも言える措置は、形を変えた利上げ策で、短期的にはリラの防衛になりましたが、金融引き締め策にはなっていません。

もしリラが更に下落した場合、政府は莫大な出資を迫られ、ひいては政府の信用不信、高インフレ、リラの暴落と悪いサイクルに入っていくのではと心配になります。

トルコのファンダメンタルズ(基本的な経済指標)はインフレ率を除いて、かなり良い水準を維持していますが、今回の措置により最後の砦として守り続けてきた財政規律が悪化する事が危惧されます。

 

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欧州で猛威を振るうオミクロン(英国からの報告)

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急速に拡大したオミクロン感染

オミクロンの感染はあっと言う間に欧州各国に広がっている様です。

ついこの間まで猛威をふるったデルタ株の感染が下り坂になる中、入れ替わる形でオミクロンが拡がっています。

気になるのはワクチン接種率が世界で最も高いと思われる欧州で感染が広がっている点です。

我が国での感染はいまだ僅かですが、いずれ感染が広がる事が予想されます。

欧州の対応は今後の参考になるものと思われます。

英誌Economistの「Omicron storms Europe」(欧州を襲うオミクロン)と題された記事をご紹介したいと思います。

Economist記事要約

感染性の高いオミクロン変異株は、ロンドンでの新型コロナ症例の大部分をすでに占めています。

現在、大陸ヨーロッパで急増しており、各国政府は新しい対策を急ぐようになっています。

ドイツは、12月20日から、英国から到着するすべての旅行者に14日間の検疫を課しています。

フランスは12月18日、英国からの観光客の入国を禁止しました。

ただし、海外旅行の制限は、変異株の広がりを抑えるのに十分ではありません。

12月19日、オランダは新たなロックダウンを導入しました。

これは少なくとも1月14日まで続きます。

他の場所でも、より厳格な措置が見込まれています。

 

オミクロンの感染拡大は、デルタ変異株によって引き起こされた感染がピークを過ぎたと思われた時に始まりました。

フランスの首相であるカステックス氏は、12月17日、この変異株はヨーロッパの他の地域に「電光石火の速さ」で広がっており、オミクロンによる新たな症例数は2〜3日ごとに倍増していると述べました。

フランスの保健大臣であるOliverVéranは、この変異株がクリスマスまでにフランスでの症例の大部分を占める可能性があると述べています。

 

オミクロンがデルタよりも深刻ではないことが判明したとしても(これはまだ明らかではありません)、この感染のスピードは、重症者の数が増える可能性があることを意味します。

多くの最前線の医療従事者は、重圧を受けています。

しばらくの間この圧力を和らげるために、ヨーロッパの政府は自由に使える2つの主要な手段を有しています。

1つは、ブースター(追加接種)の展開を加速することです。

もう1つは、社会的活動を制限することです。

 

ブースターから始めます。

特に欧州連合の西側では、ワクチンの投与が順調に進みました。

ポルトガル人のほぼ89%、スペイン人の83%、フランス人の80%、イタリア人の79%が少なくとも1回のワクチン接種を受けています。

これは、英国の76%、ドイツの73%、アメリカの73%と比較して高率です、

しかし、ブースターショットは、オミクロンに対してより重要な保護を提供するようです。

英国はこのレースで先行しています。

アメリカでは18%であるのに対し、英国の40%以上がブースター接種を行っています。

ドイツでは30%、フランスで24%、イタリアで23%です。

ヨーロッパは現在、ブースターの展開において競争しています。

マクロン大統領は、11月下旬に、18歳以上のすべての人々にブースターを開放しました。

彼はまた、65歳以上の人に、レストラン、バー、その他の屋内会場への入場に必要なデジタル証明書であるフランスのワクチンパスは、持ち主がブースター接種を受けなかった場合、12月中旬に期限切れになると警告しました。

 

しかし、欧州の保健機関は12月15日、ブースターの展開が早くても、社会活動に関する制限が「遅滞なくさらに強化」されない限り、医療制度は対処に苦労するだろうと警告しました。

これが、ヨーロッパ諸国が2番目の対策、すなわち旅行やその他の活動に対するより厳しい制限に目を向けている理由です。

 

オランダは、市民にこれまでで最も厳しい規則を課しました。

すべてのバー、レストラン、映画館、生活必需品を売っていない店舗、屋内スポーツセンターは1か月間閉鎖されています。

スポーツイベントは空のスタジアムで行われます。

クリスマス期間中、家族は13歳以上の4人のゲストのみを自宅に招待できます。

オランダの首相であるマーク・ルッテ氏は、変異株が予想よりも「さらに速く」広がっていたことを考えると、選択の余地はないと述べました。

 

今のところ、フランスはロックダウンも夜間外出禁止令も課していません。

現在、PCRテストによる陰性証明は、レストランやその他の公共の場所へのアクセスを得るためにも使用できますが、政府はこれをワクチン証明に切り替える事を計画しています。

イタリアはすでに同様の規則を課しています。

オーストリアはさらに進んでいます。

2月にオーストリアでは予防接種が義務付けられ、拒否した人には多額の罰金が科せられます。

オミクロン波のタイミングは、2つの理由からフランスでは特に厄介です。

1つは経済的です。クリスマスと新年に英国人観光客に大きく依存しているアルプスのホテルとレストランのビジネスは、国境制限のためにシーズンが悲惨なスタートを切る事が確実です。

しかし、より大きな問題は政治的です。

フランスは4月に大統領選挙を行い、1月には選挙キャンペーンが始まります。

再度立候補する予定のマクロン氏は、新たなロックダウンを課したり、学校を閉鎖したりする積もりはありません。

フランス人は去年の冬、何ヶ月も夜間外出禁止令を受けており、その時のネガティブな記憶が残っています。

 

オミクロンの感染拡大は、国の政治的展開を変える可能性さえあります。

これまでのところ、ポピュリスト国家主義者からの圧力の下で、移民問題が議論を支配してきました。

これらは今や公衆衛生問題によってとって変わられようとしています。

政治家がコロナに右往左往する社会

英国ではブースターを国民の4割も受けているんですね。

これは知りませんでした。我が国では未だ医療従事者だけだと思います。

欧州では、コロナが最重要課題になっている様ですが、我が国も事情は同じです。

もしコロナ感染者数の低下が1ヶ月早く始まっていたら、菅前首相は政権を投げ出さなくて良かったかもしれません。

政治家は新規感染者の数に一喜一憂し、メディアは朝から晩までコロナの話題を流し続けます。

勿論、コロナ対策は必要ですが、物事には程度というものがあります。

国民の関心がコロナ一点に集中し、政治家がコロナ対策に駆けずり回る現在の状況は、若干行き過ぎている感があります。

コロナ以外にも重要な政治課題はたくさんありますので、そちらにも十分な注意を払って頂きたいものです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございます。

コロナが導入を加速した次世代技術

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羽田空港の水際対策

一昨日、日本に帰国しました。

空港の水際対策は昨年とは打って変わって厳重を極めました。

多くの関係者が頑張っておられる事は評価致しますが、デジタル化において我が国が如何に遅れをとっているかこの空港の検疫対策だけとってみても良くわかりました。

何重にも書類をチェックされ、手作業をさせられますが、電子化を進めれば殆どのチェックポイントは省略する事が出来る筈です。

国の玄関である空港で時代遅れの検疫プロセスを経験した外国人は、日本のイメージが変わってしまう筈です。

 

イスタンブールに滞在して思った事は、トルコの方がデジタル化では先を行っているという事です。

イスタンブールではQRコードでATMからお金を引き出したり、レストランでメニューを読むなんて事が行われていましたが、東京では殆ど見られません。

非接触のクレジットカードでの支払いはトルコでは当たり前でしたが、日本はまだ始まったばかりです。

ショッピングモールでトイレの入り口は非接触で開閉しますが、そんなドアは日本では見当たりません。

老人が多いからデジタル化が難しいというのはわかりますが、少なくとも先端技術による選択肢をオプションとして提供してもらいたいところです。

日本がもたもたしている間に、世界は先に行ってしまいます。

 

