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ブレグジットによって英国が直面する意外な問題

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交渉期限が迫るブレグジット

ブレグジットの交渉はかなり難航している様です。

来年1月1日に予定されるブレグジットまでに交渉がまとまらなければ、税関での物資の停滞など大きな混乱が予想されます。

世界の金融街であるシティも大きな影響が予想されています。

英国にとって金融業は年間18兆円もの売り上げをもたらす主要産業ですから、英国経済に激震が走ると言っても良いでしょう。

影響は金融業に止まりません。他の産業においても懸念が広がっている様です。

この点について英誌Economistが「What a grand chemistry experiment reveals about Brexit」化学分野の壮大な実験がブレグジットについて明らかにする事)と題して記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

アンドリュー クラーク氏は、業界では「黄色13」として知られている卵黄色のインクのレシピを厳重に保管しています。

しかし、プロセスは単純です。

粉末状の顔料は、溶剤など海外から輸入された多くの物質と混合され、光沢のある製品になります。

ヨークシャーにある彼の工場は、コーティングの特注注文を専門としています。

1月1日に完全に発効するブレグジットはクラーク氏を憂慮させています。

欧州の化学品市場は細分化されています。

彼は、コーティングに独特の品質を与える物質が英国市場から徐々に消え、劣った代替品に依存せざるを得ないではないかと恐れています。

「EUの競合他社は、顧客の目にははるかに優れている最先端の原材料を使用する可能性があります」と彼は語ります。

ジョンソン首相は、化学物質を含む全ての商品の関税を撤廃する貿易協定を望んでいます。

しかし、彼がこれを手に入れたとしても、EUを離れることから生じる頭痛を和らげることはできません。

EUの規制システムから離脱することを約束したブレグジットは、代わりにテムズ川河畔にブリュッセル(EU本部)のミニチュアを複製します。

化学会社、外国の航空会社、弁護士、インターネット会社など、英国でビジネスを続けたいと思うなら、すべてが新たな負担に直面するでしょう。

 

根本的に大きな誤解があります。

EU離脱派は、EUの単一市場は単なるルールブックであり、英国は単にそれらの規則を国内法にコピーすれば良いと考えます。

しかし、単一市場であるEUは規則を定め、その執行を監視するエコシステムとしてよく考えられています。

各国政府はEU本部に依存すれば、不要な監視を行う必要がなく、商品やサービスは国境を越えて自由に流通します。

 

化学物質を管理するEUのシステムであるREACHは、特に厳格です。

ヨーロッパで化学品を販売する企業は、製品がどのように製造されたかを詳述した膨大な書類を提出し、問題が発生した場合に備えて、代理人を任命する必要があります。

このシステムは、600人のスタッフと1億ユーロ(120億円)以上の予算を持つヘルシンキの欧州化学機関(ECHA)によって監督されています。

その施行は、リバプールに本拠を置く英国の健康安全局(HSE)などの国家機関のネットワークによって行われます。

その結果、膨大な情報データベースに支えられた、クラーク氏と彼の競合各社が選択できる23,000の化学物質の自由流通プールが生まれました。

ジョンソン氏の前任者であるメイ前首相は、離脱から得られるものはほとんどない事を確信して、REACHに残留する様求めました。

しかし、これは「チェリーピッキング(いいとこ取り)」と呼ばれ、EUに拒否されました。

そのため、英国は「UK REACH」という名称で、国内で同様の体制を再現しようとしています。

最も難しい作業は、ECHAのデータベースを複製することです。

英国閣僚は当初、単にコピーして貼り付けることができると主張しました。

しかし、それは商業的に敏感な知的財産であふれており、EUはこれまで、化学物質データ共有を求める英国の要求を拒否してきました。

代わりに、英国政府はクラーク氏のサプライヤーにデータを提出するよう要求します。

しかし、多くの書類は多国間の企業コンソーシアムによって作成されており、フランスの企業が英国のライバルを救済する理由はほとんどありません。

ドイツの大手化学会社であるBASFは、UK REACHに登録すると、7,000万ポンド(94億円)の費用がかかると考えています。

大陸のサプライヤーが利用するある英国の流通業者は、英国に輸入したすべての物質に関するデータを提出しなければならない場合、年間売上高1,500万ポンドで、登録料として100万ポンドが必要と試算し、「一週間で破産するでしょう。」と語りました。

これだけ高い登録料がかかるとなると、製造業者は少量の製品の登録は不可能であると結論付け、その物質が英国市場で流通しなくなります。

結果として、組立ラインの様な様々な物質を取り揃える必要があるビジネスにとって、英国は魅力的でなくなるでしょう。

ブレグジットが当初約束した事は、英国が独自に規制を決められる様になり、必要に応じてEUよりも機敏にまたは厳格に行動することでした。

しかし現実はそうではありません。

ブレグジット後の英国の将来

Economistの記事を読んでいると、英国の将来が心配になってきます。

ここに書かれている問題は氷山の一角で、様々な業界で難問が続出する事でしょう。

英国人は、あまり原理原則にとらわれず、結果さえ良ければ過程についてはうるさくない国民だと言われています。

良く「ウィンブルドン現象」と言われますが、英国の選手が何十年も勝利していないテニス大会の運営を嬉々として続けています。

彼らにしてみれば、自国の選手が勝たなくても、世界中の有名選手が集まり、英国にお金が落ちればいいんだという割り切りがあります。

そんな英国がEU離脱を決めたのは、意外な結果でした。

ブレグジットを決めた国民投票の際の離脱派のスローガンは「Take back control」でした。それだけEU本部(ブリュッセル)の官僚にコントロールされるのが嫌だったのでしょう。

ブレグジットは英国経済に当面マイナスの影響をもたらすと思いますが、このまま英国がおめおめと引き下がる事はないと思います。

注目されるのは移民政策です。

これまでは、EU内の優秀な若い人材(特に中東欧から)がロンドンに集まってきていました。今後も世界中から優秀な人材が集まる様であれば、英国は安泰と思います。

英国には、まだ「英語」と「優れた高等教育機関」という切り札があります。

 

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インドの感染症と戦ったユダヤ系ロシア人科学者の一生

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知られざる科学者の一生

現在、世界各地でワクチンが開発されていますが、病原菌を体内に接種することによって抗体を生じさせるという、リスクを伴う治療法を最初に開発した人たちの苦労は並大抵のものでははなかったと思います。

ワクチン黎明期の科学者としては、種痘を発明した英国ジェンナーやフランスのパスツールが有名ですが、今のウクライナ(当時ロシア帝国)で生まれたWaldemar Haffkineもその一人です。彼の一生について、英BBCが「Waldemar Haffkine: The vaccine pioneer the world forgot」(ウラジミール ハフキン - 忘れ去られたワクチンのパイオニア)と題して記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

BBC記事要旨

1884年にハフキンがオデッサ大学を動物学の学位で卒業したとき、彼はユダヤ人だったので、教授職に就くことを禁じられました。

1888年、ハフキンは母国を離れ、パリに行き、パスツール研究所(世界有数の細菌学研究センター)で働き始めました。

パスツールとジェンナーの研究に基づいて、ハフキンは、コレラ菌をモルモットの体内で培養する事に成功しました。

1892年7月18日、ハフキンは弱毒化したコレラ菌を自らに注射し、命を危険にさらしました。

彼は数日間熱を出しましたが、完全に回復し、3人のロシア人の友人と他の数人のボランティアに接種しました。

この成功の後、33歳になったハフキンはインドのカルカッタに赴きました。

そこで彼が直面したのは、当時インドを統治していた英国の保守的な医療機関とインド民衆のワクチンに対する抵抗、偏見に直面しました。

当時、ワクチン接種を受けるよう人々を説得することは、口で言うほど簡単ではありませんでした。

ハフキンは、ワクチンを接種する人を増やすために新しい取り組みを行いました。

彼は安全であることを示すために、民衆の目前で自身に注射したのです。

「最初抵抗していた人々がハフキンのコレラワクチンのためにカルカッタのスラムに列を作り始め、一日中列に並んだということです」とマンチェスター大学のチャクラバルティ教授は語ります。

 

コレラワクチンの接種が軌道に乗り掛かっていた頃、インドでは更に重大な感染症が広がり始めていました。

世界で3番目のペストの大流行は、1894年に中国の雲南省で始まり、香港から英国支配下のインドに広がりました。

当初、英国政府は問題の深刻さを軽視し、ボンベイを開放し続けました。

しかし、死者の数は急増し、知事はハフキンに助けを求めました

彼はそこでたった4人の助手とともに、世界初のペストワクチンをゼロから開発する任務を負いました。

1897年1月10日、ハフキンは10ccの製剤を自らに注射しました。

彼はひどい熱を経験しましたが、数日後に回復しました。

その後、1年以内に、何十万人もの人々がハフキンのワクチンを接種され、莫大な数の命が救われました。

彼はビクトリア女王に騎士として任じられ、大きな施設の所長に任命されました。

 

しかし、その後、大きな問題が発生しました。

1902年3月、パンジャブ州マルコワル村で、ハフキンのワクチンを接種された後、19人が破傷風で亡くなりました。

インド政府委員会が調査を行い、ハフキンがペストワクチンの殺菌手順を変更し、生産を速めたため、カルボリック酸の代わりに熱を使用したことを発見しました。

1903年に委員会は、ボトル53Nがハフキンの研究室で汚染されたに違いないと結論付け、ハフキンを解雇しました。

ハフキンが解雇されてから2年後の1904年、ペストはインドでピークに達し、その年に1,143,993人が死亡しました。

マルコワル事件から4年後の1906年、インド政府はハフキンを有罪と認定する調査結果を発表しました。

キングスカレッジの教授であるWJシンプソンは、このインド政府の判断に疑義を呈しました。

シンプソンはボトル53Nを開いた助手が鉗子を地面に落とし、ボトルのコルクストッパーを取り外す前に鉗子を適切に滅菌できなかったことを明らかにしました。

シンプソンらの運動がイギリス議会で問題を提起した後、ハフキンはついに1907年11月に免罪されました。

ハフキンは喜んでカルカッタ生物学研究所の所長として戻りましたが、彼の名誉回復は不完全でした。

彼は実験を行うことを禁じられ、理論的研究に限定されました。

彼は失意の内に、インドを去る事になりました。

1897年から1925年の間に、2600万回分のハフキンの抗ペストワクチンがボンベイからインド各地に送られました。

彼が救った命の数は膨大だと言われています。

得られる教訓

ユダヤ系のロシア人がパリで細菌学を極め、インドでワクチンによって多くの人を救ったこの話、私も寡聞にして知りませんでした。

この実話から幾つか教訓が得られると思います。

ハフキン氏はインド政府から大至急製造して欲しいとの要請を受けて、製造過程のスピードアップのためプロセスを変更している。

今回の新型コロナも例外的なスピードでワクチン開発が進んでいますので、スピードアップの為の製造プロセスの変更が重篤な副作用をもたらす事が懸念されます。

副作用が出た場合に、ワクチン接種を中止するのか継続するのか判断が難しい。

インドの場合、破傷風による死亡事故の後、ペストワクチンの接種を中止した訳ですが、そのため2年後にペストの犠牲者はピークを迎え、100万人以上の人が亡くなっています。