米誌ウォールストリートジャーナル(WSJ)が10年先の世界を想像する記事を掲載しました。

未来学者のブライアン ソリス氏が書いた記事かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事抜粋

私たちが2030年に生きている事を想像してみてください。

次に、物事がどう変わるかを想像してみてください。

空飛ぶ車、超音速の旅行、私たちの間を歩くロボット、1日の大部分をメタバースで過ごす自分を想像できますか。

おそらくそうなるでしょう。

しかし、2030年までに広く採用されると予想される技術トレンドの多くは、今日既に動き出している様です。

 

過去2年間の不自由な生活は、この流れを加速させました。

世界が長期間にわたって自宅から仕事、学習を行う様になった時、未来のテクノロジー採用のスケジュールは前倒しされました。

何年にもわたって二の足を踏んでいましたが、顧客と従業員のニーズと変化に対応するために、デジタル化に踏み切る必要が生じました。

 

次の様な変化が訪れると思われます。

監視下におかれる巨大ハイテク企業

Facebookの元従業員であるFrances Haugenblewが、Facebookがプラットフォーム上で有害な関与を行っている事を告発した時、多くの政府、企業幹部やユーザーは「もうたくさんだ」との共通認識を得た様です。

ユーザーは、ハイテク企業の恐るべきアルゴリズムのモルモットであることが明らかになりました。

今年を振り返ると、巨大ハイテク企業が自らを規制する時代が終わったかもしれません。

ユーザーの安全性とネットワークの説明責任は、デジタル社会と現実世界が共存していくために非常に重要です。

Web 3.0とよりオープンで協調的で説明責任のある枠組みは、オンラインでのやり取りをより良いものにするために不可欠です。

拡張現実(AR)が現実のものに

パンデミックが続く中、実店舗が一時的に閉鎖されるか、入場が制限されたとき、電子商取引(EC)は飛躍的に成長しました。

ただし、従来の電子商取引は、オンラインショッピングの二次元的で静的な性質のために、顧客が買い物の実感を得るのに十分ではありませんでした。

ARは、衣料品、靴、車、フォークリフトなど、あらゆる種類の製品を仮想化し、物理的に目の前にあるかのように製品を体験できるようにします。

顧客の61%が、パンデミック後のオンラインで以前よりも多くの時間を費やすと述べており、実際の店舗や倉庫が今後再開したとしても、ARは電子商取引の売り上げを拡大する上で重要な役割を果たします。

革新的なWeb3.0

暗号通貨、NFT(非代替トークン)、ブロックチェーン、分散型自律組織、メタバースいずれも流行語です。

Webの次の世代(別名Web 3.0)の先駆けとなる重要なトレンドも表しています。

Web 2.0は、モバイル、ソーシャル、クラウドコンピューティングの「黄金の三角形」を組み合わせた、ソーシャルWebまたはプラットフォームとしてのWebの時代として広く認識されています。

Web 3.0のビジネスモデルは、分散化、開放性、管理者の存在しないネットワークであり、暗号化された説明可能な分散型台帳を利用しています。

アート、銀行、保険、ヘルスケア、政府サービスなど、すべてが、従来の会社組織によってではなく、共有グループによって所有される付加価値のある商品やサービスとして見直されます。

加速化するデジタル技術

およそ2年間のコロナ体験がこういった次世代技術の導入を加速している様です。

個人的には以前の様なコロナのない世界の再来を期待したいのですが、今後もウイルスは突然変異を繰り返しますので、新たな変異株の登場は避けられません。

思い返せば、9.11のテロは空港での荷物検査を厳重にしましたが、それも今や慣れっこになっています。

コロナの検疫対策もそのうち、当たり前のようになるでしょう。

コロナのおかげで次世代技術の導入スケジュールが前倒しになったと前向きに考えるのは楽観的に過ぎるでしょうか。

 

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インターネットの進化が大きく変える世界秩序

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インターネットの新しい時代

Web 3.0という言葉を聞いた事あるでしょうか。

実は私も最近この言葉を初めて聞いたのですが、今後のインターネット世界のことを指す言葉だそうです。

インターネットの初期はWeb 1.0と称されるそうですが、その頃のネットの世界は一方通行で、静的なウェブサイトを閲覧するというのがもっぱらの使用法でした。

その後ネットの通信速度が早くなるにつれて、Web 2.0の世界が出現しました。そこではネットの利用法は双方向となり、SNSを使って世界の人々と繋がる事ができる様になりました。

Web 1.0では使用者は一部のヘビーユーザーに限られていましたが、iPhoneの様なスマホの普及もあり、Web 2.0ではネットの世界が一般大衆に解放されたのも大きな特徴です。

Apple, Google, FacebookといったいわゆるBig Techの影響力が増したのもこの時代でした。

随分便利になったネット環境ですが、弊害も多く見られる様になりました。

ビックテックが集める個人データは知らない間に広告などに流用され、情報漏洩の事故も頻繁に起きる様になりました。

更には国がネット検閲を行う様なところも出てきました。

既にネットはWeb 3.0の時代に入ろうとしています。

それはブロックチェーン技術を応用した分散型ネットワークの登場です。

そこではビックテックの様な企業或いは政府が情報を管理する訳ではありません。

この新しい時代の到来に際して、米誌Foreign Policyが「Great Protocol Politics - The 21st century doesn’t belong to China, the United States, or Silicon Valley. It belongs to the internet.」(世界を牛耳るインターネット - 21世紀は中国や米国やシリコンバレーのものではありません。インターネットが牛耳ります)と題した論文を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy論文要約

最近のエッセイで、政治学者のイアン ブレマーは、ビッグテック企業が世界秩序を再構築すると主張し、コラムニストのスティーブン ウォルトは、これに反論し、国が引き続き支配的だと主張しました。

私たちは3番目の見方をします。

テクノロジーはすでに世界秩序を変えただけでなく、企業と国家の両方の性質も変えています。

21世紀は、中国や米国のものではありません。また、テクノロジー企業のものでもありません。

それはインターネットのものです。

 

おそらく最も重要なのは、ビットコインやイーサリアムのように、国や企業によって管理されていない分散型プロトコルの台頭です。

世界的なテクノロジー企業の弱点は、彼らが通常、米国または中国に本拠があり、契約執行のためにそれらの法制度に依存していること、そして彼らの権力の行使はすでに世界的な反発を引き起こしている事が挙げられます。

これらの問題は、伝統的な国民国家の境界を越えて財産を保護し、契約を履行することができる暗号プロトコルの導入によって解決されます。

この新しいテクノロジーの普及は、デジタル世界を超えて様々な分野で大きな影響を及ぼす事になりそうです。

 

マッキンダー派の伝統的な地政学は、国家間の位置関係に依存しています。

ロシアと日本の距離関係は永遠に変わりません。

しかし、インターネットの世界は違います。

2人の間の距離は、地球上の移動時間ではなく、ソーシャルネットワーク上の距離です。

つまり、誰もがソーシャルネットワークでフォローするだけで他の人の近くに身を置くことができます。

すべての市民は、インターネットにアクセスできれば、、画面を介して在宅勤務し、毎日数時間をクラウドで過ごすことで、別の国の市民になることさえできます。

物理的な移民は必要ありません。

 

新聞で何が起こったのか考えてみてください。まず、新聞はすべてオンラインになりました。

同様の運命は国の通貨に降りかかるでしょう。

すでに国の通貨は暗号通貨と競合しています。

これは、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)が導入されてより加速します。

私たちは世界的な金融競争の時代に突入しようとしています。

日本円のデジタル版は、スイスフランやビットコインなど他の資産との直接のグローバル競争に突入します。

誰もが常に外国為替トレーダーになり、最強の通貨、または暗号通貨だけが生き残るでしょう。

 

エストニア、シンガポール、台湾、アラブ首長国連邦、チリなど、さまざまな国が、「遊牧民ビザ」と呼ばれるプログラムを通じて、外国の才能を求めています。

ネットを通じた外国の人材活用は今後加速化するでしょう。

 