副作用のマイナスとワクチン接種を中止した場合のマイナスを天秤にかけて判断する必要があります。

ハフキン氏はワクチンに対する大衆の不安を払拭するため、自ら接種している。

集団免疫を実現するには大多数の国民が接種する必要があります。

国民に接種しろと勧めておいて、自分は打たないという選択肢はありえません。国のリーダーが率先して接種を受ける必要があるでしょう。

 

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サウジアラビアが自ら掘った墓穴

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サウジアラビアが自ら引き起こした難題の数々

UAEやバーレーンと言った湾岸諸国が相次いでイスラエルと国交を正常化させました。

サウジアラビアの動向が注目を集めていましたが、彼らは当面イスラエルとの国交正常化を行わない様です。

どうもサウジはそ国内外に大きな問題を抱え、それどころではなさそうです。

同国が直面する問題に関して、英BBCが「Saudi Arabia: Three campaigns MBS cannot win」(サウジアラビア:モハメッド ビン サルマン王子が勝利を収めることができない三つの戦い)と題して、記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

BBC記事要約

サウジアラビアの指導者、特にモハメッド ビン サルマン王子(MBS)にとって、最近憂鬱な日々が続いています。

 国内では彼は人気を保っていますが、国際的には、2018年にサウジアラビアのジャーナリストであるジャマル カショギ氏の殺害事件における彼の役割について、疑惑を払拭できていません。

 そして、次期大統領のバイデン氏は、サウジアラビアに対して前任者よりもはるかに厳しい立場を取ることを明らかにしました。

 では、危機に瀕している問題は何でしょうか。

 

イエメン内戦

この内戦は関係するすべての人にとって災いでしたが、何よりもイエメン自身の貧しい人々にとって大惨事でした。

この紛争を開始したのはサウジアラビアではありませんでした。

北部の山岳地帯に住む部族であるフーシが2014年後半に首都サナアに突入し、合法的な政府を倒したときに紛争が開始されました。

2015年3月、MBSはサウジ国防相として、密かにアラブ諸国の連合を結成し、フーシを数か月以内に降伏させるべく、大規模な空軍力で戦争に参加しました。

ほぼ6年後、数千人が殺害され、双方が戦争犯罪を犯しましたが、サウジ主導の連合は、イエメンからフーシを追い出すことができませんでした。

イランの助けを借りて、フーシはますます正確なミサイルと爆撃型ドローンをサウジアラビアに送り、遠く離れた石油施設を攻撃しました。

イエメン人を殺し、サウジの財源を悪化させているこの内戦に対して、国際的な批判が高まっています。

サウジは、イランに支援されているイエメンの武装民兵を受け入れることはできないと主張していますが、サウジに取って残された時間はありません

トランプ大統領は、サウジが要求したすべての援助を与えましたが、バイデン政権は、サウジへの援助が続行される可能性は低いと指摘しています。

 

投獄された女性活動家達

これはサウジアラビアの指導者にとって国際広報面での大失敗でした。

13人のサウジアラビアの平和的女性活動家が、運転する権利や、男性が保護されたひどく不公平なシステムを終わらせると要求したため、収監され、恐ろしく虐待されました。

最も著名な囚人であるハスルール女史をらは、女性の運転禁止が解除される直前の2018年に逮捕されました。

サウジ当局は、ハズルール女史がスパイ行為と「外国勢力から金を受け取った」罪で有罪であると主張しているが、証拠を提出していません。

彼女の家族は、彼女が拘禁中に殴打され、電気ショックを受け、レイプの脅迫を受けたこと、そして最後に彼女を見たとき、彼女は手に負えないほど震えていたと報告しています。

イエメン戦争と同じように、これはサウジ当局が自ら掘った墓穴であり、現在、メンツを潰さずに問題を解決する方法を模索しています。

一つの有力方法は「大赦」です。

この方法が、バイデン政権によって提起されることを期待しましょう。

 

カタールに対するボイコット

この問題は舞台裏で、クウェート調停によって解決されるでしょうが、表面上は、問題はさらに深刻になります。

2017年、トランプ大統領がリヤドを訪問してから数日以内に、サウジアラビアはアラブ首長国連邦、バーレーン、エジプトと協力して、湾岸の隣国であるカタールにボイコットを課しました。

その理由は、カタールがイスラム教徒グループを容認できないほど支援し、テロに相当するためだと彼らは主張しました。

イエメンのフーシと同様に、カタールが簡単に崩壊し、最終的に降伏するという見当違いの予想がありました。

カタールは巨大なオフショアガス田にあり、英国だけで400億ポンド(5兆5千億円)以上も投資しており、トルコとイランからの支援もあります。

両国の対立は、、近年、中東で深刻な亀裂が発生しているということです。

一方には、これら3つの保守的なスンニ派湾岸アラブ君主制サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン)とその同盟国であるエジプトがあります。

 反対側には、トルコ、カタールと、ムスリム同胞団やガザのハマスなど、様々な政治的イスラム主義運動があります。

カタールに対する3年半にわたるボイコットが、双方に経済的および政治的損害を与えてきたことは疑いの余地がありません。

それはまた、湾岸アラブの指導者たちがイランの核開発について心配している時に、湾岸アラブの連帯を大きく傷つけました

バイデン政権はこの問題が解決されることを望んでいるでしょう。 何故なら、カタールには国防総省最大の海外拠点であるアルウダイド基地があります。

カタールが隣人を許すには何年もかかり、彼らが再びカタールを信頼するには何年もかかるでしょう。

サウジが恐れるムスリム同胞団

上記の記事の中で、「中東で深刻な亀裂が発生し、二つのグループに別れている事が記されていますが、この二つのグループの違いは何でしょうか。

それは統治者を選挙で選んでいる国と、そうでない国の違いです。

イランのハメネイ師は選挙で選ばれていないのではとのご批判もあろうかと思いますが、ハメネイ師はあくまで宗教指導者です。

政治のトップである大統領は曲がりなりにも選挙で選ばれています。

エジプトはシーシ大統領が軍事クーデターを起こして、選挙で選ばれたムスリム同胞団出身の大統領を投獄してしまいました。

ムスリム同胞団の中には一部過激なグループも含まれている様ですので、注意が必要ですが、エジプトやサウジ政府が同胞団を禁止しているのは、自分たちの政権があやうくなるからではないでしょうか。

トランプ大統領は米国軍事産業の大のお得意さんである湾岸君主国に甘い顔をしてきましたが、バイデン 氏はトランプ氏と違います。

女性活動家の投獄や国際的に著名なジャーナリストであるカショギ氏の暗殺事件と言った問題に対して、厳しい対応を見せるでしょう。

当分サウジにとっては厳しい時代が続きそうです。

 

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欧州がAirbnbから学ぶ教訓

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Airbnb遂に上場

民泊仲介サイトのAirbnbが、このコロナ渦の中で上場する様です。

米紙ウォールストリートジャーナルによれば、新規株式公開(IPO)の仮条件レンジをすでに引き上げていましたが、それをさらに上回る公開価格を設定する見通しだそうです。

新たな仮条件によれば、同社の評価額は420億ドル(約4兆3800億円)超となる見込みです。

日立製作所の時価総額さえ上回るこの会社どれだけ儲けているのでしょうか。

実は2019年の利益(EBITDA)は2億5千万ドル(260億円)の赤字です。

どうしてこれほど高く評価されているのでしょうか。

やはり将来性です。

しかし、どこでも会社の将来性が高く評価されて、株価に高い値段がつくわけではなさそうです。

日本と同じ様に株価の低迷に悩む欧州は、このAirbnbの上場をどの様に見ているのでしょうか。

仏紙Les Echosが「Les leçons d'Airbnb」(Airbnbから学ぶ教訓)と題して記事を掲載しました。かいつまんでご紹介したいと思います。

Les Echos記事要約

Airbnbの上場の重要性を過小評価してはなりません。

確かに、ホテル経営者から嫌われているこの新興企業は、観光業界の一社にすぎません。

しかし、その成功はあっという間で、私たち全員を驚かせる規模でした。

 

ガレージから優秀な発明者が生まれるなどという話に惑わされる必要はありませんが、GoogleやFacebookそしてAirbnbといった事例は、若者が画期的なイノベーションを如何に支配しているかを証明している事を認識しておく必要があります。

もはや成功するために、歴史を持った大規模な会社の幹部になるべく出世の階段を駆け上がる必要はありません。

この新しい観光の巨人の創設者が私たちに示していることは、大学卒業後、自分の成功のために自らの時間を賭けることができるということです。

Airbnbの創設から10年も経たない株式上場は、米国では、革新的なアイデアをサポートするために何年にもわたって大きな損失を被る準備ができている投資家がいることも証明しています。

人々を恐れさせるアマゾンでさえ、コンピューティングの「クラウド」への賭けに成功するまで、利益を上げることができませんでした。

少しクレイジーに見えるプロジェクトをサポートするのが上手くないヨーロッパは、これを良く頭に入れる必要があります。

 

すべての企業経営者がAirbnbの台頭から学ぶべき他の教訓は、デジタル時代では、少なくとも物理的な製品と同じくらいサービスというものが重要だという事です。

Airbnbの主な資産は無形であり、その強みは、無数のオーナーから提供された部屋を世界規模の需要に即座に関連付けることができ、それを何百万もの人々に提供できる事です。

フランスで、設備に投資しないAirbnbは、すべてのホテルグループを合わせたよりも多くの「部屋」を有しています。

ますます多くのセクターで、ネットワーク上のポジションを保持する人々が、旧経済」の従来型プレーヤーを凌駕するプラットフォーム経済に移行しています。

 