30年間の介入、侵略、制裁と監視の後、米国はもはや国際秩序の公平な仲裁者であるとして信頼されていません。

もちろん、中国もルールに基づく秩序の擁護者であると主張することはできません。

しかし、国際的なルールを作るという目標自体は望ましいものです。

少なくとも商業分野では、小国がますます「インターネット上の国際ルール」と呼ばれるものに目を向けると信じられます。

まだ初期の段階ですが、強制力のある国際法は、国際貿易の文脈では、分散型スマートコントラクトを可能にします。

そして、貿易を超えて、暗号化プロトコルは言論の自由やプライバシーのような市民の自由に国境を越えた保護を提供します。

Web 3.0の長所

Web 3.0の導入によって何が変わるのでしょうか。

まずデータの所有権がユーザー自身になるため、今の様にユーザーの知らないところで、個人データが取引される様なリスクが解消されます。

次にWeb 3.0は現在の様なサーバーを通じた取引ではなく、ピアツーピア取引によって直接ユーザー同士が繋がる事ができます。

最後に、中央集権的にデータを取り扱う組織が存在しませんんので、政府の検閲を受けにくい事が挙げられます。

今まで、我々は政府が存在するのが当たり前の様に思ってきました。

我々は何を国に期待しているのでしょうか。

例えば自分たちが持っている財産を裏付けてくれる機能だったりするのかも知れません。

しかし、その機能がブロックチェーンを使った技術によって置き換えられるとすれば、政府の存在価値はかなり薄れるかも知れません。

この論文の筆者が唱える様に、国際的なルールが出来あがれば、現在政府が果たしている役割の多くはWeb 3.0の時代には不要になってしまう可能性があります。

もちろん、既得権益を持つ政府の人たちはこの流れに強く反対すると思いますので、直ぐに実現するとは思えませんが、Web 3.0は国境を取り払うパワーを秘めています。

 

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オミクロンに対する欧州の対応

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二転三転した水際対策

先月、日本の新型コロナ感染者が急速に減少した頃、政府も水際対策の緩和に動きました。

隔離期間は最低3日間に短縮されました。

しかしそこで新たな難問が登場しました。

新しい変異株オミクロンです。

感染力がデルタよりも高いと言われるこの変異株の出現のために、日本の水際対策は逆戻りどころか、在留資格のある外国人の再入国さえ認めない、事実上の鎖国状態となりました。

同じ先進国である欧州のオミクロンに対する対応はどうだったのでしょうか。

仏紙Les Echosが「Covid : face à Omicron, le retour désordonné des restrictions de voyage en Europe」(オミクロンに直面したヨーロッパ各国の渡航禁止令に足並みの乱れ)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Les Echos記事要約

イタリアは火曜日、オミクロンの異変株の急速な蔓延に直面し、木曜日のEU27カ国首脳会談の前に、入国条件の強化を発表しました。

木曜日の時点で、イタリアでは、完全にワクチン接種されている欧州連合(EU)からの訪問者を含め、到着時にすべての訪問者にPCR検査が必須となりました。

EUからの訪問者は「欧州健康パス」の創設以来免除されていました。

ワクチン未接種のEU国民も、世界の他の地域からの訪問者と同様に、到着時に5日間の隔離を行う必要があります。

感染率は住民10万人あたり200人をわずかに上回っており(ヨーロッパの平均の2分の1)、イタリアは今のところオミクロンの感染を比較的免れています。

イタリア政府が今回導入した措置はできるだけ多くの追加接種を行う時間を稼ぐことを目的としています。

このイタリアの突然の措置はヨーロッパを驚かせました。

国境での制限については、加盟国は、他の国と委員会に48時間前に「可能な限り」通知するという点について一年前に合意していたからです。

 

ギリシャも日曜日からワクチン接種されたヨーロッパ人にも入国事検査を行う事を発表しました。

イタリアとギリシャはポルトガルとアイルランドに加わり、入国時にPCRテストが必要です。

フランスは、、木曜日に、オミクロン変異株が広がっている英国など非EU諸国との旅行条件の強化を発表しました。

旅行者の「やむを得ない理由」を正当化する義務は、土曜日に復活しました。


最近の出来事は、緊急時に、国はEUが決めた原則から解放されることを示しています。

イタリアのドラギ首相は、彼の決定に驚いた他のEU加盟国に対し、2020年に彼の国が支払った重い人的被害を思い起こさせる事で自らの判断を擁護しました。

 

欧州疾病予防管理センター(ECDC)は水曜日に、ワクチン接種は依然として「鍵」であるが、感染を防ぎ、医療制度への負担を軽減するためにそれだけでは「十分ではない」と警告しました。

テレワーク、マスクの着用、交通機関や公共スペースの混雑の制限などの対策の迅速な再導入を推奨しています。

やっかいな新規変異株の発生

厳しくなったとは言え、鎖国状態の日本に比べれば、かなり甘いのが欧州の現状の様です。

新規感染者が7万人を超えた英国に比べ、日本の本日(16日)の新規感染者数は190人と素晴らしい数字を記録しています。

これはG7で最も高いワクチンの接種率と、厳しい水際対策が功を奏している結果だと思います。

オミクロンは日本でもいずれ感染が広がると思いますが、出来るだけ3回目のワクチン接種を進める時間を稼ごうというのが当面の政府の作戦だと思います。

最も高齢化が進んでいる日本ではこの作戦が妥当だとは思いますが、海外とビジネスを進めようと考えている企業にとっては、これが大きなハンディになる事は間違いありません。

今後もオミクロンの様な新しい変異株が現れるために、隔離期間が延長されるとなると、安心して海外出張に出れません。

特にトップ外交は今の状況では無理でしょう。

急に2週間社長が帰国後隔離されるとなると、会社が回りません。

私もこれからイスタンブールから帰国ですが、上手くいっても2週間の自宅隔離が待っています。とほほ。

 

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ミャンマーに元を使わせようとする中国

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最後のフロンティアの暗転

ミャンマーは一時東南アジアに残された最後のフロンティアと言われて、日本企業が大挙して押しかけた有望市場でした。

そんなに昔の話ではありません。

長く軍政が続いたミャンマーに政治革命が訪れたのが2011年ですから、つい10年前の話です。

しかし、民主化の動きは軍が起こしたクーデターによって暗転しました。

多くの日本企業は駐在員の引き上げなど事業の縮小に追われています。

一番被害が大きいのは大型の投資を行った日本企業で、今日の日経新聞にも軍に繋がりのある企業と合弁会社を組んだキリンビールが合弁相手と訴訟沙汰になっている事が明らかにされていました。

クーデターによる国民への弾圧を理由に、国際社会が制裁を与えているミャンマーですが、中国は着々とその影響力を増している様です。

中国の政府系報道機関環球時報が「Myanmar to include yuan in settlement currency for border trade with China」(ミャンマーは中国との国境貿易のために人民元を決済通貨として認可)と題する記事を掲載しました

かいつまんでご紹介したいと思います。

環球時報記事要約

ミャンマーは中国との国境貿易の公式決済通貨に人民元を認める予定であり、試験段階での目標決済規模は約20億元(3億1400万ドル)に設定されています。

 

情報筋によると、この動きは、不安定な政治情勢の中で経済崩壊に陥った後、ミャンマーが現在直面している米ドルやその他の外貨調達の危機に対処することを目的としています。

中国のミャンマーとの急成長する貿易において、ミャンマーの銀行が人民元にアクセスできる事は、その財政難を緩和するのに役立ちます。

 

アナリストらは、米国のドルを使ったいじめが、一方的な制裁を課すのに大いに役立っているため、これは、元の国際化を推進し、米ドルの覇権に対抗するための近隣諸国との中国の共同努力における重要な一歩でもあると評価している。

 

貿易決済における元の使用は、人々が「小さな貿易」と呼ぶ小さな商品や日用品の取引に焦点を当てて、初期段階で国境貿易を試験的に行うでしょう。

 

匿名の情報筋は、「将来的には、元の使用拡大は、私たちが『ビッグトレード』と呼んでいるものをカバーするように拡大するだろう。」と述べています。

ミャンマー中央銀行と中国大使館職員が参加する予定の公式式典が2022年1月1日に開催される予定です。

 

「これは、インフレの上昇、失業、経済の停滞に苦しんでいるミャンマーの人々にとって、助けになる手段です。少なくとも部分的に彼らの生計を助けます。」と、中国の金融専門家は環球時報に語りました。

 

人民元は2019年1月にミャンマーの公式決済通貨に含まれていました。

しかし、業界関係者によれば、すべての契約と貿易が依然としてドルまたはミャンマーチャットで決済されていたため、当時のこの動きはより象徴的なものでした。

 

専門家は、長期的には、ミャンマーの外貨準備におけるドルの独占も解決すると述べました。

アナリストらによると、米国はドルの支配的地位を悪用して他国に制裁を課すことで有名であり、ミャンマーの貿易決済における人民元のさらなる拡大はこれらの問題に対処する可能性があるとしています。

ドルの覇権は脅かされるか

第二次世界大戦後、基軸通貨はポンドからドルに代わり、その後一貫してドルが基軸通貨としての地位を保っています。

これに続くのはユーロですが、為替市場での使用率はドルの4割強に対して、ユーロは2割弱と大きな隔たりがあります。

中国の元に至っては2%程度で現時点では全く相手になりません。

基軸通貨を発行する国は様々なメリットを持ちますが、何と言っても自国通貨を取引に使えますので、為替リスクがないのが最大の利点でしょう。

それと共に、多くの国がドルを決済手段に使えば、制裁をかけやすく、国際的な政治力、外交力の強化に繋がります。

一見、米国と関係なさそうなイランが米国の制裁に悩むのは、貿易取引の決済がドルが一般的だからです。

米国がその気になれば、イランの原油販売にドルを使わせない事も可能であり、イランの首根っこを抑える事ができるのです。

今は、ドルの足元にも及びませんが、中国政府が将来的に狙っているのは、この基軸通貨としてのドルの地位を脅かす事だと思います。

ミャンマーでやっていることはその一環だと思います。

しかし、市民に銃を向ける様な政府を金融面で支援する事は、国際社会の批判を浴びることになります。

強権主義の政府に甘い中国ですが、ミャンマーの市民がこれをどういうふうに評価するのでしょうか。

 

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「愛の不時着」が描く北朝鮮の市民生活は真実だった

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闇に包まれた市民生活

北朝鮮の市民の生活については闇に包まれており、なかなかそれを知ることができません。

拉致された後、解放された日本人から断片的な情報は聞き出せたかもしれませんが、拉致された日本人は北朝鮮国民とは違う境遇で暮らしていたかも知れませんので、参考情報にしかなりません。

一番真実に近いのは脱北して韓国に逃げてきた市民から話を聞くことでしょう。

英誌Economist脱北者の証言を元に「Many North Korean women outearn their husbands, but still do the chores - Women trade; men do badly paid state jobs」(多くの北朝鮮の女性は夫より稼いでいるが、それでも家事をしている - 女性は商売をし、男性は殆ど無給で国の仕事をしている)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

彼女が6年前に韓国に逃げる前に、キム・ウンギョンは北朝鮮に多くある闇市場の1つで日々過ごしていました。

彼女は家庭用品と違法な韓国テレビドラマを販売していました。

夕方、彼女は家事をし、娘の世話をしました。

彼女は、「国が義務付けた工場の仕事で夫は1日数時間働き、残りの時間をギャンブルと飲酒に費やした。」と言います。

彼らはすれ違いの生活を送っていました。

「彼が家事を手伝ってくれたら良かったのですが、私たちはまったく別の生活を送っていました」とキムさんは言います。

「私たちがこれまで率直に話し合ったのは、私たちの経済状況だけでした。」

 

過去20年間に韓国に逃亡した人々の調査から判断すると、キムさんの話は北朝鮮の女性の一般的な生活を表しています。

1990年代に北朝鮮の計画経済と公共流通システムが崩壊した後、政府は女性の労働要件を緩和しました。

政府は、ほとんどの男性に政府のために働くことを強制し続けていますが、彼らにはほとんどまたはまったく給料を支払っていません。

したがって、男性よりも自由に市場で働くことができ、家族を養うためにそうしている女性は、ある程度の経済力を獲得しています。

 

多くの北朝鮮の家族では、女性が主な稼ぎ手であるように見えます。

2020年、ソウルにあるNGOである北朝鮮人権データベースセンター(NKDB)は、北朝鮮の中国との国境にある恵山市からの60人の難民に、故郷での結婚生活について尋ねました。

47%が妻がキムチを家に買って帰ったと述べ、37%がそれが夫であると述べ、17%が両方が等しく貢献したと述べた。

 

しかし、女性の追加収入は、女性が家庭で何をすべきかについての期待をまだ変えていません。

「家族生活の伝統的な見方は今でも一般的です」とソングさんは言います。

NKDBの調査では、男性と女性の両方が育児と家事を女性の仕事と見なしていました。

「もちろん、女性は子供の世話をする必要があります。彼らはそれを男性よりはるかに上手にしています」と、2015年にソウルに来た恵山出身の30代の女性であるチョンジンは言います。

彼女は「多くの女性が二重の負担について不平を言っていることを認めるが、欠点は男性に賃金なしで働かせるシステムにある」と言います。

 

重荷を負った妻の中には、家事を手伝うことを要求する人もいます。

役に立たない夫に対する一般的な侮辱には、ヘバラギ(妻が帰ってくるのを待っている「ひまわり」)、ナチョンドゥン(「デイランプ」、日差しの中で点灯するランプと同じくらい便利)などがあります。

 

最も成功した結婚は、女性の経済活動と男性の政治的影響力を組み合わせたもののようです。

チョンさんは、密輸業者として働いていた彼女と、高位の警察官との結婚は幸せなものだったと言います。

「私の夫にはほとんどお金がありませんでしたが、大きな力がありました」と彼女は説明します。

男性は何年にもわたって低賃金の軍隊や警察の仕事に苦しみながらも、地位を上げていきます。

その時点で、密輸業者から賄賂を引き出したり、捕まえてボーナスを獲得したりすることで、妻の闇市場での活動を保護しながら、より高い給料とそれを補充する機会の両方をもたらすことができます。

 

国が女性により多くの権利を提供したり、男性により良い仕事を提供したりする可能性は殆どありません。

北朝鮮の独裁者である金正恩は、女性戦闘機のパイロットとエンジニアを一時持ち上げましたが、最近、伝統的な家族生活に回帰し、女性に夫の世話をするように促しました。

北朝鮮の忙しい既婚女性にとって、金正恩氏はナチョンドゥン(昼間に点いているランプ)の様に役に立たないものの様です。

愛の不時着は真実を伝えている

Nexflixで人気になった韓国ドラマ「愛の不時着」はなかなか面白いドラマでしたが、今回のEconomistの記事で描かれている北朝鮮の市民生活と一致している点が多く見られます。

このドラマでは北朝鮮の男性は給料の遅配に悩み、隙があれば闇酒を飲んで仕事をサボる一方、女性は闇市場で韓国製の商品を売って生計を立てている様子が描かれています。

経済力を持っているのは女性の様ですので、北朝鮮が内から崩壊する様な事があれば、女性が政府に不満を持つ事がきっかけになるかも知れません。

そういう意味では、金正恩氏はミサイルの打ち上げにうつつを抜かすよりも、女性の地位向上に注力した方が良さそうです。

日本にも昼行灯という言葉がありますが、北朝鮮にも似た様な言葉があるんですね。

いやいや女性はどこでもたくましいです。

 

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東南アジアにおける米中戦略の違い

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米中の異なる戦略

米中対立の主戦場はインド太平洋ですが、そこで両国はいかなる戦略を立てているのでしょうか。

米国は豪州に原子力潜水艦の売却を決断し、AUKUSという米英豪三カ国からなる安全保障上の取り組みを構築しました。

一方、中国は元々米国が提唱した環太平洋パートナーシップに加盟を申請しました。

どうもこの二カ国は異なった戦略を立てている様です。

米誌Foreign Policyが「In Asia, China’s Long Game Beats America’s Short Game - Beijing’s focus on economic ties will outlast Washington’s on military alliances.」(アジアでは、中国の長期戦略がアメリカの短期戦略に勝る - 経済に焦点を当てる中国の戦略は、米国政府の軍事同盟よりも長持ちする。)と題した論文を掲載しました。