新しいプレーヤーが経済競争のルールをこれほどまで揺さぶっているとき、競争が公正であることを保証する仲裁人に権限を与えることが緊急になります。

幸いなことに、ヨーロッパは行動しようとしています。

しかし多くの消費者からそのサービスが評価されているデジタルプレーヤーに過度なペナルティを課すことなく、適切に監督する必要があるため、その任務は難しいものになりそうです。

日本と共通する欧州の悩み

上記の記事はデジタル革命に置いてきぼりをくった欧州の嘆き節といった処でしょうか。

欧州は日本と同じ悩みを抱えています。

リーマンショック時を除いて右肩上がりの活況を呈する米国株式市場と比べ、欧州株式市場は冴えません。

上記の記事が指摘する通り、突拍子もないアイデアを掲げてスタートアップが生まれ、それをベンチャーキャピタルなどが支えるという米国の新興企業へのサポート体制が欧州には欠けていると思われます。

投資文化の違いと言ってしまえばそれだけですが、物づくりが得意な欧州や日本はネットで殆どのサービスが行われる様になってしまっては、出る幕がないのかも知れません。

トヨタやフォルクスワーゲンも、後発のテスラにあっという間に時価総額で追い抜かれてしまいました。

その内、テスラは無人運転車のプラットフォーマーとして、既存自動車メーカーを過去のものにしてしまうでしょう。

ネットワーク効果という言葉がありますが、ネット上では最強の企業に顧客が集まる傾向があり、2位以下の企業は競争上不利です。

欧州や日本はこの点を肝に銘じるべきですが、巨大な自国市場を有する米国や中国に対抗するのは難しそうです。

 

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バイデン氏元将軍を国防長官に指名する- 逆転人事の真相は

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初の黒人国防長官誕生か

国防長官の指名が遅れていましたが、バイデン 次期大統領は元陸軍大将のロイド・オースティン氏を指名しました。

このポジションには、元国防総省次官のミシェル・フロノイ氏が最有力と見られていましたが、彼女への指名は見送られ、黒人として初めてオースティン将軍がペンタゴンの主となる事が決まりました。

この逆転人事の背景には何があったのでしょうか。

米誌Foreign Policyが早速「Biden to Name Former General as Defense Secretary」(バイデン 氏は国防長官に元将軍を指名した)と題して記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要約

複数のニュース報道によると、バイデン氏が国防長官としてロイド・オースティン将軍を指名する事が決まった様です。

彼の指名が上院の承認を得た場合、元中央軍司令官は米国の歴史の中で国防総省を率いる最初の黒人になるでしょう。

オースティン氏の指名は、ミッシェル・フロノイ氏が初の女性国防長官になるという機会を消失させました。

元国防総省の次官である彼女は、バイデン氏の大統領選勝利が確認されるや否や、国防長官のの最有力候補と見なされました。

Foreign Policy のマイケルハーシュが先月書いたように、バイデン 氏とフロノイ氏の間には政策をめぐって意見の相違があった事が障害になったと推測されています。

 

オースティン氏の指名は歴史的なものですが、幾つかの問題があります。

彼は退役してから日が浅く、国防総省長官には軍を辞めてから7年以上経過する必要があるとの規程に抵触するため、議会の特別免除が必要になります。

このような特例は過去2回しか認められていません。

1950年に第二次世界大戦中に陸軍参謀総長を務めたマーシャル将軍、そして2017年にマティス将軍の2名だけです。

 

民主党の進歩派の観点から言えば、オースティン氏の退役後の経歴ももう1つの重要なハードルになりえます。

彼は退役後、主要武器メーカーのレイセオン社の取締役を務めてきました。

同社は最近、サウジアラビアへの武器販売から利益を得ており、議会の精査に耐えるならば、アラブ首長国連邦との230億ドルの武器取引からさらに利益を得る立場にあります。

フロノイ氏の支持者は、防衛産業の請負業者であるブーズ アレン ハミルトン社と彼女のつながりが、進歩主義者が彼女の指名に反対するために団結した理由の1つであったことを指摘します。

私の同僚のRobbieGramerとJackDetschが報告しているように、オースティン氏の選択は、人間関係(バイデン氏の古い記憶)に関するものかもしれません。

バイデン氏は、オバマ政権時代にイラクを担当した副大統領時代からオースティン氏を知っています。

オースティン氏は、イラクの駐在米軍を削減するというバイデン氏の計画を支持しましたが、フロノイ氏と当時の統合参謀本部議長のマイク・マレン氏はそれに反対しました。

 

ニューヨークタイムズ紙において、元バイデン氏顧問のゴルビー氏は、オースティン氏の指名に強く反対しています。

「マティス氏のような退役将軍が国防長官としてトランプ時代に正しい選択だったとしても、その時代は終わった」と彼は書いています。

「例外的な状況で認められた立法上の例外的措置が、新しい規則になるべきではありません。」とも主張しています。

 

2018年に「Foreign Policy」においてたマーラ・E・カーリンとアリス・ハント・フレンドは、「9.11以降の17年間の間に、米国のシビリアンコントロールは侵害されました。軍事専門家に非軍事的役割を委ねるのではなく、より良い政治と政治家を作る事が求められます。」と述べています。

フロノイ氏が指名を得られなかった本当の理由

本命であったフロノイ氏が指名を得られなかった理由として、イラク駐留軍の撤退をめぐって以前バイデン 氏(当時副大統領)と対立した事や、民主党進歩派が彼女の軍事産業との関係を嫌った事などが挙げられています。

私は米国政治の専門家ではないので、はっきりした事はわかりませんが、シビリアンコントロールの原則を曲げてまで、フロノイ氏(文官)の代わりにオースティン氏(武官)を指名した背景には、彼女の防衛政策が米国の軍需産業の反発を招いた可能性があるのではと推測しています。

彼女は今年米誌Foreign Affairsにて今後の米国防衛のあるべき姿について、論文を発表しています。

私も以前ブログでご紹介しましたが、この論文の中で、彼女は「既存の防衛システムは陳腐化しており、新しい先進的な防衛システムを取り入れるべき」と主張しています。

 

www.miyoshin.co.jp

 

この考えに米国の防衛産業の守旧派が反発したのではと睨んでいます。

米国の防衛産業は巨大です。

年間の防衛費はなんと6,846億ドル(約75兆円、2019年)で、軍需産業の雇用者は1,100万人と言われています。

もちろん国防長官人事に関しては、業界を挙げて、バイデン氏に圧力をかけていたと思います。

今回、オースティン氏が指名を得たのも、彼が防衛産業の老舗レイセオン社の役員を務めていた事と関係がありそうです。

同社はミサイルやレーダーシステムで有名で、日本のイージス艦にも搭載されている事で有名ですが、同社の様な大手軍事企業が防衛産業の改革を唱えるフロノイ氏の指名に難色を示した可能性があります。

 

オースティン氏の国防長官指名が日本にどの様な影響を与えるかですが、次の様な懸念点があります。

同氏の軍歴を見ますと、中東での経験は豊富ですが、アジアにおける経験は見当たりません。

今後、対中、対北朝鮮と言った問題に国防総省がどの様に対応するか不安です。

元防衛大臣の小野寺議員が、「フロノイ氏はアジアについても識見があり、彼女が国防長官になれば心配ないが、他の民主党系の人は共和党系に比べれば、中国に極めて甘く、心配だ。」と述べてましたが、同議員の心配が杞憂で終われば良いと思います。

 

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超大国の関心が高まる北極圏の戦略的価値

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北極圏の価値高まる

地球温暖化により北極海の氷が溶けているという話はお聞きになった事があると思いますが、一方で、北極圏の戦略的価値は急速に高まっている様です。

何故氷が溶けると北極圏の戦略的価値が高まるかと言うと、船の航海日数が大幅に短くなるためです。

地球儀を見るとわかりやすいのですが、北米、ロシア、欧州は北極を挟んで非常に近い距離にあります。

もし北極海を航海できれば、東南アジアから英国に向かう場合、現在使われているマラッカ海峡からスエズ運河経由のルートに比較して10日程航海日数を短縮できると言われています。

安全保障上も重要性が高まります。

以前、トランプ大統領がグリーンランドを買いたいと言い出して、この人何をとぼけた事言ってるんだろうと思った記憶がありますが、実は北極海の制海権を握ることは対露、対中の観点から非常に重要なのです。

そんな中、米誌Foreign Policyが「Forget Greenland, There’s a New Strategic Gateway to the Arctic - The Faroe Islands have a history of trading with everyone who will buy their fish. With growing tensions in the Arctic region, the islands are now receiving more attention from superpowers.」(グリーンランドは忘れよう。新しい北極圏への戦略的入り口がある。フェロー諸島は魚を買ってくれるなら誰とでも付き合って来たが、北極圏で高まる緊張の中で、超大国から熱い視線を浴びている)と題した記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要旨

フェロー諸島の外務大臣であるイェニス.ラナは、7月22日の朝興奮していました。

25年間のキャリアの中で、彼はアイスランドやグリーンランドの外務大臣とは時折会う機会がありました。

しかし、まさか、米国務長官のマイク・ポンペオが彼をデンマークでの会議に招待するとは思っていませんでした。

この招待は、北極圏の国としてのフェロー諸島が戦略的に重要性を増していることの表れでした。

4か月後の11月28日、魚の4分の1をロシアに販売し、中国の通信会社Huaweiと5G契約を結ぼうとしていたフェロー諸島の代表が、米国とのパートナーシップ宣言に署名しました。

フェロー諸島は18の小さな島で構成され、52,000人が住んでいます。

群島は北大西洋の真ん中に位置し、いわゆるGIUK回廊(グリーンランド、アイスランド、イギリス北部を結ぶ北大西洋の通過ルート)の中心にあり、冷戦の間に享受していた戦略的重要性を最近取り戻しました。