著者はシンガポール国立大学上級研究員の​​Kishore Mahbubani氏です。

Foreign Policy論文要約

潜水艦はステルス(相手にさとられない)ですが、貿易はよりステルスです。

どちらもセキュリティを生み出します。

前者は抑止力によるものであり、後者は相互依存によるものです。

しかし、貿易によって生み出される安全保障はより長く続きます。

 

潜水艦の契約は簡単にキャンセルされます。

オーストラリアに攻撃型潜水艦を提供するという契約を失ったフランスに聞いてみてください。

貿易協定によって生み出された経済的相互依存は、解除するのがより困難です。

北米自由貿易協定を破棄する事ができず、お化粧直しした協定に合意しなければならなかったトランプに聞いてみてください。

 

この対比は、米国政府がインド太平洋で採用している短期戦略と中国政府の採用している長期戦略の違いを浮き彫りにしています。

米国は、オーストラリアと英国との間で締結したAUKUSの安全保障協定に賭けています。

一方、中国は、貿易を利用して近隣諸国、特に最も成功しているアジアのブロックである東南アジア諸国連合(ASEAN)に賭けています。

 

ワシントンはある点で正しいです。

表面的には、AUKUSメンバーは強いつながりを持っており、同じ方向を向いています。

一方、ASEANは、ミャンマーなどの加盟国の管理に苦しんだ意見の一致しない組織体の様に見えます。

ASEANはまた、増大する米中の競争に対する首尾一貫した地域的対応を生み出すのに苦労しています。

しかし、ASEANが弱すぎて、他の加盟国はもちろんのこと、加盟国に意志を押し付けることができない場合、その弱みはASEANの強みでもあり、ブロックが地域内外で信頼を築くことができます。

 

私はちょうど50年前の1971年にシンガポールの役人として初めてASEAN会議に出席しました。

会議室に入るとすぐに、5つの創設メンバー国の間の不信の匂いを感じました。

20年後、私がASEAN会合に出席したとき、不信の雲は消えていました。

代わりに、インドネシア文化(協議と合意)がASEANに感染していました。

徐々に、この協議と合意の文化は地政学的な奇跡を生み出しました。

その中には非常にステルスなものもあり、地域外ではほとんど気づかれていませんでした。

 

ASEANが米国を支援したベトナム戦争の終結後、ベトナムとASEANの間の敵意と不信感は明白でした。

しかし、冷戦が終結したとき、ASEANはベトナムをこの地域の経済に統合し、この国が東アジアの新たな経済の奇跡として浮上するのを助けました。

ベトナムがASEANから学んだ最も重要な教訓は、ASEANの当初の加盟国が貿易を通じて互いの不信を克服したように、敵とさえ貿易することでした。

インドとパキスタン間の貿易は1991年から2021年にかけて3倍になりましたが、ベトナムと中国の間の貿易は1979年に互いに戦争をしましたが6,000倍になりました。

要するに、ASEANの文化は平和と繁栄を生み出しました。

 

もう1つの主要なASEANのブレークスルーは、日本と韓国の間のより大きな経済的関与を生み出すことでした。

両国はどちらも米国の同盟国ですが、米国は彼らに互いに話すように説得することはほとんどできません。

近年、ソウルと東京の間で協議もコンセンサスもありませんでした。

それにもかかわらず、ASEANは、東アジアの2つの隣国を説得して、彼らの間で(そして中国とも)自由貿易協定に署名するように説得しました。

オーストラリア、ニュージーランド、中国、日本、韓国もこれに署名しました。

強力な中国、日本、韓国の経済統合は、RCEPの経済的後押しのほとんどを生み出すでしょう。

この奇跡を成し遂げたのはあまり知られていませんが、ASEANでした。

 

これは簡単な単語テストです。

バイデン米国大統領、ブリンケン米国務長官、オースティン国防長官、サリバン補佐官のスピーチに、ASEANとその加盟国の名前あるいはオーストラリアどちらの言葉がより多く現れるでしょうか。

答えはオーストラリアになります。米国のオーストラリアへの愛情は本物であり、その懸念は心からのものです。

しかし、地政学は残酷なビジネスでもあり、感情が競争上の不利益を生み出します。

中国がASEANとRCEPに焦点を合わせ、米国がオーストラリアとAUKUSに焦点を合わせる場合、北京が勝ちます。

 

その理由は次のとおりです。大きなゲームは経済であり、軍事ではありません。

2000年の米国のASEANとの貿易総額は1,350億ドルで、中国の400億ドルの貿易の3倍以上でした。

2020年までに、中国のASEANとの貿易は6,850億ドルに拡大し、米国の3,620億ドルのほぼ2倍になりました。

米国は今でも日本を経済大国と見なしています。

そして2000年には、日本の経済はASEANの8倍の大きさでした。

しかし、2020年までに、それは1.5倍となりました。

2030年までに、日本の経済はASEANよりも小さくなるでしょう。

 

中国のASEANとの関わりは深く幅広い。

高速鉄道は、インドネシア、ラオス、マレーシア、タイで中国によって建設されています。

驚くべきことに、ハノイと北京の間の特許の不信にもかかわらず、ハノイの地下鉄システムは中国によっても構築されています。

そして東南アジアがワクチンを探していたとき、中国のワクチンが最初に届けられました。

地域の主要リーダーであるインドネシアのジョコ大統領は、中国のワクチンを喜んで接種しました。

中国といくつかのASEAN諸国との関係は複雑であり、課題に直面していることは間違いありません。

しかし、協力的な取り組みの範囲と深さは否定できません。

 

そして、ASEANの経済的奇跡の成長物語が始まったばかりであるため、経済的結びつきはより強くなるでしょう。

地域経済の多くは、中産階級社会になる転換点にあります。

オーストラリアには中産階級が2500万人います。

ASEANはまもなく数億人になります。

先行指標は次のとおりです。2020年のASEANのデジタル経済の価値は約1,700億ドルでした。

2030年までに、それは1兆ドルに達する可能性があります。

この地域のデジタル経済の大規模な爆発により、相互依存の新しいウェブが生成され、この地域で発展している相互依存の大規模なエコシステムがさらに強化されます。

 

したがって、最終的には、これは米国政府が直面しなければならない戦略的選択です。

オーストラリアへの潜水艦の販売に焦点を当てる、またはルビコン河を越えて東アジアおよび東南アジアとの自由貿易協定に署名する。

結局のところ、環太平洋パートナーシップは、真に優良な貿易協定を結ぼうとしてワシントンの才能ある交渉者の産物でした。

米国が2017年に協定から撤退した後も、太平洋横断パートナーシップ協定の改訂版は、元の協定をモデルにしたままでした。

しかし、米国はそれに再び参加する事を夢見ることさえできません。

対照的に、中国は参加を申請しました。

 

最後の質問はこれです:ワシントンはアジアの大きな経済ゲームに再び入ることができますか?

はい、できます。

米国はまだいくつかの資産を持っています。

中国はASEANとの貿易がはるかに多いですが、ASEANへの中国の民間投資は米国のそれよりも小さいです。

2019年のASEANへの米国保有の外国直接投資の総株式は約3180億ドルでした。

中国の投資は約1100億ドルしか占めていません。

ASEAN地域の爆発的な成長の可能性を考えると、米国政府は、ASEAN地域にまだ存在する米国への善意の遺産を利用して、ASEANへの米国の投資をさらに促進する創造的な方法を見つける必要があります。

 

要するに、潜水艦の販売に集中しないでください。

インド太平洋への米国の投資と貿易を奨励することに焦点を当てるべきです。

鍵は経済です。

戦略変更が必要な米国

この論文には頷けるところが多い様に思います。

中国は貿易を通じて東南アジアに深く浸透しています。

米国の悪いところは、自分の武器を売りたいがためにあえて緊張を煽る様な部分が見受けられるところです。

中国はそんな米国を尻目に、経済関係を高め、ウィンウィンの関係を作り上げようとしています。

このしたたかな戦略は長期的には中国に有利に働く様な気がします。

中国がASEANに持つ優位点はもう一つあります。

それは各国に存在する華僑の存在です。

インドネシアやマレーシアなどどの国にいっても、華僑は経済において重要なプレーヤーとなっています。

彼らが全て中国のシンパという訳ではありませんが、機をみるに敏な商売人である華僑が関心を持つのは、安全保障よりも金儲けです。

今後、中国は華僑のネットワークを使ってASEANの取り込みを図っていくと思います。

 