2019年に米国国防総省戦略で述べられているように、この回廊は「北極圏と北大西洋の間の海軍作戦の戦略的回廊」になっています。

そして、ロシアと中国の両方が競争相手であるため、この地域は米国の国家安全保障上の利益にとってますます重要になっています。

北極の氷が溶け、海運の交通量が増える中、フェロー諸島は米国とNATOの海上サービス拠点になることを望んでいます。

トランプ大統領が1年前に購入したいと発言したグリーンランドのように、フェロー諸島もデンマーク王国の自治地域です。経済は主に漁業とサケ養殖です。

フェロー諸島の外交政策と安全保障政策は、法的に言えば、デンマーク政府の管理下にあります。

しかし、デンマークが後に1972年にEUに加わったとき、フェロー議会は、EU加盟が漁業権を放棄することを意味するため、従わないことを決定しました。

フェロー諸島政府は、1970年代にソ連と漁業協定を結んだ最初の西側諸国のひとつです。ロシアは依然としてフェロー諸島にとって重要な輸出市場です。

2018年には、フェロー諸島の輸出の27%がロシア市場に向けられ、フェロー諸島にとって最大の輸出市場となりました。

デンマークにはフェロー諸島が誰と取引するかを決定する権限がありません。

デンマーク政府は、貿易や漁業の権利への干渉が王国内の大きな紛争につながる可能性があることを知っています。

近年、中国もフェロー諸島にとって非常に重要な市場になっています。

フェローのサケ養殖大手であるバッカフロストは、2010年の20倍以上のサケを中国に輸出しています。

フェロー諸島はモスクワと北京に代表部を有しており、ポンペオ国務長官はなぜフェロー諸島が米国に外交代表を持たないのかとフェロー諸島の外務大臣に尋ねた様です

フェロー諸島の外務大臣は、彼らが持ち始めている重要性の高まりに気づいており、次の様に語りました。

 「現在の状況は歓迎すべきものです。いくつかの国は天然資源を持っていますが、私たちの資源は私たちの場所です。」

したたかなデンマーク

フェロー諸島の重要性がこれだけ増している事はわたしも寡聞にして知りませんでした。

我が国にとっても北極海航路は大きな意味を持っています。

欧州への航海日数を大幅に短縮できる北極海の航海の自由はシーパワーとしての日本にとって非常に重要です。

シーパワーと言えば、フェロー諸島やグリーンランドを保護領としているデンマークも意外に知られていない重要なプレーヤーです。

500万人を若干上回る程度の人口しか持たないこの小国は、実は世界最大の海運会社を有する根っからのシーパワーです。

グリーンランドを売ってくれとのトランプ大統領の要請を「グリーンランドは売り物ではない」とデンマーク政府は即座に拒絶しましたが、今回の米国とフェロー諸島の合意形成には大きな役割を果たしました。

この国は海運で生計を立てている面もありますので、ペルシャ湾の航行の自由を守るため、ペルシャ湾に軍隊を派遣し米国と共同作戦を行うことを提案した事さえありました。

北欧の国はノルウェーが中東和平の仲介に乗り出し、オスロ合意を演出するなど、小国でありながら、国際政治においても存在感を示しています。

現在、ネットフリックスで配信中の「コペンハーゲン」(原題:Bergen)はデンマークの女性首相を主人公としたドラマですが、このドラマではデンマークが大国の狭間で如何にその位置を苦労しながら保っているかが描かれています。

彼らのしたたかな外交が窺えます。お勧めです。

 

最後まで読んで頂き、有り難うございました。

 

接種が始まった新型コロナワクチンが抱える様々な問題

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世界中で感染拡大進む

コロナ感染は世界中で拡大を続けています。

世界の感染者数は6,700万人に達し、死亡者数は150万人を突破しました。

最大の死者を出しているのは米国で28万人を超えていますが、フランスも5万人を超えるなど、医療体制が充実しているはずの先進国での死者数増加も止まりません。

最も期待されているのはワクチンですが、遂に英国で接種が始まり、米国でも年内に接種が予定されています。

ワクチンの供給は十分なのでしょうか

世界中に行き渡るのにはどの程度の時間が必要なのでしょうか。

米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「Race to Vaccinate World Against Covid-19 Intensifies - Governments scramble to secure limited vaccine supplies, and only a small sliver of the population will receive a shot for months to come」(ワクチンの確保にむけた競争激しさを増す - 今後数ヶ月内に接種を受けられるのはほんの一握り)と題した記事を発表しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

世界の人々に新型コロナウイルスの予防接種を行う取り組みは、各国政府間の競争に突入しつつあります。

ワクチンの接種は、国ごとに大きく異なるスピードで進行する可能性が高いと思われます。

世界中の多くの人にとって、ワクチンは遠い先の話にとどまるでしょう。

最貧国が接種を実施できるようになるまでには、何年もかかる可能性があります。

欧米諸国はそれぞれに医薬品メーカーと多くの契約を結んでいますが、初回供給量は限られ、少なくとも来年1-3月期の見通しは暗いです。

英当局は先週、欧米初のワクチンを承認し、他の欧米メーカーのワクチン候補も近く承認に至るとの期待が広がりました。

ただ、先頭を走るワクチン候補は新しいRNA技術を使っており、量産が困難です。

欧米が人口の大半に早期に接種できるようになるかは、従来型の技術を用いる他のワクチンが安全性と有効性を証明できるか否かにかかっています。

貧困で力の弱い国はその間、ほぼ疎外され、ロシアや中国、あるいは世界保健機関(WHO)が後押しするプログラムに依存するしかありません。

ロシアと中国は中東や中南米などで、ワクチンを配布する二国間契約を結んでいますが、両国のワクチンはまだ臨床的に証明されていません。

さらに、ロシアも中国も世界の膨大な需要を埋めることはできません。

ロシアはワクチン「スプートニクV」の量産が難航しています。

中国は、何回分を輸出するかは明らかにしていません。

欧州と米国の規制当局は数週間以内に、米製薬大手ファイザーとドイツのビオンテックが開発したワクチンを英当局に続いて承認するかどうか決定する見通しです。

 しかしEUは域内人口4億5000万人のうち、最大でも3分の1に接種する分しかファイザーのワクチンを予約していません。

米国は5000万人分を事前購入しました。

こうした分量の製造には何カ月もかかるでしょう。

ファイザーは年内に世界で1億回分を用意したい考えでしたが、その半分の製造に必要な分でさえ、原料確保と新技術の確立に苦戦しています。

次に有望な候補は米バイオテク企業 モデルナ のワクチンですが、EU向けの用意はわずか1億6000万回分しかなく、米国向けには今月2000万回分を製造する予定となっています。

モデルナのワクチンもファイザー製と同様に、2回接種する必要があります。

ファイザーと同じくメッセンジャーRNA技術を用いており、製造工程には困難を伴ないます。

このため欧米は、最先端技術ではないものの製造がはるかに容易なワクチンに依存することになりますが、そうしたワクチンの見通しは不透明です。

中でも重要なのは、アストラゼネカとオックスフォード大学が開発した2回接種のワクチンです。EUは4億回分、米国は5億回分をそれぞれ購入しています。

 しかし、臨床試験で何千人もの被験者に、予定より少ない量を誤って投与したとアストラゼネカが明らかにしたことから、このワクチンの有効性に疑問の声が上がっています。

フランスの製薬大手 サノフィ や米 ジョンソン・エンド・ジョンソン (J&J)などその他のワクチンがEUの承認を受けるのは何カ月も先の話で、有効性が証明されるか保証はありません。

新型ワクチンは安全か

WSJの記事から、十分なワクチン供給が如何に難しいかが理解できますが、他にも様々な問題があります。

フランスなどでは、新しいワクチンの安全性に疑問が投げかけられています。

今回のワクチン開発は従来のワクチンに比べて非常に短い期間で開発されました。

その安全性が十分に実証されているのか不安です。

一方、ワクチンというものは集団免疫を確保するために摂取されるものですので、接種を拒否する人がたくさん出れば、集団免疫が生じません。

フランスなどでは、起こりうる重篤な副作用に誰が責任を取ってくれるのかという声が上がっているのです。

各国政府は難しい選択を迫られそうです。

ワクチンに対する国民の期待は日ごとに高まっています。

特に隣国で接種が始まったなどとのニュースが流れれば、政府は「何故接種を始めないのか」とのプレッシャーを国民から受ける事になります。

しかし、一方で安全性に一抹の不安があるワクチンを国民全員に義務付けるべきかという問いにも答えなければいけません。

 

今回のワクチン開発において、我が国の開発体制にも不安を覚えざるをえません。

欧米そして中国、ロシアなどが自国の開発体制を整えているのに対して、我が国は立ち遅れています。

SARSや新型コロナの様な感染症は、今後も必ず発生します。

新型コロナは、多くの国民の命を奪い、経済に大きな損害を与えました。

今からでも遅くないので、政府は感染症対策に力を入れ、ワクチン開発も自国で対応できる様な体制を整えるべきと思います。

これは安全保障上の問題だと思います。

 

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欧米も認めるトルコの戦略的価値 - トルコ側にも変化の兆しが

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シリア担当米国特使トルコを訪問

トルコは12月4日夜より週末のロックダウンを開始しました。

トルコは欧州と同様にに感染拡大に見舞われていますが、死者数から見ると1日あたり194(12月4日米ジョンズホプキンス大学調べ)に留まり、欧州各国と比べれば抑えられています。

ちなみに同日、イタリアは814人、ドイツは480人です。

トルコ政府が週末のロックダウンを選択した背景には、感染の拡大は抑えたいが、経済へのダメージを最小限に抑えたいという事情があるものと思われます。

そんな中、米国の外交団が、トルコを訪問しました。この背景には何があるのでしょうか。

トルコ紙Hürriyetの関連記事をご紹介しましょう。

Hürriyet記事抜粋

米国特使訪問

シリア担当米国特使であるレイバーン氏はアンカラで、トルコの高官と会談し、インタビューに答えて次の様に語りました。

 

「私たちは時には意見の相違がありますが、最悪の時でさえ、トルコ当局と緊密に協力してきました。結局のところ、私たちは同盟国なのです」

トルコとの協力は、シリアのイスラム国を壊滅させ、アルカイダがシリアで安全な避難場所を持てないようにし、イランとその同盟組織であるヒズボラの役割に対抗するための取り組みの重要な部分です。」

「シリアに関しては、米国とトルコの関心、目標、アプローチが、一部の人々が思っているよりもはるかに重なっているといつも感じています」

 

トルコと米国はシリアの紛争に関して長い間協力してきましたが、シリア民主軍(SDF)への米国の支援は、二つの同盟国の間に亀裂を引き起こしました。

トルコがテロ組織と見なしているSDF(クルド人民防衛隊YPGを主体として結成された)への米国の支援をめぐる両国間の意見の不一致について、レイバーンは次のように繰り返しました。

「米国とSDFとの協力は、イスラム国を完全に壊滅させる為に継続される。」

 

シリアの政策に対する超党派の支援

シリアにおけるトルコとアメリカの協力が、バイデン政権の下で困難になるかもしれないという懸念について、レイバーン氏は「新しい政権を代表して語ることはできないが、現在実行している政策に対する超党派の支がある。」と指摘しました、

「この政策は、イスラム国を敗北させ、イランの活動に対抗し、アサド政権がシリアの人々や近隣諸国に脅威を与えるのを防ぎました」と付け加えました。

 

トルコはイドリブの大惨事を防いだ

 トルコとロシアの合意の下、3月5日に停戦が行われたイドリブ(シリア北西部の県)で、アサド政権による軍事攻撃から300万人をトルコが保護した点について、米国は称賛しました。

 「イドリブの人々に人道的大惨事が生じ、トルコや他国に膨大な数の難民が流れ込むところでした。トルコが行った事はやらなければならない行動でした。」と彼は語りました。

EU代表の発言 

12月4日EU外交政策責任者であるボレル氏は、ローマ地中海対話フォーラムで演説し、次の様に語りました。

「10月1日の前回の欧州理事会で、EU首脳は東地中海の天然資源をめぐる問題に関して、トルコの前向きな関与を模索し、トルコ側からより建設的なアプローチが見られるかどうかに応じて判断することを決定しました。」

 「トルコには地域的な野心があります。一方、トルコはシリアからの350万人もの難民を受け入れており、我々もそれを手伝う必要がある事を理解すべきです。」と彼は付け加えました。

 ボレル氏は、「領海紛争を解決し、EU加盟国の主権を尊重し、ガス田の収入を共有する方法を模索する様トルコ側に求めているが、同様にトルコもそれを模索している。」と付け加えました。

バイデン政権の対トルコ外交はどうなるか

バイデン 氏は、エルドアン氏と個人的な相性は良くないかもしれません。

しかし、米国が外交目標を効率的に追求する為には、NATOの一員であるトルコは欠くべからざる存在です。

地政学的に言えば、黒海と地中海に面し、ヨーロッパとアジアの結節点にあたるトルコは戦略上極めて重要な位置にあります。

バイデン 氏は中国よりもロシアに厳しいと言われていますが、ロシアの南下政策を押さえ込む上で、黒海から地中海への出口にあたるトルコは極めて重要です。

米国の軍事リソースは限られている上に、インド太平洋地域へのシフトが始まっています。

その様な状況下、バイデン 政権はこの地域で大きな影響力を持つトルコとの関係を悪化させる事は難しいでしょう。

トルコの協力なくして、シリアやイラクやアゼルバイジャンなどの問題は解決できません。

一方、トルコ政府にしても、米国との関係悪化は避けたいところです。

今回の米国特使アンカラ訪問も、トルコ政府の要請で行われた可能性があります。

EUにもトルコとの関係を正常化しようとの動きが見られます。

EUにしてみると、トルコは中東からの難民の防波堤になっており、トルコとの関係悪化は、膨大な難民の欧州流入に繋がりかねないのです。

 こうやって見ていくと、トルコの役割は米国、EUにとって非常に重要であり、これから多少の紆余曲折はあるかも知れませんが、対ロシア、対イラン、対イスラム原理主義テロ組織といった観点から、欧米はトルコとの関係を重視せざるを得ないと思います。

ご関心のある方は、以前のブログ「バイデン 政権はトルコにどう向き合うべきか」をご参照ください。

 

www.miyoshin.co.jp

 

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Black Lives Matterは米国だけではない - フランス社会の闇

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パリで起きた警官暴行事件

人種間の対立は米国だけの問題ではありません。

多くの有色人種を抱えるフランスなどでも深刻な問題と言えるでしょう。

コロナ感染の拡大は、経済に大きな爪痕を残していますが、真っ先に影響を受けるのは有色人種です。

フランスの有色人種(アフリカ系、アラブ系)の失業率は白人に比べて遥かに高くなっています。

そんな中、フランスで警察が黒人に暴行を加えた事件が発生し、大きな反響を読んでいます。

英誌Economistが「After police are filmed beating a black man, France does a U-turn - A gagging bill that could shield cops is being revised」(黒人を殴打した警官の映像がフランス政府の方針を転換させた。論議を呼んでいた警官を保護する法律は修正される予定だ)と題する記事を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Economist記事要約

11月21日、3人の警官がパリにあるレコーディングスタジオに押し入り、黒人のプロデューサーであるゼクレール氏を殴打しました。

マスクを着用していないことを問われたゼクレール氏は、当初、警察に対する暴力のために48時間拘留され、殴打中は「汚い黒人め」と呼ばれたと述べています。

監視カメラに撮られた殴打の動画がソーシャルメディアに投稿されてから4日後の11月30日、意図的な暴力と記録の改ざんを理由に3人の警官は起訴され、警察官として職務停止となりました。

このエピソードはフランス全国に衝撃を与えただけではありません。

マクロン大統領はソーシャルメディアで「恥ずかしい行為だ」と述べ、異例の政策転換を余儀なくされました。

この事件は、警察権を強化するために準備された「一般的な安全保障」法案が議会を通過しようとしている時に起こりました。

11月24日に下院で可決され、次に上院に提出される予定だった法案の第24条は、警察の作戦中に個々の警官を特定する画像を投稿または放送すること及び心理的に彼らに害を及ぼす事を禁じています。

法案がすでに成立していたら、ゼクレール氏への暴行を記録したビデオを投稿することは違法だったかもしれません。

第24条の狙いは、法案をマクロン氏の内諾を得て起草した強硬派の内務大臣であるダルマニン氏によると、物理的に或いはソーシャルメディアを通じて、個人を特定して標的にしようとする試みから警官を保護することです。

フランスの警官は常にインターネット上の脅威にさらされています。

2016年、3歳の息子の前で、警察官が刺殺されました。

捜査官は、加害者のコンピューター上で、警察官の名簿を見つけました。

 

しかし、フランスのメディアやその他の人々は報道の自由を懸念して、この法案に反対しました。

仏紙ルモンドの社説は、第24条を「有害」と呼びました。

マクロン氏の与党も、10人の議員が法案に反対票を投じ、さらに30人が棄権しました。

11月28日、何万人もの人々がフランス中で抗議デモを行いました。

マクロン支持者でさえ、治安問題に関する大統領の右傾化を懸念しています。

 

当初、政府は第24条を守ろうとしました。

しかし、反対意見の高まりに直面して、マクロン氏は11月30日、エリゼ宮殿での危機対策会議で法案を完全に書き直すように命じました。

「それは苦境から抜け出すためのあまり格好の良い方法ではありません」と、与党副党首であるレスキュール氏は語ります。「しかし、少なくともその判断は明確で迅速であり、『申し訳ありませんが、間違っていました。もう一度考え直しましょう』と国民に伝えました。」と彼は付け加えました。

 

マクロン氏の第24条に関する判断は、報道の自由に関する緊張を和らげる可能性があります。

しかし、彼の判断を促すのに役立った出来事、特にゼクレール氏に対する殴打事件は、より長期的な政策対応を必要とするでしょう。

フランスは市民の民族に関するデータを収集していないため、人種差別の規模を知ることは困難です。

しかし、2016年の公式調査によると、「黒人またはアラブ人として認識されている」若い男性は、身分証明書のチェックを受ける可能性がはるかに高いことがわかりました。

フランスの警察による人種差別の問題は少なくとも認識され始めています。

フランス社会の闇は深い

フランスは広大な植民地をアフリカや中東に有していました。

この様な植民地が独立した後も、続々と移民はフランスに流れ込んできており、パリやリヨンなど大都市には大規模なコミュニティーが存在しています。

彼らの多くは第二世代、第三世代となり、もはやアフリカの言葉も喋れませんし、母国はフランスです。

前回のサッカーワールドカップで優勝したフランスチームにおいて、白人はほんのわずかであり、ほとんどがアフリカ系かアラブ系です。

ワールドカップに優勝した時、マクロン大統領は「フランスチームは異なった民族で構成されたフランスを象徴している。」と誇らしげに語りました。

しかし、現実には、フランスは米国以上に民族間の軋轢があると思われます。

そしてそれを助長しているのが、マクロン大統領の最近の言動ではないでしょうか。

欧州においてイスラム教徒が最も多く住んでいるのはフランスで、その数500万人以上と言われています。

マクロン大統領はイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を授業中に生徒に見せた為、イスラム過激派によって殺害された中学教諭の葬儀において、「我々は風刺画をやめない」と語りました。

確かに、フランスは政教分離を国是とする国ですので、大統領でも神様でも風刺の対象になる国ですが、国が2分されている最中に、あえて相手を刺激する様な発言を行うのは如何かと思います。

マクロン大統領の右傾化はかねてから指摘されていますが、その背景には、ル ペン氏が代表を務める右翼政党国民戦線の台頭があります。

国民戦線に自らの支持層を侵食されない為には、マクロン大統領は強硬姿勢を取らざるを得ないのです。

ポピュリスト政党の台頭が政治をおかしくさせているのは世界的傾向の様です。

フランスの迷走は今後も続きそうです。

 

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外国人記者から見たGo toトラベル

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東大寺の鹿にも影響を与えた新型コロナ

鳴り物入りで始まったGo toトラベルですが、コロナ感染の再拡大に伴い、大阪や北海道では一時停止されました。

一方、同じ様に感染者が拡大する首都東京では継続されています。

同様のキャンペーンを行っている国はあまりありませんが、外国人はこの制度をどの様に評価しているのでしょうか。

英誌Economistが「A crash in tourism leaves Japanese deer ravenous for treats」(観光業の崩壊は日本の鹿をおやつに貪欲にさせる)と題する記事を掲載しました。

このタイトルだけでは何を指しているのかよくわかりませんが、奈良の東大寺の鹿が観光客の激減により、コメ煎餅が貰えなくなったというエピソードからGo toトラベルについて論評を加えています。

かいつまんでご紹介しましょう。

Economist記事要約

日本の古都奈良を訪れる1,300万人以上の観光客は、古くからの道をたどるのが普通です。

街の端にある公園に向かう途中、710年に建てられた寺院群である興福寺のそびえ立つ木造の塔を通り過ぎます。

彼らは近くの東大寺に向かい、重さ 400トン、高さ15メートルもある日本最大の巨大な仏像に畏敬の念を抱きます。

そして最後に、特別な種類の米で作られた鹿せんべいを、公園に住む約1,300頭の神聖な鹿に食べさせます。

鹿は野生ですが、せんべいを好むようになりました。

新型コロナのの影響で観光客が減ったため、彼らは空腹です。

多くの鹿が食べ物を求めて公園から遠く離れてさまようようになりました。

奈良鹿保護財団と北海道大学による最近の調査によると、公園で過ごす日数は20%少なくなっている一方、鹿による被害が急増しています。

せんべいだけを食べることに慣れている、あまり行動的でない鹿は明らかにやせ衰えています。

 