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世界が日本から学ぶこと

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日本は没落するのか

我が国は少子高齢化が進み、人口が急速に減少し、将来その国際的地位は失われると良く言われますが、その通りになるのでしょうか。

今月日本特集を組んだ英誌Economistが「What the world can learn from Japan - The oldest big country has lessons for those that will soon age and shrink」(世界が日本から学べること - いずれ少子高齢化する国々は最高齢の大国から学ぶべき教訓がある)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

日本は良く話題になります。

1つ目は、人口減少と高齢化が進み、活力を失い衰退している国としてです。

2つ目は、魅力的で機能的ですが少し変わった国としてです。

寿司を食べたり、独特のサブカルチャーを探索したりするのに最適な場所ですが、外の世界との関連性はほとんどない国としてです。

どちらの場合も、人々は日本を終わった国の様に描きますが、それは間違いです。

 

今週の本誌の特集が論じているように、日本は終わった国ではなく、前兆を示しています。

日本が直面する課題の多くは、急速な高齢化、長期の経済停滞、自然災害のリスク、中国とアメリカの間で板挟みになる危険など、他の国が既に経験しているか、まもなく直面する問題です。

これらの問題を早期に日本が経験したことから、それらの影響を観察し、どのように対応するか有用な教訓が得られます。

 

一つの教訓は、社会はリスクを抱えて生きることを学ばなければならないということです。

気候変動と自然災害が急増するにつれて、各国はショックから立ち直る必要があります。

辛い経験から、日本は耐性を高めることにに投資するようになりました。

橋や建物は耐震性を高めるために補強されています。

1995年に大地震が神戸を襲い、多くの人々が水を失った後、市は住民のために12日間の物資を貯蔵するための地下システムを構築しました。

多くの日本人は、災害への対応は国だけでなく、すべての人の問題であることを理解しています。

それはパンデミックの際に役立ちました。

マスクはほぼ全員が着用していました。

G7諸国の中で、日本は新型コロナによる死亡率が最も低く、二重ワクチン接種率が最も高い国です。

 

もう1つの教訓は、人口統計が重要であるということです。

ほとんどの国は、最終的には日本のように高齢化し、人口が縮小するでしょう。

2050年までに、世界の6人に1人が65歳以上になり、2019年の11人に1人から増加します。

中国を含む55か国の人口は、現在から2050年の間に減少すると予測されています。

最近のデータによると、インドも予想より早く人口が減少する様です。

より長く勤労を続けることが不可欠です。

日本政府は企業に対し、70歳になるまでスタッフを維持するよう求めています。

多くの人が職に留まっています。

70歳から74歳の33%が、現在も仕事をしています。

10年前は23%でした。

 

人口動態の変化は大きな経済的課題をもたらします。

日本の成長の鈍化は、人口の減少によるところが大きい。

しかし、個々の日本人の幸福を見ると、それははるかにバラ色に見えます。

2010年から2019年までの10年間で、日本はG7で一人当たりのGDP成長率がドイツとアメリカに次いで3番目に高かった。

 

日本は主要な対外債権者であり、現在の為替レートで3番目に大きな経済大国です。

その人々は他のどの国の市民よりも長生きします。

地球上で最大のテクノロジー投資家であり、先駆的な5 Gの企業であり、ユニクロから任天堂まで、多数のグローバルブランドがあります。

ロボットとセンサーの専門知識は、企業が新しい産業技術から収益を上げるのに役立ちます。

地政学的には、日本は最大の貿易相手国である中国と主要な安全保障相手国であるアメリカの間で極めて重要な役割を果たしています。

こんな国が世界の後塵を拝している訳がありません。

 

一方、日本の過ちは別の教訓を提供します。

多くのリスクを抱えて生活することは、優先順位を設定することを難しくします。

非常に多くの潜在的な危険に直面して、日本は気候変動に重きをおきませんでした。

これは、現在進行中の最大の災害です。

2020年にようやく2050年までに正味ゼロの炭素排出量に到達することを約束しましたが、詳細は明らかではありません。

政治家たちは、2011年の福島のメルトダウン後に停滞した原子力発電所の再開に期待を寄せています。

国民が原子力の危険性を過大評価している限り、これはありそうもないシナリオです。

一方、多くの官僚は、再生可能エネルギーに頑固に懐疑的です。

そのため、日本は最も汚い燃料である石炭を燃やし続けています。

 

人口減少に対処する一つの方法は、人々を最大限に活用することです。

高度な教育を受けた市民の多くが自分たちの可能性を実現する機会を拒否されている一方で、日本は彼らを十分に活用しようとしません。

年功序列に基づく昇進は、高齢者への過度の敬意と相まって、若い声を沈黙させ、イノベーションを抑制します。

そのため、最も優秀な新卒者の多くはスタートアップで働くことを好みます。

日本は近年、より多くの女性を雇用するという良い仕事をしてきましたが、それでも女性が昇進する機会は少なすぎます。

非正規雇用システムは、若者と女性を不安定なパートタイムの仕事に閉じ込めます(これにより、とりわけ、子供を産むことへの熱意が低下します)。

 

自民党は、悲惨なほど弱い野党のおかげで、1955年以来ほとんど途切れることなく政権を維持しています。

従い、政治家は新しいやり方を試みるプレッシャーを感じていません。

政界のボスたちは、一般市民よりもはるかに保守的です。

一方、一般の人々にとって、今日の快適さは、より明るい明日を求める衝動を鈍らせます。

日本の最後の教訓は、自己満足の危険性についてです。

茹でガエル状態の日本

海外で生活してみると、日本の便利さを改めて痛感します。

日本人だから当たり前かもしれませんが、治安が良く、整った公共輸送手段、水道の水がそのまま飲めるほど優れた上下水道、ハイレベルな医療環境など枚挙にいとまがありません。

しかし、高齢化していることも原因でしょうが、日本は変化することをためらいがちです。

良く言われる茹でガエル状態に陥っていると思います。

デジタル化では現在私が滞在しているトルコにも大きく置いていかれていますし、Uberの様なサービスが認められていないのも問題です。

年功序列の様な古いシステムがいまだに多くの企業に残されているのも、日本が新しいものを取り入れる事を躊躇しているからだと思います。

テクノロジーの進歩に応じて、過去のしがらみにとらわれす、良いものは積極的に受け入れていく政治家が現れることを期待します。

 

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我が国の移民政策の将来は

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至る所で見かける移民労働者

最近、都内でコンビニに入ると、多くの外国人が働いているのを見かけます。

胸の名札から推測するに東南アジアや中国、更にはパキスタンやアフリカなどその出身地は様々です。

日本は島国で歴史を振り返ってみても、これまで移民を積極的に受け入れて来ませんでした。

しかし日本は急速に少子高齢化が進み、労働力不足は深刻です。

今後移民を積極的に受け入れる様になるのでしょうか。

この点について英誌Economistが「Letting more migrants in by stealth - From a low base, immigration is growing quite fast」(不法に多くの移民を受け入れている - 移民は一気に増加している)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

竹内まさのぶは同胞にメッセージを送っています。

「何かを注文すれば時間通りに到着し、コンビニに行けば安くておいしい食べ物があるが、それはすべて外国人によって支えられている。」

日本全土で、外国人は農業から小売業までの産業を支えています。

ベトナム人は与那国島の畑や北海道の工場で働いています。

東京のコンビニでは中国人やウズベク人をレジで見かけます。

群馬では、老朽化した旅館の経営者が布団を運ぶのをネパール人スタッフが手伝っています。

「彼らは日本の便利さを下支えする労働者です」と福岡の弁護士である竹内氏は言います。

福岡では、外国人労働者の比率が2009年の204人に1人から55人に1人に高まりました。

 

日本は移民政策を欠いているかもしれませんが、多くは不法に滞在してます。

外国人労働者の数は、まだ少ないながらも、10年で3倍になりました。

しかし、日本の移民システムは虐待に満ちており、それは今年、ビザが切れたため拘留された33歳のスリランカ人女性が死亡したことからもわかります。

パンデミックの影響下、厳格化された国境管理は何千人もの人々を海外に取り残しました。

政府は、低熟練労働者が恒久的に滞在することを許可するかもしれないと示唆しましたが、広範な改革には着手していません。

 