お腹が空いているのは鹿だけではありません。

近年、観光業にますます依存するようになった奈良のような場所の企業もそうです。

2009年に日本を訪れた外国人観光客は700万人未満でした。

昨年は何と3200万人に達し、観光収入は過去最高の4.8兆円に達しました。

今年の夏にオリンピックが予定されていたので、日本は今年4000万人の外国人を迎えることを期待していました。

残念ながら、コロナ感染拡大のため国境がほぼ完全に閉鎖された為、外国からの訪問客は99.4%減少しました。

 

そこで政府は、自国民にもっと外出するように促すことで経済的打撃を和らげようとしました。

国会は、国内のホテルや旅館で最大35%の割引を提供する「Go toトラベル」と呼ばれる補助金に、1兆3500億円を割り当てました。

「Go To Eat」と呼ばれるキャンペーンは、飲食業に適用されます。

観光省によると、このキャンペーンは7月に開始されて以来、約4,000万泊が予約されましたが、思わぬ被害をもたらしました。

新型コロナの新規感染者数は11月28日に2,680と記録を更新しましたが、キャンペーンが感染者数拡大の主因と考えられています。

菅義偉首相は最近、新規感染者の多い地域では補助金を停止すると発表しました。

また、年配の日本人はそれらを利用しないように求められています。

 

日本は観光業を見捨てたり、それを支えるインフラを衰退させたりする事はできない様です。 (菅氏自身、安倍政権時代、内閣官房長官として観光業を擁護しました。)

当局は、外国人観光客による支出を、日本自身の人口減少を補う手段と見ています。

日本経済研究センターの斉藤淳氏は、観光業は将来、日本を外国人移民に対してより開放的にするのにも役立つかもしれないと述べています。

 

一方、奈良のより賢い鹿は、植物やナッツと言った健康的な食事に戻り、それは彼らの体に良い影響を与えました。

せんべいによって青白くて水っぽくなった彼らの糞は、再び固くなり、濃い色となりました。

あたかも引き締めが経済に良い影響を与える様に。

Go toトラベルが抱える問題

Economist記事も批判的ですが、このキャンペーンは次の様な問題を孕んでいると思います。

  1. もともと東京などの大都市に住む金持ちの高齢者の懐から金を引き出そうと言う制度設計になっていますが、ターゲットになっている高齢者をこの時期、旅行させるのは非常に危険です。
  2. 最高2万円まで一律に補填すると言う規定は、高級旅館を優遇しますが、本当に困っている低価格の旅館などにはあまり客が入りません。
  3. そもそも旅行業界に1兆円を超える様な補助金を出すのが妥当か疑問が残ります。世の中には困っている業種が山ほどある訳で、旅行業界だけを優遇する特別な理由があるのではと考えたくなります。

Economist記事の最後のフレーズが指摘する様に、この厳しい時期を自助努力で乗り越える事によって、筋肉質でコスト競争力のある観光業が生まれるはずです。

一定の支援は必要でしょうが、一兆円を超える様な多額の補助金に慣れさせてしまっては、日本の観光業の将来は暗いものになるでしょう。

 

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バイデン 氏が直面する喫緊の外交課題

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ねじれ議会に直面するバイデン 政権

12月に入り、バイデン 政権が誕生するまで、2ヶ月を切りました。

ジョージア州の上院2議席に関し、1月に決選投票が行われる予定ですが、かなりの確率で、バイデン 大統領は野党和党が多数を占める上院と対決する事になりそうです。

米国の大統領は強大な権力を有している様に見えますが、専門家によれば、大統領の権力は議会や司法の力によってかなりコントロールされている様です。

前途多難が予想されるバイデン 氏ですが、外交上の喫緊の課題は何でしょうか。

ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「Here’s Where Biden Will Face Early Foreign-Policy Decisions」(バイデン 氏が早々に直面する外交課題)と題して論文を掲載しました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

WSJ記事要約

米政界の経験則によれば、大統領は内政では議会の制約に縛られる一方、外交においては比較的自由に行動する余地を見つけることができます。

 ジョージア州での上院選決選投票で争われる2議席の行方によって、バイデン氏は与野党がねじれた議会に直面する可能性があります。

内政では議会に苦しめられると思われますが、外交政策に関しては、単独で行動を起こす余地が大きくなりそうです。

特にトランプ大統領が独断で発した一連の大統領令を巡り、バイデン氏は撤回するかどうか早期に判断を迫られます。

イランやアフガニスタン問題、そして気候変動などの課題がそれに含まれます。喫緊の課題について以下に考察してみましょう。

イラン核合意:

これはバイデン氏にとって最も難しい判断として急浮上しています。

合意が成立した当時、バイデン氏はオバマ政権で副大統領を務めていました。

バイデン氏は長い間、イランの核兵器開発の道を閉ざす為には、合意が最良の手だと主張してきました。

トランプ氏は、合意はイランの核兵器開発を遅らせたにすぎないと主張し、合意から離脱し、厳しい経済制裁を再発動しました。

イランはこれを受け、大規模なウラン濃縮を再開しました。

バイデン氏は選挙運動で、核合意には復帰するが、条件付きになると述べました。

「イランが合意を再び順守すれば」復帰すると述べましたが、それはおそらく、核濃縮の停止と新たに積み上げた備蓄の縮小を意味します。

さらには、「合意を強化し、延長する」としています。

従って、単に合意に復帰するだけでなく、イスラエルなど批判的な国が合意の主な欠陥と指摘している点、イランが急増させている精密誘導ミサイルや過激派組織への支援への対応が問題となるでしょう。

これに加え、イランは米国の合意復帰の対価として、トランプ政権による経済制裁再発動で被った損害を補う賠償金も含まれると述べています

そのため合意の復活はそもそも簡単ではありません。

しかも、イランの高名な核科学者が暗殺されたことで、ここ数日にその課題ははるかに複雑さを増しています。

 

アフガニスタンとイラク駐留米軍の規模:

トランプ政権下の国防総省は選挙後、両国の駐留米軍を2500人に減らすと発表しました。

タリバンがアフガニスタン政府との和平協定に合意できていないにもかかわらずこうした決定が下されたため、米軍上層部は懸念を強め、共和党指導部からは無分別との批判が出ました。

ただ、これにはバイデン氏にとって厄介な面もあります。

アフガニスタンとイラクから撤退する点については、バイデン氏は実のところトランプ氏と同じ意見の様に見えます。

トランプ氏は紛争を「終わりなき戦争」と呼んでいます。バイデン氏は大統領選中に「永遠の戦争」と呼び、両国の駐留米軍の「大部分」を帰還させると述べました。

イラクとアフガニスタン問題では、バイデン氏の国際主義者としての思いと、米軍帰還への思いが矛盾しています。

バイデン氏はちょうど1年ほど前、世界における米国の役割に関するインタビューで、継続的な関与に賛成する姿勢を示し、両地域における駐留軍の必要性を語りました。

「われわれが世界を取り仕切らなければ、だれが取り仕切るのか」と問いかけた一方で、大統領に選出されればイラクに駐留軍を何人残すかとの質問に対しては、「1年後に何人残っているかは神のみぞ知る」と答えました。

 

パリ協定とTPP:

オバマ政権は両協定への米国の参加を交渉しましたが、トランプ氏は双方から離脱しました。

気候問題への迅速な行動を約束してきたバイデン氏にとって、2015年に採択されたパリ協定へ復帰は造作ない様に思えます。

だがそれは簡単ではありません。

急速な経済発展を遂げている中国に対して、バイデン氏は当初想定されていた以上の気候変動対策を要求するでしょうか。

中国の経済的影響力に対抗するため、太平洋諸国12カ国からなる貿易圏を創造するはずだった環太平洋経済連携協定(TPP)は、さらに厄介です。

バイデン氏は協定交渉時に副大統領でしたが、大統領選中には協定に前向きな姿勢を示さず、労働組合や民主党の進歩派勢力と同様に、労働・環境面でより強力な条件を盛り込むべきだったと主張しました。

しかし、実際にはTPPに復帰する必要性が高まっています。

他の11カ国は米国抜きでTPPを実現させました。

そして11月にはアジアの15カ国が、中国も含む新たな貿易協定(RCEP)に署名しました。

目下のところ、米国は蚊帳の外です。

そして代わりに中国が、運転席に座っています。

外交課題山積みのバイデン 政権

こうやってみると、バイデン 氏の外交課題はどれも難問です。

バイデン 氏の発言の中で、気になるのは「われわれが世界を取り仕切らなければ、だれが取り仕切るのか」と言うものです。

米国は引き続き世界のリーダーですが、もはや往年の力はありません。

自分の力の低下を十分認識した上で、同盟国との連携に注力してもらいたいと思います。

そう言う意味では、パリ協定やTPPは試金石となると思います。

バイデン 氏の政権舵取りに注目しましょう。

 

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イラクとシリアのクルド人をバイデン 政権はどう扱うか

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国を持たない最大の民族クルド

クルド人という民族をご存知でしょうか。

クルド人は自分の国を持たない最大の民族と言われています。その数は4千万人を上回り、トルコ、イラン、イラク、シリアに多く居住しています。

私の住んでいたトルコにも1500万人ものクルド人が住んでいるのですが、誰がクルド人か見た目ではわかりません。

完全にトルコに同化しているのです。

経済担当の副首相だったシムシェック氏は日本で行われた講演で、自らがクルド人である事を明かしましたが、彼に限らず政財界の著名な人物の中にクルド人が相当数存在しています。

これだけ大きな人口を持つクルド人の中には、当然のことながら独立して自分の国を持ちたいと考える人が出てきます。

しかし、この独立運動は各国で厳しく取り締まられてきました。

抑圧された独立運動の中から、過激な分子がPKK(クルディスタン労働者党)を結成し、このPKKは過去に多くのテロ活動を行い、国際的にもテロ組織として認定されるに至りました。

イラクでは北部を中心に相当数のクルド人が住んでおり、既にこの地域にはクルディスタン地域政府(KRG)と呼ばれるクルド人の自治区が存在します。

イラクで猛威を振るったイスラム国(IS)との戦いにおいて、KRGはPKKの力を必要としてきました。

しかしイスラム国は弱体化し。PKKの力は不要となり、KRGはPKKを取締る様になってきた様です。

この辺りの現状を米誌Foreign Policyが「Iraqi Kurds Turn Against the PKK」(イラクのクルド人はPKKに背を向けた)と題する記事で取り上げました。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Policy記事要旨