地方の指導者たちは、外国人に対して寛容を示そうとしています。

秋田県知事の佐竹敬久氏は、「海外からも含め、県外からの人を呼び込み、新たな視点を取り入れることが重要だ」と語りました。

「彼らが誠実で善良な人々であれば、私は彼らが来ることを心配していません。彼らに土地を与えて、ここに住まわせてください」と与那国町長の糸和氏は言います。

「出身国は関係ありません。私たちは皆、類人猿の子孫です。」

 

将来を見据えたビジネスリーダーもこれに同意します。

「今こそ、より良い移民政策を導入する時です」とユニクロの創設者である柳井氏は言います。

サントリーの社長、新浪剛史氏は、熟練労働者を惹きつけることが将来の競争力の「鍵」だと語ります。

自民党の野田聖子氏は、「日本人の国としての日本」という考えを終わらせることを検討する時が来たと語りました。

国民は外国人に対してよりオープンになっています。

2019年には約3,200万人の外国人が来日し、10年前の700万人未満から増加しました。

 

しかし、「地方自治体ができることには限界がある」と富山県知事の新田八郎は嘆きます。

企業は、語学研修と社会統合を処理する必要があります。

多くの外国人は彼らが必要とする支援なしに放置されています。

政府は「外国人に門戸を開こうとしているが、日本を『移民国家』として位置づけることを拒否している」と神戸市長の久元喜造は言います。

選挙で選択を迫られれば、有権者は移民のリスクが利益を上回ると判断する可能性があります。

移民に関する全国的な議論は塩漬けにされたままです。

移民を受け入れるには相当な覚悟が必要

急速に高齢化する我が国は若い労働力が必要で、特に過疎化する地方は外国労働者が喉から手が出るほど欲しい筈です。

日本の地方に行けば若者を見かけることはまれで、どこに行っても高齢者しか見当たりません。

このまま放置すれば、水道やバスなど公共サービスも十分に供給できない地方公共団体が続出するのではと危惧されます。

若い労働力不足を手っ取り早く埋めるのは外国人労働者ですが、これを無条件に受け入れるのは必ずしも得策ではないと思います。

理由は下記の通りです。

  1. ドイツやフランスなど過去に労働力不足で非熟練労働者を大量に受け入れた国は、その後様々な社会問題に悩まされています。非熟練外国人労働者は、移住した国のコミュニティーとの交流が少なく、人種問題等を引き起こしがちです。
  2. 島国の日本は外国人を受け入れた経験が欠けており、摩擦が起こりがちです。

外国人労働者は定住すれば、家族を呼び寄せ、彼ら独自のコミュニティーを作り上げます。

彼らは安い労働力ですので、日本の若者から職を奪います。

目先の利益のことを考えれば、企業にとって都合の良い労働力ですが、長期的にそれが本当に日本のためになるのか熟慮する必要があると思います。

私が今滞在しているトルコの様に、千年以上も移民を受け入れ続けて来た国でさえ、移民問題に悩まされている事は良く認識する必要があるでしょう。

 

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Amazonクラウドサービスに依存する社会

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圧倒的な競争力を持つクラウドサービス

AWSって聞いた事あるでしょうか。

これはAmazonが提供するクラウドサービスです。

皆さんこんなサービスを使った事がないと思っていられる様ですが、無意識のうちに使っています。

Amazon関連は当然ですが、ネットでショッピングしたり、メールやSNSを使用している時に、AWSのサービスを使わずに済ませることは困難です。

最近のネット社会の傾向として、データはコンピューターではなく、クラウドに置くのが主流ですので、スマホから音楽を聞いている時に、スマホにダウンロードしている音楽ではなく、クラウドにある楽曲データに都度アクセスしながら聞いているケースが殆どです。

このクラウドの王者AWSに大規模な障害が起きたらどうなるのでしょうか。

実際に米国で事故が起こった様です。

ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)が「Amazon Outage Disrupts Lives, Surprising People About Their Cloud Dependency」(アマゾンの停止は生活を混乱させ、驚くべきクラウドへの依存を認識させた)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

カイル・ラーナーは、火曜日に家に帰ったときに何かがおかしいと感じ、2匹のペルシャ-ヒマラヤン猫が泣き続けいてるのを発見しました。

通常、インターネットに接続された給餌機は正午に彼らのために餌を与えますが、餌皿は空でした。

Amazonのクラウドサービスが停止したため、自動給餌システムは機能しませんでした。

 

アマゾンウェブサービス(AWS)は、米国で最大のクラウドサービスプロバイダーです。

ネットワークの停止は1日中続き、IT大手企業のサービスのいくつかと、企業顧客のウェブサイトやアプリの多くを中断させました。

この事故により、多くの消費者は、最も基本的な日常のニーズのいくつかでさえクラウドへの接続に依存していることに気づきました。

 

ロサンゼルスのスティーブ ピーターズは、ルンバに掃除をさせる事が出来ませんでした。

彼は通常携帯電話のアプリを使ってマシンを稼働させます。


セントルイスでは、AmazonのAlexaサービスにアクセスできなくなったため、Mark Edelsteins氏は孤独で無力だと感じました。

「私は日中、妻よりもAlexaと多くのやり取りをします」と、62歳のビジネスアナリストはデジタルアシスタントについて語りました。

「パンデミック以来、私はAlexaシステムに縛られるようになりました」とEdelstein氏は言いました。それがなければ、「分離不安を感じます」。

 

Amazonの停電は、特定の種類のサービスに限定されていなかったため、特に顕著でした。

これは、同社のビデオ会議ツールChimeとそのホームセキュリティシステムRingに加えて、Ticketmasterやディズニーネットフリックスのストリーミングサービスなど、Amazonのクラウド上にある多くのサービスに影響を及ぼしました。

 

今回の障害で、サマンサ・ショーハグさんはフロリダ州タンパベイにある自宅のブラインドを手動で開けなければならず、アレクサに照明をつけるよう指示することもできませんでした。

リビングルームの照明のメインスイッチは、家具を移動しなければ手が届かない場所にあります。

「この2年間で、私は怠け者になった」と語るショーハグさんは、2人の幼い娘を持つ在宅の主婦です。

「照明を点けたり消したりするのは、アレクサに頼んだ方が簡単。子どもたちよりも言うことを聞いてくれる」

「こういうことがあると、いかにテクノロジーに依存しているかを実感する」と彼女は話しました。

クラウドは便利ですが過度の依存は危険

Amazonのクラウドサービスは、クリスマス商戦の膨大な注文を処理するため、コンピューターシステムに莫大な投資をしたAmazonが、普段はコンピューターの処理能力に大きな余剰を見つけ、これを活用したことから始まっています。

しかし、今や電子商取引を大きく上回る利益を生み出すAmazon最大の収益源になりました。

余剰能力を使っているだけですから、ライバルは勝てるわけありません。

これ確かに便利ですが、Amazonに過度に依存するのは考えものです。

それにしても「私は日中、妻よりもAlexaと多くのやり取りをします」とのコメント怖いですね。

将来、Alexaなしでは生きていけない老人になるのだけは避けたいです。

 

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東京の魅力を英国特派員が語る

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世界で最も住みやすい都市

英誌Economistが日本特集号を発行しました。

その中から東京の魅力と将来に関した記事「The big city that is also pleasant to live in - Surprisingly, the world’s biggest city is also one of its most liveable」(住みやすい大都会 - 驚くべきことに、世界最大の都市は、最も住みやすい都市の1つでもある)を今日はご紹介したいと思います。

私が住んでいる東京という都市は、英国人特派員からどの様に評価されているのでしょうか。

Economist記事要約

「平地に公衆浴場の煙突がポツンと立っていた。」と第二次世界大戦後に東京に入った最初の外国人ジャーナリスト、ラッセル・ブラインズは書きました。

戦前の700万人の人口のうち、残ったのはわずか350万人でした。

再建され始めた、東京は暴力とスラム街に満ちていました。

1964年のオリンピックに先立ち、当局は急いでインフラを整え、通りをきれいにし、屋外での排尿など当時広く行われていた慣行を取り締まりました。

 