イラクの北部に位置するクルディスタン地域政府(KRG)クルディスタン労働者党(PKK)の対立は激しさを増しています。

10月8日のクルド国境当局者の暗殺と、11月初旬の主要パイプラインとKRG兵士への攻撃は、KRGとPKKの間の長い緊張関係に火をつけました 。

PKKは、米国、EU、トルコにより長い間テロ組織に指定されてきました。

また、2008年に米国から麻薬密売組織としても指名されています。

KRGとPKKの対立は、長い間続いています。

しかし、2004年当時、イスラム国は、広大なイラク領土を占領し、KRGの首都であるエルビル市も標的としていました。

PKKはイスラム国との戦いにおいては、確かに役立ちました。

しかし、今年に入ってから、イスラム国の脅威が大幅に減少したため、クルディスタン自治政府(KRG)は「イラク北部のPKKに対して行動を起こさなければならない」とイラク中央政府に行動を起こすよう促しました。

クルド人主導の人民防衛隊(YPG)内の多くは、シリアのイスラム国に対する戦いに参加する前に、トルコと対立するPKKの一部として何年も戦ってきました。

このため、シリアのイスラム国に対してYPGと一緒に戦った、西洋人を含む外国のいわゆるボランティアはYPGに同情を感じています。

一方、クルディスタン南東部のPKKに対する伝統的な支持も変化し始めました。

地元の人々は、この地域のティーンエイジャーがPKKによって「誘拐」され、戦闘員として採用されていると報告しています。

いくつかの国際機関は、PKKとその疑惑の「関連会社」(シリア北東部の米国が支援し、クルド人が主導するシリア民主軍(SDF)など)が引き続き少年少女を戦闘員として利用していることを批判しています。

バイデン 氏のクルドへの思い

何十年もPKKに所属し、現在は人民防衛隊(YPG)の最高軍事司令官であるアブディは、11月7日のインタビューで、バイデン政権について楽観的であると語りました。

アブディはPKKリーダーのオジャランの友人であり、バイデン氏は、親クルド人の政治家として広く知られています。

2016年初頭、バイデン氏はPKKを「イスラム国と同様に脅威」であり、「テロリストグループ」であると述べました。

多くの西側のメディアとは異なり、次期大統領は、クルド人の全ての組織が同じ目的を共有しているという間違った考え方に染まっていません。

しかし、バイデン氏はYPGをPKKの一部とは見なしていません

トランプ大統領がシリア北部のクルド地域から軍隊を撤退させた後、バイデン氏は、「トランプはシリア民主軍であるYPGを裏切った」と述べました。

それでも、YPGの現在の指導者がPKKと数十年を共に過ごしたという事実、そしてその多くの人々がテロ組織に関連していたという事実は、イラクでのPKKの取り締まりがシリア東部のYPGにも影響を与えることを意味します。

問題の本質

PKKやらKRGやらYPGなどと沢山の組織名が出てきて混乱されたかと思いますが、現在の問題の本質は次の様にまとめる事ができます。

  1.  クルド人のテロリスト集団であるPKKは昔から暴力を振るう無法者と嫌われてきましたが、イスラム国に対抗する上でクルディスタン地域政府にとって必要悪であると大目に見られてきました。
  2. しかしイスラム国の勢力が衰退する中、PKKは用無しと見なされ、掃討作戦がクルディスタン自治政府とイラク中央政府の協力の下、進められています。
  3. 問題を複雑にしているのは、PKKと関係の深いシリアのYPG(シリアのクルド戦闘組織)を米国政府はイスラム国に対する友軍として支援してきた事です。バイデン 氏はYPGへの支援を公言しています。
  4. トルコはYPGをPKKと関係の深いテロリスト集団と見なしていますので、今後、米国トルコ両国間の火種となる可能性があります。

クルド人の自分の国を作りたいという願望は、トルコ、イラク、シリア、イランいずれの政府からもNOが突きつけられ、厳しい弾圧を受けてきました。

今後の見通しもかなり厳しいと思いますが、バイデン 氏はイラク三分割論を(北部クルド、中央部スンニ派、南部シーア派)唱えた事があり、この可能性は残っていると思います。

しかし、この案を実現するためにも、テロ組織として広く認知されているPKKを封じ込める必要があるでしょう。

 

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豪州ワインに高関税を課した中国に対する欧州の視線

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中豪関係の悪化

オーストラリアと中国の対立は、遂に豪州ワインに200%を超える高額関税をかけるというところまでエスカレートしました。

オーストラリアとQuadと言われる安全保障上の協力体制を作り上げている米国や日本では、中国とオーストラリアの対立はマスコミにもしばしば登場しますが、これまで欧州メディアではあまり注目されていませんでした。

しかし、今回のワインに関する制裁関税は、ワイン大国フランスの肝を冷やした様です。

フランスの経済紙Les Echosの記事を今日はご紹介したいと思います。

タイトルは「La Chine accentue ses représailles commerciales pour faire plier l'Australie」(中国はオーストラリアを屈服させるために経済制裁を強化した)です。

Les Echos記事要約

「世界中の民主主義国家は、オーストラリアに対する中国の行動に注意を払うべきだ」と、中国を専門とするドイツのシンクタンクであるMericsのアナリスト、ポゲッティ氏は述べました。

オーストラリアとの外交的戦いの中で、中国政府はほぼ毎日の様に、オーストラリアへの圧力を強め、報復措置を強化しています。

石炭、銅、牛肉、大麦に続いて、中国当局が標的としたのはオーストラリアのワインです。

今週末の時点で、中国に輸入されるオーストラリアのワインは、最大212%のアンチダンピング追加課税の対象となりました。

この決定は金曜日に中国商務大臣によって発表され、中国のワイン産業に「重大な損害」を示したアンチダンピング調査の結果だと彼は説明しました。

この決定はオーストラリアに驚きを持って受け止められ、政府は世界貿易機関(WTO)に提訴する意向を発表しました。

ワイン業界にとって経済的影響は甚大です。

中国はオーストラリアワインの最大の買い手であり、今年は9月までに7億3500万ユーロ(約900億円)の輸入がありました。

 

オーストラリアが2018年にHuaweiによる5Gネットワ​​ークの構築を禁止して以来、両国間の緊張は高まりました。

オーストラリアのモリソン首相が新型コロナの発生源に関する国際調査を要求した為、関係が更に悪化しました。

「オーストラリアは冷戦時代のイデオロギー的偏見に固執している」と中国外務省の広報官は批判しました。

中国の「戦狼外交(最近中国の外交官が採用する攻撃的外交スタイルを指す)」は豪州に対する公式な非難をオーストラリア政府に提示しました。

翌日、豪紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」は、キャンベラの中国大使館から送信された14項目の非難を発表しました。

非難の中には、新型コロナ発生源に関する独立した機関による調査、Huawei事件そしてオーストラリア政府の代理人による「中国共産党に関するスキャンダラスな非難」さえも含まれています。

「中国を敵に回せば、中国が敵になる」と中国の外交官はオーストラリアのマスコミに警告したと伝えられています。

「中国はオーストラリアの主権と民主主義に公然と挑戦しています」と先述のMericsのポゲッティ氏は述べています。

中国の非難リストは、独立した研究、メディア、表現の自由を攻撃し、合法的な外国の政策選択を妨害する試みです。

 

両国関係は行き詰まっています。

オーストラリアは、中国と閣僚レベルの対話を確立しようと何ヶ月も試みましたが、実現していません。

「中国は妥協を望んでいない」と中国政府は警告し、二国間関係の悪化はオーストラリアによる「一連の間違った行動と発言」に起因すると述べました。

オーストラリア政府はモリソン首相の決意が固いため、北京からの圧力に屈することはないでしょう。

米国の伝統的な同盟国であるオーストラリアは、中国と非常に強い経済関係を築いてきました。

オーストラリアにとって、中国は最も重要な輸出市場です。

中国は大国らしい振る舞いを

「中国のワイン産業に甚大な損害を示した」と中国政府は主張している様ですが、そもそも中国に守るべきワイン産業があるのか、何故オーストラリアワインだけを標的にするのか大いに疑問があるところです。

自分に歯向かうものは徹底的に潰すというやり方は、大国らしい余裕を感じさせません。

まあ、トランプ大統領のやり方も似た様なものですので、中国だけを非難するのはフェアではないかも知れません。

注目すべきは、中国のオーストラリアに対する乱暴狼藉ぶりが、欧州のメディアで取り上げられ始めている点です。

フランスやドイツにとっても、中国は大事なお客さんです。

多少の問題には目をつむって、市場としての中国を優先させてきた彼らですが、どうも様子が変わってきた様です。

今日取り上げた記事が掲載された仏紙「Les Echos」のオーナーはルイ ヴィトングループです。

最も中国市場の恩恵を受けているグループが所有する新聞社が、中国に批判的な記事を発表した事自体、欧州が中国のやり方に疑問を感じる様になってきた事を示しています。

情報隠蔽、法の支配の軽視、人権問題、隣国への遠慮ない領海侵犯、そしてオーストラリアの様な国への制裁に関して、欧州の世論も徐々に中国に対して厳しくなっています。

バイデン 政権はこういった欧州や他の民主主義国家と連携して、広範な世論形成を試みるべきと思います。

それが中国を変える唯一の方法ではないでしょうか

 

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イランの核科学者殺害の真相

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テヘラン郊外での殺害劇

イラン核研究者のトップと言われるファクリザデ博士が何者かにテヘラン郊外で殺害されました。

この殺害にはイスラエルが関与しているとの報道もありますが、何故この時期に殺害が企てられたのでしょうか。

この殺害の狙いや主要プレイヤーの思惑について、欧米メディアの多くが分析を行っています。

今日はその中から米CNNを取り上げます。

CNNの記事を取り上げるのは久しぶりですが、今回の記事「Iran suffers more humiliation with killing of nuclear chief. But no one in the world's most febrile region wants war」(核開発のトップの暗殺はイランにとり屈辱的であるが、世界で最も緊張したこの地域の誰もが戦争を望んでいない)は鋭い分析を加えていると思います。

CNN記事要旨

イランの敵対者の明らかな目標は、米国新大統領が就任する迄の50日の間に、可能な限りイラン当局を挑発する事でした

イランの最高指導者等はイスラエルの関与を非難しましたが、この緊張している地域では、イランの最も著名な核科学者ファクリザデ氏の明らかな暗殺の後でも、利害関係者の誰もが戦争を望んでいません。