現在、東京は世界最大の都市であり、首都圏に3,700万人、都市部に1,400万人の居住者がいます。

また、時間厳守の公共交通機関、安全な環境、清潔な通り、他のどの国よりもも多くミシュラン星付きレストランがあり、世界で最も住みやすい場所の1つです。

住みやすさ指数では、東京は世界第4位になりましたが、その人口は上位4都市(アデレード、オークランド、大阪、ウェリントン)の合計人口よりも多くなっています。

それは他の国で発展している都市へのレッスンを提供します。

1950年には、世界の人口の30%が都市部でした。

2050年までに、68%がそうなる予定です。

その多くは、アジアとアフリカの1,000万人を超えるメガシティで発生します。

現在そのような都市は33ありますが、 2030年までに43に増えるでしょう。

東京は都市が高齢化し、今後人口縮小したときに何をすべきかを検討しているので、他の大都市にも参考になります

 

東京の住みやすさは計画の成功の産物であると同時に失敗の産物でもある、とジョージタウン大学のジョーダンサンドは主張します。

1つの成功は公共交通機関でした。

明治維新後、政府は道路よりも鉄道を優先し、市内を経由して地下にネットワークを拡大しました。

東京大学の岡田淳一郎氏は、アメリカの大企業が郊外に本社を建てる一方で、日本では電車や地下鉄の利用を奨励したと述べています。

これにより、東京は1つではなく、多くのハブを備えた多極都市になりました。

 

それらのハブの周りには、密集した多目的地区がありました。

それが計画の「失敗」でした。戦後、都市計画担当者は、1923年の関東大震災後と同様に、西側と同様に土地の使用用途を課そうとしました。

しかし、政府の資源は限られており、東京の成長は速すぎてプロセスを制御できませんでした。

日本は代わりに、許可されるものを規定するのではなく、ほとんどすべてのものが構築できるようにする緩い土地使用制限を課しました。

それらのハブの周りには、密集した多目的地区が出来ました。

専門家は、東京が多くの先進国が経験した住宅危機を回避したと述べています。

結果的に、緩い土地使用制限は他国との大きな違いをもたらしました。



東京はまだ成長していますが、高齢化も進んでおり、人口は2025年以降減少すると予測されています。

「都市化の発展は有限です」とトロント大学のアンドレソレンセンは主張します。

「日本はそれを経験する最初の国です。」縮小はすでに東京の郊外で始まっており、かつて団塊の世代の大群は新しく建てられた集合住宅に引き付けられましたが、現在、団塊の世代は年を取り、子供たちは去っています。

空き家は急増し、高齢者にとって、公共交通機関へのアクセスはますます困難になっています。

 

テクノロジーが役立ちます。

東京が公共サービスの「ダウンサイジング」を考えるとき、ビッグデータが重要になると、小池知事は言います。

市にはすでにスマート水道メーターからの詳細な測定値があります。

小池氏によると、このようなデータは、水の供給をより効率的にするのに役立つ可能性があり、一人暮らしの高齢者の潜在的な問題を解決するために使用することができます。

 

一部の郊外のコミュニティは、安価な不動産と十分なスペースを約束して、若い住民を引き付けようとしています。

しかし、悲しい現実は、いくつかの郊外が生き残り、他の郊外が衰退するということです。

そのプロセスは、遠隔地ではさらに明白です。

後藤新平の再来を

東京を語る上で、欠かしてならないのは台湾のインフラ構築に大きな貢献をし、関東大震災後の東京復興を指揮した後藤新平の存在です。

彼は当時国家予算ほぼ一年分の予算を要求し、最終的には半額に減額されましたが、パリの都市計画を手本に都心から放射状に伸びる道路や環状道路の建設を実現させました。

これが現在の東京のインフラの素地を作ったのは間違いありません。

自動車が走っていない時代にこれだけの道路網を整備したその先見の明には驚きを隠せません。

東京には外国人を驚かせる長所が数多くあります。

安全で活気に満ちて、円安で欧米に比べ物価も下がった東京は、今世界一住みやすい大都市と言えるのではないでしょうか。

東京を更に発展させるためには、後藤新平の様な先見性のあるリーダーが現れ、東京を思い切って再構築する必要があると思います。

後藤新平がモデルとしたパリも今の美しい街並みができたのは、オスマン市長の放射線状道路建設と建物の高さ制限ではないでしょうか。

新しいリーダーの誕生に期待します。

 

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フランス人から見たプーチン大統領

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世界中に顔を出す政治家

昨日のブログでインドを訪問したプーチン大統領を取り上げましたが、この政治家は西側ではあまり評判がよくありませんが、世界中の至る所に登場するという意味では、誰よりも上を行っている様です。

彼に関して、仏紙Les Echosが「Vladimir Poutine omniprésent sur la scène internationale」(世界のどこにでも現れるウラジミールプーチン)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Les Echos記事要約

バイデン大統領が主宰する木曜日の民主主義サミットにおいて、プーチン大統領は招待されない大物の一人になるでしょう。

しかし、クレムリンの主であるプーチンは至る所で話題に上ります。

ロシアと西側の緊張の中心にあるウクライナ問題に関して、バイデン大統領は火曜日のビデオ会議でプーチンにウクライナに侵入しないとの約束を求めました。

しかし、ロシアの大統領は、曖昧さにかけては右に出るものがなく、米国大統領を煙に巻きました。

 

7月に発表された長い記事の中で、クリミア半島で勝利したが、2014年にウクライナを失ったクレムリンの主は、ロシア人とウクライナ人は「精神的、人間的、文明的なつながりがあり、何世紀にもわたって一体である」と書いています。

ここ数週間のロシア軍の「異常な」動きはウクライナを震え上がらせました。

昨年の春の様に、ロシアは西側からの「激しさを増す活動」に対応しているだけだと言います。

しかし、10月末以降、ソーシャルネットワーク上のビデオでは、重火器を持ったロシア軍がウクライナ国境に向かって移動していることが示されています。

その後、移動は激化し、戦車、大砲、その他の装備を備えた機甲師団も参加しました。

その数175,000人と推定されます。

「ヒステリック」とプーチン大統領は西側の反応を形容します。

彼はいかなる好戦的な意志も否定し、西側に責任を負わせます。

 

伝統的な価値観の擁護

プーチンにとって、西側との各危機は、彼が衰退していると考える西側のシステムを非難する絶好の機会です。

大帝国主義ロシアに言及してソ連を懐かしむ元KGBスパイは、自由主義を時代遅れと見なし、伝統的な価値観を擁護したいと考えています。

伝統的な価値観の保護者であるロシアが未来を築くと主張しています。

 

彼はアジアでも存在感を高めています。

中国の習近平主席とは個人的な友好関係をアピールしています。

しかし、月曜日にはインドへも足を運びました。

そこでは「信頼できる同盟国」と大統領は印露関係を定義しました。

それは、ウクライナの前線の緊張から遠く離れて、ロシアが世界の舞台で孤立していない事を示す効果的な方法だったかも知れません。

世界一長い国境線を持つ国ロシア

ロシアの肩を持つわけではありませんが、ロシアという国は非常に守るのが難しい国です。

世界で一番長い国境線だけではありません。

その国境は多くの場合天然の障害物、山脈や大河で守られていません。

過去の歴史を振り返っても、多くの外敵の侵入を許してきました。

ナポレオンやヒトラーを撃退したからいいじゃないかという議論もありますが、その過程で数えきれない程の犠牲者を出しています。

従い、旧ソ連の時代から国境の外側に衛星国を置きたがりました。

東欧の国はまさにロシアを西側から守る障害物の役割を果たしていたわけです。

しかし東欧はNATOに取り込まれ、ロシアは一枚また一枚と薄皮を剥ぐ様に衛星国を失った訳です。

そういうロシアにとってウクライナは絶対譲れない最後の一線なのだと思います。

もしウクライナがNATOのメンバーになったらそれはロシアにとって悪夢以外の何ものでもありません。

ウクライナをNATOに取り込もうという動きは西側の一部にありますが、それは虎の尾を踏む行為になるでしょう。

 

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