まず、米国はどうかといえば、トランプ大統領のチームは、イランの強硬派をけしかけていますが、イランとの広範な紛争は、彼らの望むところではありません。

彼らはアフガニスタンとイラクからの早期撤退に忙殺されています。

イランとの全面的な紛争に踏み切る余裕はありません。

トランプ政権は、バイデン 政権でのイランとの和解を不可能にするために、可能な限り多くの憎悪を生み出したいと考えています。彼らの狙いはそれだけです。

しかし、それは、バイデン 氏に利益をもたらす可能性のあるトランプ政権の誤算かもしれません

次期大統領のバイデン氏は、2015年締結した核合意を再開したいと考えています。

バイデン 氏はトランプ大統領を非難する事が可能で、イランとの交渉はよりまとまりやすくなる可能性があります。

 

イランも、強硬派は騒いでいますが、本格的な紛争に耐える状況ではありません。

新型コロナの影響は甚大で、その経済はボロボロです。

今年1月に米国のドローンによって最も著名な軍人であるソレイマニ将軍を暗殺され、公然と報復することを約束したにもかかわらず、まだ報復していないのですから、ファクリザデ氏の死は開戦の理由にならないでしょう。

イランは明らかに長期戦を想定しています。

ですから、イランが具体的な復讐に出る可能性は少ないでしょう。

 

イスラエルのネタニヤフ首相は、2018年4月に演説で今回殺害されたファクリザデ氏を「この名前を覚えましょう」と語りました。

中東に核を拡散させない強い意欲をイスラエルは持っていますが、イスラエルも現在、良い状態ではありません。

彼は来年、選挙の洗礼を受ける予定で、イスラエルを喜ばせて来た盟友トランプ大統領を失います。

イスラエルはイランに対して一人で対峙したくはないでしょう。

 

今回の暗殺劇には3つのメッセージが託されています。

一つ目は、イランの強硬派を刺激し、イランと米国との外交を困難にする事です。

二つ目は、イランの強硬派が彼らの最も重要人物さえ守れないほど弱いというメッセージです。

そして三つ目は、次期バイデン政権へのメッセージです。

この殺害は、イスラエルがホワイトハウスのために有用で攻撃的なことを行うことができるというメッセージをバイデン 氏に送っています。

しかし、バイデンチームにとって、ネタニヤフ首相は同盟ではなく頭の痛い問題となる可能性が高いでしょう。

悪い警官がイランの最も需要な人的資源も殺害できる事を示しましたが、それはバイデン氏が良い警官になる事を妨げません。

中東は、世界の他の地域とは異なり紛争のリスクが高い緊張した地域です。

しかし、イラン、米国、イスラエルには、緊急に紛争を起こす理由がありません。

バイデン 大統領が就任するまで、戦争を扇動する様な動きが見られるかもしれませんが、実際に戦争が起きない事を祈りましょう。

ペルシャ人の知恵

ポンペオ米国務長官(右)とイスラエルのネタニヤフ首相は今年11月19日にエルサレムで会合しています。

それ以外にもポンペオ国務長官はサウジでネタニヤフ首相と密会したとも伝えられており、両者が今回の暗殺について事前に協議した可能性は十分あります。

イスラエルは仮想敵国であるイランが核弾頭を持つことだけは絶対阻止したいと考えており、今後も挑発的な行為に出る可能性があります。

しかし、イランはこの挑発行為には乗らないと思います。

イラン人は非常に賢い民族です。

ペルシャ人は数千年前から大帝国を築き、商人や官僚として優秀とされてきました。

インドのムガール帝国などは、トルクマーンと呼ばれるトルコ系の軍人とペルシャ人の官僚が支えた帝国と言われています。

彼らは、イスラエル側の挑発には乗らず、バイデン 政権の誕生を辛抱強く待つと思います。

もし核合意が再度合意に至り、イランに対する経済制裁が解除されていけば、イランはそのポテンシャルを発揮する可能性があります。

人口8千万人を超え、優秀な人材と豊富な資源を持つイランは本来、中東をリードする存在です。

米国は中国に対して「関与政策」を適用し、失敗しましたが、イランにはこの関与政策が成功するかもしれません。

何故ならイラン国民(政府ではありません)は、実は米国が大好きだからです。

日本も昔から友好関係を持つイランと米国の関係正常化に貢献できるかもしれません。

 

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米中関係の将来を占う人権問題

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香港の民主運動風前の灯か

世界中の注目が米国大統領選に注がれている間に、見逃せない出来事が起きています。

香港では中国政府により立法会(香港の国会にあたる)から4人の民主派議員が議員資格を剥奪され、これに反発する民主派議員が全員辞職するという事件がおきました。

今年盛り上がりを見せていた香港の民主化運動は、中国政府による国家安全維持法の導入を契機に、一気に力を失ってしまいました。

今回の民主派議員の除名も、米国が大統領選で混乱している最中を狙った中国政府の一手と言えるでしょう。

バイデン 政権及び同盟国は、中国に対して今後どの様に対処すべきでしょうか。

米誌Foreign Affairsに「Biden Must Stand Up to China on Human Rights - The United States Too Often Finds Reasons Not to Act」(バイデン 氏は中国に対して人権を主題に立ちあがるべきだ - 米国はこの観点で行動する事を避けたがる)と題した論文を掲載しました。

論文の寄稿者は米国のHuman Rights Watch(人権NGO)の中国責任者を務めるSophie Andersonさんです。

かいつまんでご紹介したいと思います。

Foreign Affairs論文要旨

「中国政府高官との会合で、人権について密室ではなく、公けに問題提起して下さい。。」

上記は、Human Rights Watchが何十年にもわたって歴代の米国政権に対して行った要請でした。

バイデン氏が権力を握る準備をしている間、中国政府は、百万人のウイグル人を恣意的に拘留し、ウイグル人とチベット文化を破壊し、少数民族と宗教的少数派を組織的に攻撃しています。

中国当局は活動家や弁護士を攻撃し、監視を強化し、香港の民主主義への希望を粉砕しました。

バイデン政権は、中国の人権侵害を外交政策と国内政策の両方に課す必要があります。

なぜなら、抑圧の大規模なキャンペーンが中国だけでなく、米国でも人々を脅かしているからです。

企業、大学、および移民した中国人らは、中国政府の圧力を受けています。

過去の米国政府は、中国に政治犯を釈放するよう呼びかけ、著名な批評家に亡命を申し出たりしました。

しかし、米国が人権に比較的低い優先順位を置く事や、その一貫性のない努力が災いし、米国政府の試みは成果を生みませんでした。

 

トランプ政権は、中国共産党の支配の虐待的な性質について率直であり、人権侵害を犯したと信じられている中国政府の役人、機関に制裁を課すまでに至っています。

しかし、トランプ政権は、結局のところ、その非人道的な移民政策と人権法に対する無視を通じて、国内外の人権に対する米国のコミットメントを大幅に低下させてきました。

 

米国は、他の問題に関する中国の協力を勝ち取りたいと思うばかりに、人権問題を劣後させてきました。

何十年もの間、米国の政策立案者は中国が貿易と経済の自由化に門戸を開いた場合、人権がその後、擁護される様になるだろうと考えました。

実際は、そのような予測は外れ、人権侵害が急増しています。

バイデン政権は、中国政府の人権侵害について、一貫した立場を取り、他の外交課題に絡めて取引をしない事が重要です。

 

中国政府は、国際規範の侵食に向けて驚くべき成果を上げて来ました。

国連は彼らにとって重要な舞台となりました。

そこで、中国政府は人権専門家に嫌がらせをし、独立した市民グループを訴訟から除外しようとしました。

中国政府は他の政府に圧力をかけ、他国の人権侵害を支持しました。

中国当局者は、国際的な批判に敏感で、熱心に対応します。

たとえば、彼らは、人権侵害を隠蔽し、ウイグル人に対する政策への賛同を得るために、何百人もの外交官、ジャーナリストの現地訪問をアレンジしました。

新疆ウイグル自治区での人権侵害は、国際的な捜査を行い、中国当局者に説明責任を果たさせるべきです。

 

バイデン政権下の米国は、国連での中国の反人権運動に対抗するために、志を同じくする民主主義の連合を主導する必要があります。

しかし、中国への対抗措置は国連に限定されるべきではありません。

昨年の夏、北京は香港に厳格な「国家安全治安法」を課しました。

米国、カナダ、オーストラリア、英国等は、それに対して香港との犯罪人引き渡し条約を一時停止しました。この様な措置は、中国の政策を変更させる可能性があります。 

 

バイデン政権は、中国政府の人権に対する敵意を外交政策の優先事項とするだけでなく、国内政策の優先事項としても扱うべきです。

米国の大学で勉強したり働いたりしている中国人は、中国政府が教室での話し合いを監視し、家族を脅迫するなどして、彼らをコントロールしようとしていると報告しています。

中国で事業を行っている米国企業が、中国で人権侵害を犯す事を防ぐ適切な措置も取る必要があります。

 

中国国内での人権侵害は世界的な影響を及ぼします。

それを明らかにするものがなければ、新型コロナの初期の感染は中国政府の検閲により隠蔽され、更に大きな被害をもたらした事でしょう。(注:中国の医師がコロナの存在をSNSで拡散したため、世界中にその存在が知られたが、中国政府はこの医師の告発を断罪した事を指す。)

習政権は、4年前よりもさらに世界の人権を脅かしています。

バイデン政権はその前に多くの課題を抱えていますが、中国の政策において人権を優先し、同盟関係を復活させ、人権機関を強化することから始めるべきです。

バイデン政権は人権に本腰を入れられるか

米国はナチスドイツや大日本帝国の野望に終止符をもたらす上で、主要な役割を果たしました。

しかし、その後は外交戦略において、お世辞にも成功したとは言えません。

その極め付けはベトナム戦争でしたが、イラクやアフガニスタンにおいても、彼らが残したものは終わりのない混乱でした。

彼らが失敗した理由は何だったのか考えてみると、やはり米国政府が自由民主主義を支援すると言いながら、腐敗した専制的政府であっても親米であれば支持してしまっている事に尽きるのではないでしょうか。

今後の中国との覇権争いは、長く続きそうです。

米国がリーダーの位置を維持するには、同盟国との絆が不可欠で、絆を共有する上で必要な大義は、人権、自由民主主義でしょう。

外国に人権を押し付けられても困ると言われるかもしれませんが、香港やウイグルで人権を抑圧された人々を救えるのは、米国を初めとする民主主義国家しかありません。

 

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